第48話 魔物の強者が集う闘技大会の開始
ピンポンパーンポーン
「ん? 何かのお報せか?」
「昼休憩は終わったじゃ。次は何のお報せじゃ?」
「また休憩時間かしら?」
いくつかの種目を、マリーちゃん達と一緒に見て回っている途中、またお報せ前の効果音が会場に響き渡った。
昼休憩から時間が結構経っているから、また休憩時間でも入れるのかな?
それとも、迷子のお報せとか……?
「皆様にお知らせ致します。闘技大会参加者を始め、関係者の方々は、会場までお越し下さい。まもなく闘技大会が開催されます。……繰り返します」
アナウンさんの声で会場に響くお報せは、闘技大会を開催する事のお報せと、関係者を集める内容だった。
「闘技大会じゃ!」
「ついに来たか……」
「私は参加者じゃないけど、頑張らないとね」
俺が参加者で、マリーちゃんが審判、カリナさんは観客を守るため……と三人とも闘技大会関係者だ。
ついに始まったかと、じんわりと湧き上がって来る緊張を感じつつ、会場へと足を向けた。
訓練は十分にしたから、ある程度は大丈夫だと思うけど……優勝できるかなぁ……?
いや、カリナさんやマリーちゃんには、優勝を目指すと言ってるんだ、勝って優勝するつもりで挑まないとな!
「参加者の方はこちらでーす!」
「俺は、あっちか……」
「ユウヤパパ、頑張るのじゃ!」
「ユウヤさん、頑張ってね」
「あぁ、出来る限りの事をやって来るよ」
会場の入り口で、案内をしているサキュバスっぽいお姉さんが、参加者を案内しているようだ。
ここでカリナさんやマリーちゃんとはお別れだ。
審判と壁役の二人はスタッフ側だから、俺とは別の場所へ。
応援されて体に力が入るのを落ち着かせつつ、お姉さんの案内で参加者控室へ向かう。
闘技大会の会場は運動場の端にあり、徒競走のフィールドよりも広い場所を取っている。
武舞台と呼ばれるステージがいくつか設置され、その周りを囲むように観客席が作られていた。
武舞台は、ひと際大きなステージが一つと、その周りに半分くらいのステージが4つだ。
各参加者は、くじ引きをして小さい方のステージで予選を行う。
同時進行されるステージの予選を5連勝すると、本戦の決勝トーナメントに出場できる……というルールだな。
この時、本戦の審判を務めるマリーちゃんとは別に、それぞれ予選用の審判も用意されてるはずだ。
「えーっと、控室は……ここか」
ステージや観客席から離れた場所にいくつか設置されてるテントは、他の場所のテントとは違い、外からは見えないようにできている。
その中に体の大きさ別に分けられて待機し、呼ばれたらステージへと上がる……という段取りだ。
「えーと……入る前にくじを引く? ふむふむ……これか。出た数字を書いて、中に入る……と」
テントの前に設置されてる案内を読むと、まずはくじを引き、その数字と名前を隣に用意されてる用紙に書き込み、それから中に入るとの事だ。
箱の中に手を入れ、中から1枚の用紙を取りだし、書いてある数字を見る。
「501番……タクミ、と」
用紙に数字と名前を書き込む。
どうやら、同じ数字を引いた者同士で戦い、その後は勝った者同士の中で数字の近い選手で予選を行っていくようだ。
しかし……500番台まであるとは、かなりの数が参加してるようだな。
「さてさて、どうなる事やら……」
数字と名前を書き込んだ後、テントの中に入り、いくつも並んでいる椅子の一つに座り、心を落ち着ける。
これから戦うという事で、高揚している部分と緊張している部分、さらに恐怖を感じる部分があるから、戦闘開始前に少しでも落ち着けとかないとな。
ここに知り合いでもいれば、話して落ち着く事もできたんだけど……バハムーさんとかは大型だからそれ用のテントだろうしなぁ……。
「あ、アムドさんがいた……」
「おぉ、ユウヤ様か。この闘技大会、共に頑張りましょうぞ!」
「はい。どこまでできるかわかりませんが、全力を尽くして頑張ります」
「はっはっは、魔界竜巻を押し返したその力、しかと見させてもらいますぞ。それでは……」
「……行ってしまった」
少し話しただけで、アムドさんは離れた場所に行ってしまった。
そこで精神統一をするようで、緊張感をも纏いながら、誰も寄せ付けないような雰囲気だ。
騎士っぽい人だから、闘技大会に正々堂々、全力で挑むつもりなんだろう。
四天王という立場から、悪い成績は残せないだろうしなぁ……。
仕方ない、俺は俺で心を落ち着けるとしよう。
訓練で戦う事をして来たけど、実戦は初めてだから、落ち着かないのは仕方ないけどな。
「ただいまより、闘技大会を開催致します! 今回集まった者達は、いずれも強者ばかり! どんな戦いを見せてくれるのか、皆様、期待してお待ち下さい!」
「始まった、か……」
アナウンさんの声が会場に響き渡り、大きな歓声がそれに答えているのが、テントの中にいる俺達にまで聞こえる。
お報せの声よりも生き生きしているようで、アナウンさんを実況者にするよう、説得して良かったな……。
「おーっと、決まったぁ! 198番、アムドさん! その素早い剣技で相手を圧倒! 実に見ごたえのある素晴らしい試合でした!」
「アムドさん、勝ったんだ。ま、そりゃそうか……」
少し前に呼ばれて、テントを出て行ったアムドさん。
実況をしているアナウンさんの声を聞くに、木剣を使って相手を打ち負かしたようだ。
四天王の1柱だし、強そうな雰囲気だから本戦に残るんだろうなぁ。
「501番、タクミさん。こちらへ」
「……はい」
番号と名前を呼ばれ、俺の出番だ。
テントを出る時、1戦目を終えたアムドさんとすれ違ったけど、戦闘を終えてすぐなのか、ただならぬ気迫が見えて話しかけられなかった。
……敵として当たりたくないなぁ……。
「いよいよやって参りました! 闘技大会参加者の中で唯一の人間! 我らが魔王、マリー様の親代わりをし……何と! あの魔界竜巻をも押し返したという者の一人! 501番、タクミ様です!」
「……仰々しいなぁ。魔界竜巻を直接押し返したのは、カリナさんなんだけど……」
「ユウヤパパ、頑張るのじゃ!」
「ユウヤさん、頑張って!」
ステージに上がると、観客とアナウンさんが俺に注目しているのがよくわかる。
まぁ、参加者唯一の人間だから仕方ないか。
大きなステージに、豪奢な椅子を持って来て座り、そこから観戦しているマリーちゃんの応援。
ステージの周りを、他の対魔法スタッフと一緒に動きながら、俺を応援してくれるカリナさん。
その二人の姿を見て、注目されてる事を気にしないよう気を引き締めて、対戦相手を見た。
……マリーちゃん、本戦の審判までそこで観戦するんだ……中心で周囲を見るのも大変そうだな。
「中々の強者の様子。是非手合わせ願いたい……」
「よろしくお願いします」
俺の対戦相手は、アムドさんと同じ種族なのか、動いている中身の無い鎧。
木剣を持って構える姿と、喋る雰囲気は、何となく武士っぽい。
「それでは、開始してくださーい!」
「ゆくぞ!」
「501番、サムラさん、合図と共にユウヤ様へと突撃! この攻撃を、ユウヤ様はどう対処するのか!?」
控室に案内してくれた、サキュバスっぽい恰好をしているお姉さんが、試合開始の合図をする。
予選の審判はこの人達のようだ。
その合図と一緒に、相手の選手が俺に向かって木剣を構えて突っ込んで来る。
一直線なその動きは、普通に考えたら早いんだろうけど、マリーちゃんとの訓練で攻撃される事に慣れていた俺にとっては、少し遅く感じる。
迫って来る鎧さんを見つつ、俺は能力を発動するため、頭の中でいつものセリフを浮かべた。
……身体強化(極限)!
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