第49話 予選最終戦はキュクロさん


「なにっ!」

「避けるのは、散々練習したから得意なんですよ……はっ!」

「ぐあ!」

「あーっと! ユウヤ様の華麗な動き! サムラさんの攻撃を避け、反撃だぁ!」


 木剣を横に振る鎧さんの攻撃をジャンプして避け、すぐに着地をして足に力を込める。

 力を込めた足を踏ん張って、脇にも力を入れて思いっきりフックを放つ!

 そのフックは、相手選手の顔……兜の部分に当たり、大きく体を弾き飛ばした。


「場外! 勝者、ユウヤ!」

「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

「決まりましたぁ! ユウヤ様、一撃で相手を仕留めました! その華麗な動き、まさに魔王様の父親に相応しいと言えましょう!」

「えーと、どうもどうも……」


 声援に手を上げて答えつつ、勝利が確定したのでステージを降りる。

 アムドさんと同じ種族っぽかったから、素早い剣技とかがあるのかと思ったけど、動きはそんなに動きは速くなかった。

 これも、マリーちゃんとの訓練のたまもの……かな?

 避けてから攻撃に移る動作も、スムーズにできるようになったしな。


 というか、相手の人……俺の拳が当たった部分がへこんでるようだけど……大丈夫かな……?

 あ、立った。

 こっちに向かって礼をしてるな、俺も失礼の無いように……と。

 こういう礼は大切だよなぁ……あ、悔しがってる……。


「あっという間に勝負を付けてしまったユウヤ様! 続く予選の対戦も勝ち続けられるのか!? 今後の動向が楽しみです!」


 アナウンさんの実況を聞きながら、控室になってるテントへと戻るため、ステージを降りた。



 それから対戦する事3回、ほとんどが突撃して来る相手の攻撃を避け、その隙に拳か蹴りを叩き込む事で勝ち進んだ俺。

 順調なのは、マリーちゃんとの訓練のおかげだろうな。

 あれが無かったら、戦い方もわからず負けていた可能性もある。

 闘技大会が終わったら、マリーちゃんにもしっかり感謝しとかないと……。


「501番、ユウヤさん、こちらへ……」

「はい」


 本戦に出場できるかが掛かった最後の戦い。

 今4連勝中だから、あと1回勝てば本戦に出られる。

 何度かステージに出て戦う事で、緊張は薄れて来たけど、油断しないようにしよう。


「やって参りましたユウヤ様! その快進撃は、この闘技大会において観客を楽しませている事間違いありません! 対するは四天王が1柱、キュクロ様です! 今大会屈指の好カードと言えるでしょう!」

「……相手はキュクロさんか」


 ステージに上がり対戦相手を待つ中、アナウンさんの実況で相手がキュクロさんである事を知る。

 四天王の皆は順調に勝ち進んでたみたいだから、どこかで対戦する事になるとは思ってたけど、予選でとはなぁ。

 まぁ、本戦も予選も、変わらず全力で戦うだけだ。


「キュクロ様の登場です! これまで、その巨体を生かした戦い方により、対戦相手に勝って来たキュクロ様! ユウヤ様とキュクロ様、今回はどんな戦いを見せてくれるのか、目が離せません!」


 どうでも良いけど、アナウンさん……俺の戦闘だけじゃなく、他のステージで戦ってるのも実況しないのかな?

 人間という事で注目されてるから、俺の方にばかり偏るのは仕方ないのかもしれないけど……。


「やっぱり残ったか、ユウヤ様」

「キュクロさん。そちらも無事に勝ち進んでるようですね」

「まぁな。四天王に数えられてるうちは、そこらの魔物に負けるわけにはいかねぇしなぁ」

「四天王も、大変なんですね……」


 ステージに上がって来たキュクロさんと話しながら、その巨体を見る。

 初めて見た時からそうだったけど、やっぱり大きいな。

 俺なんて、手に掴まれたらそのまま握りつぶされそうな大きさだ……。


 本人が言うには、力ではなく器用さが自慢らしいけど……体が大きいという事は体重も重いという事。

 その体から出される攻撃は、簡単に俺を場外へ叩き出しそうな威力が予想された。

 俺の倍以上ある棍棒を持ってるってだけで、迫力あるよなぁ。

 一つ目の巨人が棍棒……どこかのゲームみたいだ。


「さぁ、お互い見合っています! 会場の皆様には、この緊張感が伝わっていますでしょうか!? これは強者の戦い! 期待が持てます!」

「始めてくださーい!」


 アナウンさんが実況を響かせながら、言葉が途切れるのを待ち、審判のお姉さんが開始を告げる。


 身体強化(極限)!


「ふっ!」

「お?」


 開始の合図と同時、今回は俺からキュクロさんに向かって走る。

 今までは相手から来るのを待ってたけど、キュクロさん相手だと避けて攻撃……というのも難しいかもしれないからな。


「はぁっ!」

「うぉ! やるなぁ、ユウヤ様……」

「そっちこそ……」


 キュクロさんに迫り、途中でジャンプして、キュクロさんの顔めがけて蹴りを放つ。

 それを軽々とした動きで後ろに下がって避けたキュクロさんは、俺の動きを見てニヤリとした。


「今度はこっちから行くぜ!」

「させませんよ!」


 上段から振り下ろす構えのキュクロさんだが、攻撃をさせる前に俺から仕掛けるべきと判断。

 すぐさまキュクロさんの足へ向かって加速、足元に取り付く。

 これで、キュクロさんも棍棒を振り下ろせ……。


「ふぐっ!」


 振り下ろせないと思ったのだが、サッと後ろに飛びのいたキュクロさんが、頭上に棍棒を振り下ろした!

 巨体のくせに、結構機敏な動きをするんだな……。


「へぇ、あれでも沈まないんだな……」

「身体強化(極限)のおかげですよ」


 感心したように言うキュクロさんだが、実は結構痛い。

 移動しながらだから、威力は半減してるみたいだったけど、体重の乗った一撃は頭に重く響いた。

 身体強化(極限)が無かったら、死んでるんじゃないか?


「はっはっは! それがあるから、俺も全力で行ける!」

「ちょっとは人間を甘く見て欲しいんですけど……ね!」

「それはできねぇなぁ。ユウヤ様は魔物の誰もが成し遂げなかった、魔界竜巻へと向かった。そんなユウヤ様相手に、油断なんでてきるわけがねぇ!」

「そういえば、そうでしたね……はっ! ふっ! てや!」

「お! ぬぉ! ぐぅ!」


 話しながら、キュクロさんの足めがけて放った足払いは、さらに後ろに飛びのいたキュクロさんによって避けられる。

 向こうの攻撃が当たったら、不利だと判断し、そのまま連続攻撃へ移る俺。


 キュクロさんの顔面目掛けて飛び蹴りを放ち、それを腕で防御されたら、その反動ですぐに着地し、さらに飛び上がる。

 腕が上がってる事を確認し、今度はお腹へ飛び蹴り。

 さらにそれが当たったら、拳を握ってもう一度お腹へ叩き込む! 

 叩き込んだお腹への一撃を利用し、そこから離脱して着地。

 キュクロさんが痛みに耐えて、掴みに来たら危ないからな。


「ユウヤ様の、目にもとまらぬ連続攻撃! これにはさしものキュクロ様も、悶絶か!?」

「くぅ……効いたぜ、ユウヤ様。やっぱり強いなぁ……」

「頑張って、訓練しましたからね。まだまだ行きますよ! ふっ! てや! はぁ!」

「ぬぅ! くっ! ふん!」


 アナウンさんの実況を聞き流し、再びキュクロさんに向かって体を突撃させる。

 もう一度お腹に攻撃を加えようとしたところで、キュクロさんが腕を下げてガード。

 また地面に着地して、今度は顔面へ向かって飛び蹴りを放つ!

 今度は予想していたのか、すぐに腕を上げてガードしたので、さらに着地して、今度は足払い。

 転がす事はできなかったが、たまらずまた後ろに下がるキュクロさん。


「くぅ……このままやられっぱなしじゃいられないな! ふん!」

「当たりませんよ! てやっ! これで、終わりですっ!」

「何!? くっ! だがまだま……何だと!?」


 起死回生とばかりに、横殴りに棍棒を振るキュクロさん。

 その棍棒をジャンプして避けつつ、体勢が崩れてるキュクロさんの肩を蹴る。

 ダメージはあまりないが、さらに体勢を崩したのを見て好機到来と、着地してすぐ動く。

 体制を立て直して反撃を、と考えていたらしいキュクロさんは、俺の追撃を胸部分に当てられて後ろに押される。

 追撃は、全力を込めた体当たりだ。

 そのままキュクロさんを体ごと押して、後ろに倒す。

 キュクロさんが倒れる寸前、胸に手を付いてすぐに離れ、ステージに着地。

 キュクロさんは後ろに倒れ、ステージから落ちて行った……。



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