第43話 マリーちゃんの熱い出迎え



「疲れたろう? ここからは俺に乗って帰ると良い。マリー様が首を長くして、お前たちの帰りを待っているからな」

「はい、お願いします」

「お願いしますね」


 乗せてくれると言うバハムーさんの背に乗り、俺とカリナさん、クラリッサさんを乗せて城へと飛び立つ。

 キュクロさんは、その巨体を生かして走って帰るようで、アムドさんは鍛錬になるとキュクロさんに付いて行くようだ。

 リッちゃんは、先に城へ報せると言って、何か呪文のようなものを唱えて消えて行った。

 高速移動とか、転移とかの魔法なんだろう。

 しかしアムドさん……鎧の体でも、走る事で鍛錬になるのかな?



「ユウヤパパ、カリナママじゃ! お帰りじゃ!」

「おっと。ただいま、マリーちゃん」

「ふふふ、元気ね。ただいま、良い子にしてた?」


 バハムーさんに運ばれて城に着き、中へ入るとすぐにマリーちゃんの出迎え。

 走って来るマリーちゃんを、俺とカリナさんが二人で抱き留める。

 小さい体だから体重は軽いはずなのに、結構な衝撃があった……魔王としての力かな?

 ま、それだけ俺達の帰りを待ちわびてたって事だろう、勢いよく抱き着いて来るほどに。


「ユウヤパパとカリナママは凄いのじゃ! これまで魔界竜巻が発生したら、ただ過ぎ去るのを待つだけだったのじゃ! それを、進行方向を変えるなんてじゃ!」

「ははは、マリーちゃんの親はすごいんだぞー?」

「ふふふ、マリーちゃんのために頑張ったわ」


 これまで誰も対処出来なかったらしい魔界台風。

 俺とカリナさんの能力を活用して、なんとか押し返す事が出来た。

 偉業を成し遂げた……なんて実感は無いが、マリーちゃんが喜んでくれてるのが一番のご褒美だ。

 ちょっと調子に乗りそうになるな、これは。


「良かったのじゃ……二人が無事じゃ……本当に良かったのじゃ……」

「マリーちゃん……」

「心配させちゃったわね……」

「心配するのは当然じゃ……ユウヤパパとカリナママは、マリーの親なんだからじゃ……」

「ありがとう、それと……心配かけてごめんね、マリーちゃん」

「二人がマリーのために、無理をしてくれたのはわかってるのじゃ。けど、もうこんな無茶はして欲しくないのじゃ……」

「そうね。こんな無茶はもうやらないわ。可愛い娘に心配を掛けたらいけないしね。ありがとう、マリーちゃん」


 俺とカリナさんに抱き着きながら、涙を流しながら無事に帰った事を喜んでくれるマリーちゃん。

 俺にとっては、魔界竜巻どうこうよりも、マリーちゃんを悲しませる事の方が辛い。

 マリーちゃんが、俺達の事を親と認めて心配してくれる事に喜びを感じながらも、申し訳なさも感じた。


 もし、俺達の能力がもっと未熟だったら……力が及ばなかったら……そう考えると、ここに帰って来られない可能性だってあったんだと思う。

 そうするとまた、マリーちゃんを一人にして、寂しい思いをさせてしまう。

 マリーちゃんのためと考えて行動したけど、これだけ心配を掛けてしまう事になるのなら、他に何か方法があったのかを、もっと考えるべきだったかも……と反省する。


「……ユウヤパパ、怪我をしてるのじゃ? それに、マントもボロボロなのじゃ」

「あぁ、これか。これは、ちょっと石がかすってね。大丈夫だよ、もう痛くも無いから」

「マントも、こんなにボロボロになってたのね。コボ太さんに謝らなきゃ、せっかく作ってくれたのに……」

「マントは二人を守るために作られたのじゃ。しっかり役目を果たして、コボ太も満足だろうじゃ!」


 マリーちゃんが俺の頬に付いた切り傷に気付いて少し離れ、俺達の全身を見て、マントもボロボロな事に気付く。

 頬の傷は軽く切っただけだから、もう血も止まってるし痛みも無い。

 石鹸とかが少し、しみるくらいだろうな。


 マントの方は、俺のもカリナさんのもいくつもの切れ目ができていて、ボロボロになっている。

 俺が弾いた岩の欠片や、小さい石が風の影響で凄い速さで動き、当たったりかすめたりしたからだろう。

 少なくとも、カリナさんのマントはそうだ。

 俺のマントは……カリナさんが弾けなかった魔法や、俺が避けられなかった魔法も、多少はあるんだろうな。

 コボ太が、重りと一緒に防刃だのなんだのを付与してくれてたらしいから、それのおかげで怪我まではしていないけど。


「ユウヤ様、カリナ様、そのマントは修繕して、また使えるようコボ太に渡しておきます」 

「婆やさん。はい、お願いします」

「お願いしますね。コボ太さんにも、こんなにしてごめんなさいと、伝えておいて下さいな」

「畏まりました……」


 いつものように、どこぞから現れ、どこぞへと消えて行く婆やさん。

 俺達が脱いだマントを持って、コボ太の所へ行ったんだろうと思う。


「結構汚れてるな……カリナさんも」

「そうねぇ……砂埃も凄かったもの。ユウヤさんなんて、手も汚れてるわね?」

「そりゃ、素手で岩を弾いたりしてたからね」

「……人間は普通、そんな事できません」

「武器も使わず岩を弾くとはな……凄い能力だ」


 マントを脱いだ後、お互いを見てクスクス笑いながら汚れを確認。

 風に混じって砂埃も舞っていたのだから、汚れるのも当然だ。

 マントがボロボロになっていったせいもあってか、隙間から入り込んだ砂埃なんかで、内側に着ていた服も汚れてる。

 髪もなんだかじゃりじゃりしてる気がするし……今日はしっかり風呂に入って洗い流さないとな。


 クラリッサさんがボソっと呟いたように、神様から授かった能力がなければ、人間が飛んで来る岩を簡単に弾くなんて、できないよなぁ。

 バハムーさんは、能力に対して感心してるみたいだけど。


「二人共、お風呂に入るのじゃ。マリーも入るのじゃ」

「そうね、一緒に入りましょ」

「入るのじゃー」


 俺達が帰って来て、ご機嫌になったマリーちゃんに手を引っ張られ、部屋へと向かう。

 出迎えてくれた四天王の皆さんとクラリッサさん達には、しっかりお礼を言って別れた。

 マリーちゃんを昔から知ってる四天王の皆さんは、俺達に対して甘えるマリーちゃんを微笑ましく見てたのが印象的だった。



「あのー、カリナさん……? 俺も汚れてるんだけど……一緒に入っちゃ……?」

「駄目に決まってるでしょ?」

「ユウヤパパは一緒じゃないじゃ?」


 部屋に戻り、早速風呂に入ろうとマリーちゃんと一緒に、風呂場の扉の前まで来たところで、カリナさんからストップが入った。

 マリーちゃんの部屋にある風呂は、魔王の部屋にあるものだからか、広く大きい。

 10人くらいが一度に入れる大きさなので、俺も含め、カリナさんやマリーちゃんが一緒に入っても問題無い……はずなんだけど……。


「……どうして……家族揃ってのお風呂が……家族団らんの時間が……」

「何を言ってるの? ユウヤさん、マリーちゃんはユウヤさんより年上なのよ?」

「でも、娘だし……」

「いくら娘だとしても、よ。妙齢の女の子と入りたいだなんて……ユウヤさん……?」

「いや、そんな……全く! そんな気持ちは! 全然! ありませんです! はい!」

「なら、良いのだけど……」

「カリナママと一緒にお風呂じゃー!」


 俺とマリーちゃん……というより、女の子のような女性と一緒に入る、という事が許せない様子のカリナさん。

 俺は小さい子に何かが反応するような、そんな考えは持ってないし、カリナさん一筋だから、全然何ともないと思ってたんだけど、カリナさんは気になってしまうようだ。

 魔界竜巻の所へ行って疲労しているはずなのに、そんな様子は一切見せず、不穏な空気を出すカリナさんに弁明し、仕方なく俺は別で入る事になった……。



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