第10話 歩き疲れたら癒しの魔法を
「魔王城とは聞いていたけど……ここまで広いとはな……」
「そうねぇ。……ちょっと疲れたわ」
マリーちゃんの案内で、色々な場所を回る俺達。
ただ、建物自体が大きいため、結構な時間を使って歩き回っても、終わりが見えない。
「昨日ここに来た時も、迷いかけました。運良く魔王……マリーちゃん? のいる場所にたどり着けましたが……行けなかったら、色んな魔物に囲まれて、すぐにやられてましたね」
途中でクラリッサさんとも合流し、4人で魔王城を見学している。
そのクラリッサさん、どうやって初めて入る城で、マリーちゃんの所へ行けたのか聞いてみると、完全に運だったようだ。
……これだけ大きいと、隅々まで見て回るのに数日はかかりそうだからなぁ。
「ねぇ、マリーちゃん。ちょっと歩き疲れたんだけど……どこかで休憩できないかしら?」
「なんじゃ、もう疲れたのか。仕方ないのじゃ」
さすがに起きてから歩き通しなため、カリナさんが疲れを訴えて、マリーちゃんに休憩を求める。
クラリッサさんも疲れた顔をしているな……俺はあまり疲れて無いんだけど……もしかしてこれって、身体強化(極限)を使える事と関係があったりするのかな?
「ここじゃ。ここに来れば一瞬で疲れが取れるのじゃ」
「ここ?」
マリーちゃんに案内された場所は、部屋一面、白い壁に白い床、ベッドも机も白い物が多い部屋だった。
……薬っぽい匂いがするから、もしかして医務室みたいな所か?
白い物が多く、薬のような匂いで、ベッドもカーテンで仕切られていて、学校の保健室を思い出した。
「おーい、ハイルンはいるのじゃー?」
「はいはい、マリー様。お呼びでしょうか?」
マリーちゃんが奥に呼びかけると、そちらから声がして、一人の男性がカーテンの隙間から現れた。
白衣を着た男性は、首から聴診器を下げており、見るからにドクターといった風貌だ。
でもどうせ、また魔物だって言うんだろうな……この城には、俺とカリナさん、クラリッサさんの3人しか人間がいないのは、マリーちゃんに聞いて確認済みだ。
「この人間達がな、疲れたと言うので癒して欲しいのじゃ」
「ほうほう、人間ですか。これはまた珍しいですなぁ……」
「っ!」
マリーちゃんと話してるドクター……ハイルンと呼ばれてたっけ……。
そのハイルンさんは、俺達を見て物珍しそうにしているが、一瞬だけ、目が実験体を見つけたように鋭くなった。
直感的に危険を感じて、背筋が凍る俺。
だが、カリナさん達はそんな事を感じなかったのか、普通の様子だ。
「マリー様のお願いです、畏まりましたなぁ……では……」
「ちょ、ちょ、その針は何ですか!?」
ハイルンさんは、白衣のポケットから1メートル近くある針を取り出し、俺達へと向ける。
「なぁに、痛くはありませんからなぁ……すぐに終わりますなぁ……!」
「ちょ、針を、針を近づけないでぇ!」
「針……怖い……」
「あらあらまぁまぁ」
「安心して身をまかせるのじゃ」
針を俺達に向けたまま、ハイルンさんは俺達へと迫る。
クラリッサさんは先端恐怖症なのか、針の先を見て青ざめているし、カリナさんは頬に手を当てて動じていないし、マリーちゃんの言葉にも素直に頷けない。
俺は、身体強化(極限)を使ってでも逃げるため、発動させようとした時……。
「ちちんぷいぷいちょちょいのちょい!」
ハイルンさんが針をくるくると回し、妙な呪文のような何かを唱えると、その針の先から緑色の光が出て、俺達を包み込む。
「何だ……これは?」
「……針……怖いです……」
「私には何も……?」
俺とクラリッサさんを包み込んだ緑色の光はやがて、空気中に溶けるように消えて行った。
しかし、カリナさんへと向かった緑の光は、何かに遮られたように方向を変え、マリーちゃんの方へ。
「……そうじゃ、魔法反射じゃ……マリーを癒しても意味がないじゃ」
「あらあらまぁまぁ」
どうやらさっきの緑色の光は、俺達の疲労を回復させる魔法だったらしい。
確かに、さっきより体が軽い気がする……俺は元々あまり疲労を感じていなかったから、効果は薄いんだろう。
カリナさんは、魔法を反射してしまうため、こういうのも効かないんだな……。
ともあれ、針で突き刺したりとかじゃないんだ……良かった……。
「あの、針の意味は?」
「これは魔法を使う媒介ですなぁ。これを使うことで、私は癒しの魔法を使うことができるんですなぁ」
針は魔法を使うための道具だったらしい……鋭い目で見られたとか、実験体を見るようなとか、勘違いした自分がちょっと恥ずかしい。
「カリナは大丈夫じゃ?」
「少し疲れてるけど、魔法を反射するんだもの、仕方ないわ」
「ふぅむ、それなら案内を切り上げて、お昼にするじゃ」
「それなら休みもとれて、ちょうど良いかもな」
「では、食堂に行くのじゃ」
「はーい」
「針……怖かったです」
「変な事を考えるもんじゃないな……」
「あ、そこの男の人なぁ……」
「はい?」
「また今度、一人で来て下さいなぁ。私の趣味を見せてあげますなぁ……」
食堂へ向かうため、部屋を出る俺達。
最後に俺だけ呼び止め、ニヤァと笑ったハイルンさんが、今度は一人でと誘う。
「ごめん被ります!」
何故かはわからないが……お尻がキュっと危ない危険のような何かという意味の分からない事を検知した……なので、それだけ言ってさっさと退室した。
「マリー様、本日の昼食はこのようになっております」
「ご苦労じゃ」
お昼時……太陽が無いから、日時計で時間を確認する事はできないが、今はちょうど昼食タイムらしい。
城内の案内を切り上げ、昨日も来た食堂にて昼食の準備を待つ。
しばらくして、昨夜も料理を用意してくれたクックさんが、昨日と同じように料理の載ったお皿を持って現れた。
……今日も鳥料理だ……鳩が鳥料理ってなぁ。
「ふぅ、美味しかったのじゃ」
「そうね、満足だわ」
「ちょっと食べ過ぎました」
俺が鳩に戸惑っている間にも、皆は食事を終える。
それを見て焦って料理を食べ、俺も食事を終えた。
「お昼の後は、私の仕事じゃ。婆やはおるじゃ?」
「……ここに」
「うぉ」
満腹になった満足感で、お腹を撫でながら婆やさんを呼ぶマリーちゃん。
これからは仕事らしいけど、魔王の仕事ってなんなんだろう?
呼ばれて飛び出て……という感じでテーブルの下から、にょきっと出て来た婆やさんに驚いた俺は無視される。
婆やさん……もしかしてずっとテーブルの下に潜んでたのか?
「皆は集まっておるか?」
「既に」
「わかったのじゃ。すぐに行くのじゃ」
「畏まりました。そのように伝えておきます」
マリーちゃんと話し終わった婆やさんは、またテーブルの下へと消えて行く。
どうするのかと思って、かがみ込んで覗いてみたが、既にそこには婆やさんの姿は無かった。
……婆やさん……謎が深まるばかりだ……。
「マリーちゃん、仕事って何をするの?」
「私は魔王じゃからな。魔王にしかできない事をするのじゃ」
「そうなの? それじゃあ私は手伝えないわね……」
「気にするなじゃ。なんなら見に来ても良いのじゃ」
「見ても良いの? それじゃ、見学させてもらうわね」
「魔王の仕事……興味があります。本当に悪い事をしていないのか確認しないと……」
「カリナさんが行くなら、俺も行くか」
「皆来るのじゃ!」
魔王にしかできない事って何だろうな……。
物語とかの魔王で想像するなら、人間の住んでる場所への侵攻を確認するとか、街を滅ぼす計画を練るとか、そういうイメージになる。
けど、実際の魔王がこのマリーちゃんだからなぁ……そういう事は想像できない。
そもそもマリーちゃんも、人間界には何もしてないって言ってたしな。
「マリー様! 我ら四天王、揃いましてございます!」
「うむじゃ」
昨日、召喚された時に来た広場にて、マリーちゃんがいつの間にか修理されていた、豪華な椅子に座り、そこから数段の階段下で4体の魔物が跪いている。
……どうやらここ、謁見の間とかそういう役割の広場だったみたいだ。
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