第11話 ドラゴンと腕相撲



「その者達は?」

「この者達は、私の客人じゃ。人間じゃぞ?」

「人間がマリー様の近くに居座るとは!」


 跪いてた魔物のうち、一人……と数えて良いのかわからないくらい大きな体をした魔物が、俺達を睨みつけて来る。

 ……この魔物は俺でもわかる、ドラゴンだ。

 物語によって役割は違うが、ほとんどが強い魔物として存在する。

 そんなドラゴンに睨まれ、俺は少しだけ震える……だって、怖いじゃん?


「あらあらまぁまぁ」


 カリナさんは、いつものように口癖を言っているだけだ……その動じない心が俺にも欲しい。


「バハムーよ、お主の言いたい事はわからないでも無いのじゃ。しかし、この者達は私を殴り飛ばし、魔法を跳ね返した実力者じゃぞ?」

「まさか!? ……いくらマリー様のお言葉でも、信じられません! 人間にそのような事が出来るとは……」

「ふむ……そうじゃな……ユウヤ、ちょっと来てくれるかじゃ?」

「わ、わかった……」


 俺達は、マリーちゃんの座る椅子がある、ステージのようになっている場所の端にいた。

 呼ばれてとことことマリーちゃんの所へ行くが、正直……もう帰りたい。

 誰がバハムーとか呼ばれてる、灰色のドラゴンに睨まれて、何も思わず前に出られるのか……あ、カリナさんなら大丈夫か?


「ユウヤ、お主の力……試させてもらうのじゃ」

「試すって……どうやって?」

「婆や、準備を。……バハムー、ここへ」

「畏まりました」

「はっ」


 マリーちゃんの言葉で、婆やさんとコボ太がえっちらおっちら何かを運んで来る。

 大きな金属の板……じゃないな、足が付いているから、テーブルか。

 人が数人寝転べそうな大きさだけど……あれだけの金属、かなりの重さだろうに……婆やさんとコボ太、ご苦労さま。


「ここで今からユウヤとバハムーに、アームバトルをやってもらうのじゃ」

「アームバトル?」

「ようは、それぞれ片腕を出しての力比べじゃ」

「……あぁ、成る程」


 ようするに、腕相撲って事か。

 って、人間の俺が、10倍以上は軽くある体を持ってるドラゴンに、腕相撲で勝てるわけがねぇ!


「いやいやいや、無理だろ!」

「大丈夫じゃ。あの能力があるのじゃろ?」

「あぁ……そうか」


 身体能力(極限)が俺にはある。

 どれだけ強化されるのかはわからないが、昨日マリーちゃんを殴り飛ばし、数十回転もさせたあの力なら、もしかしたらドラゴンにもかなうかも……って、待って待って!

 かなうわけないじゃん! どれだけ強化しても、ドラゴンに力で勝てるわけないじゃん!?

 試そうとしてるのマリーちゃんは何なの!? 馬鹿なの!? 死ぬの!? いや、その前に俺が死ぬ!

 

「それじゃ、私の合図で開始するのじゃ」

「人間……手加減はせぬからな……」

「頑張ってね、ユウヤさんなら大丈夫よ」

「……えっと」


 頭の中で色々考えているうちに、背中を婆やさんとカリナさんに押されて、腕相撲の体勢。

 ドラゴンの方もやる気満々だ。

 さすがにサイズが違い過ぎたので、ドラゴンの指を俺は掴んでいる。

 ……もうこうなったらやるしかない! これでドラゴンに勝てなかったら、この力を授けた神様とやらを恨むからな!

 カリナさんにも応援されたし、これで頑張らなきゃ男が廃る! ……ドラゴン相手なら廃れても良いかもしない。


「では、開始じゃ!」


 身体強化(極限)!


「むん! ……何!?」


 マリーちゃんの開始の合図と一緒に、俺は身体強化(極限)を発動。

 それと共に、力を入れたバハムーさんが、力を籠めるが、ビクともしないことに驚いてる。

 おいおいおいおい! ドラゴンに力で拮抗しちゃってるよ俺! なんだよこの身体強化(極限)って!

 どれだけ強化されちゃうの!? 神様ありがとう!


「くっ! 何故動かん! むんっ!」


 バハムーさんによって、力任せに腕をへし折られた挙句、そのまま巨体で潰される……なんて事を想像してたけど、そんな事にはならなかった。

 とりあえずなんとかなりそうだから、この場をどうにかしなければ。


「えーと……ほい!」

「ぬぉ!」

「「「何と!?」」」

「さすがはユウヤじゃ。私を殴り飛ばして、回転させまくったあげく、きりもみさせた男なだけあるのじゃ」


 もしかしてあの時の事、マリーちゃんは根に持ってるのかな?

 ともあれ、俺が力を籠めると同時、ドラゴンの指がゴキッという骨の折れた音がした後、金属のテーブルに叩きつけられ、テーブルをへし折って体ごとひっくり返ったバハムーさん。

 それを見ていた、残る四天王とやらの皆さんも、驚きの声を上げている。


「どうじゃ? これで私の言う事も、信じられたじゃろ?」

「「「はっ!」」」

「……バハムー、ちょっと邪魔じゃ。ハイルンの所で治してもらって来い」

「……はっ」


 憐れ、バハムーさんは、マリーちゃんに邪魔と言われたうえ蹴られ、折れた指をプラプラさせながら、肩を落として広場を出て行った。

 指を折るまですることは無かったかな……?

 でもドラゴン相手だし、全力を出さないとなぁ……そもそも、身体強化(極限)がどれだけの力を出せるかまで、はっきりとわかってないしな、俺。


「では、皆の物に告げる、じゃ。この者達、人間のユウヤ、カリナ、クラリッサの3人は私の客人じゃ。以後、丁重に扱うように、じゃ」

「「「ははっ!」」」

「……私、忘れられてなかった……良かった」


 残った四天王さん達へマリーちゃんが宣言をし、全員が頭を垂れる。

 これで、俺やカリナさん……ついでにクラリッサさんも、人間が城内にいるというだけで、襲われる心配は無くなった……かな?


「ユウヤ殿、と言ったか。私は四天王が1柱、アーマーナイトのアムドだ。人間があれ程の力を有するとは思わなかった。これからよろしく頼む」

「俺はキュクロプスのキュクロだ。こう見えて、手先が器用だから、何か編み物とかがあれば言ってくれ!」

「私はリッチのリッツよ。バハムーに勝つなんてすごい男なのねぇ。私、惚れちゃうかも……あ、私の事はリッちゃんって呼んでね」

「ええと……宝角勇弥です。ユウヤと呼んで下さい」

「宝角香梨奈よ。カリナと呼んでね。ユウヤさんとは夫婦だから、変な色目を使う子は、許しません……」

「あちゃ、結婚してたのね。ごめんごめん、アプローチなんてかけないから、あ・ん・し・ん・し・て?」

「……クラリッサ・デニッツです。存在感は薄いですが、適度に構って下さい」


 四天王さん達、ハイルンさんの所へ行ったバハムーさんを除いて、それぞれ自己紹介。

 まずは全身鎧の、アーマーナイトという種族のアムドさん。

 俺の倍近い体で、騎士っぽく礼をして来たので、礼節を大事にする人だと思う。

 ……鎧が本体らしい。

 

 次に、キュクロプスという種族のキュクロさん。

 バハムーさんに匹敵する程の巨大な体を持つ、一つ目の巨人。

 どう見ても力自慢そうに見えるが、手先が器用な事が自慢らしい。

 聞いてみると、一つだけある目をギョロリと動かしながら、バハムーさんどころかアムドさんにも力は負けるとの事。

 細工とかを駆使して罠を作るのが得意らしい……その巨体は一体……。


 最後に、リッチという種族で不死者のリッツさん。

 体の半分が骨で足がなく、見るからに幽霊や死霊で、半透明な体がふよふよ浮いている。

 どう見てもお爺さんの見た目なのに対し、喋り方は女の人だった。

 俺にすり寄ろうとしたところを、カリナさんが強めに夫婦を強調した事で、軽く謝る。

 半透明で、幽霊に近いのに、物理が効くらしい……弱点は良い男との事だが、冗談だと思いたい。


 ちなみに、四天王はそれぞれ1柱と数える。

 なんでも、それぞれ大事な役職を担っているらしく、魔王を支える柱としてそう数えるようにしたようだ。

 日本の神様と同じなのか……。


「さて、紹介は済んだようじゃ。それではじゃ、首脳会議を始めるのじゃ」

「バハムーは、どうなさいますか?」

「……あやつは脳筋じゃからな。会議には役に立たんのじゃ」


 酷い言い方だが、バハムーさんはどうやら頭の方はあまり良くないらしい。

 会議には不参加でも不都合はないようだ。

 何を話し合うのか俺達にはわからないので、バハムーさんと似たようなものかもしれないんだけど……。

 まぁ、俺達はただ見てるだけにしておこう、邪魔をしちゃいけないからな。



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