第12話 魔物大運動会会議
「それでは、じゃ……今年の魔物大運動会の会議を始めるのじゃ!」
「大運動会!?」
「……ユウヤ、うるさいのじゃ」
「ゴメンナサイ」
何の会議をするのかと思ったら、運動会のための会議だったらしい。
魔物が運動会……意表を突かれ過ぎて、思わず大きな声を出してしまった。
マリーちゃんに注意され、四天王の皆さん(バハムーさん以外)からも視線を向けられたので、素直に謝っておいた。
「コホン……魔物大運動会じゃが……」
「前回の会議で、種目はほぼ決まったと思いますが……?」
「そうじゃ。まずはその確認じゃ」
「わかりました」
婆やさんとコボ太がえっちらおっちらと、大きな円卓を用意。
それぞれが座れるように、椅子も用意されたんだが……やっぱりキュクロさんの座る椅子は大きいな。
リッちゃんは、空中をふよふよ浮いてて足も無いから、椅子なんていらないだろうと思ったが、ちゃんと用意されて、ちゃんと座ってる。
……腰が少しだけ浮かんでるけど……。
ちなみに、俺とカリナさんとクラリッサさんも、円卓を囲むようにして座っている。
会議に参加というか、見学するだけなのになぁ。
「まずは徒競走じゃ」
「はっ、四足の者と二足の者で分けてあります。走る距離もそれぞれ5キロ、10キロ、42.195キロの三つを行う事が決まりました」
「そうじゃな」
キロ? 距離の単位が元居た世界と一緒なのはともかく、徒競走として走る距離じゃ無くないか?
最後のなんて、フルマラソンだし……。
俺の戸惑いを余所に、運動会で行われる種目が確認されて行く。
「次は……球入れじゃ。奴らの許可は取れたのじゃ?」
「はい。むしろこの機会に種族としての強みを出せると、喜んでおりました」
「それは何よりじゃ」
「球入れに、許可なんているのか?」
俺の記憶にある運動会では、玉入れなんて、許可がいるような面倒な準備は必要なかったはずだ。
思わず口に出してしまった俺に、皆さんの視線が集まる。
「人間界の球入れは、こことは違うのかもしれませんな」
「そうじゃな。ユウヤ、説明するとじゃ。ここで行われる球入れは、アルマジローニアンという種族の魔物を、皆で寄ってたかって投げ、用意された入れ物の中に入れる……という競技じゃ」
何、そのヤサイ、ニンニク、アブラ、カラメ、マシマシとか言って、ラーメンを頼みそうな種族は……?
俺も好きだけどさ……食べたら数日、カリナさんが冷たいんだよなぁ……ニンニクの匂いが気になるのはわかるけどさ。
「な、成る程……?」
「あの種族が参加するのであれば、何も問題はないな。奴らは、どれだけ強く投げても動じないしな」
「それどころか、喜ぶのよねぇ。球として扱われるのが好きだから」
「許可が取れて良かったのじゃ。あの種族に断られたら、球入れが中止になるところだったのじゃ」
一応、納得して頷いた俺。
キュクロさんがうんうん頷きながら、リッちゃんが呆れたように言う。
マリーちゃんが言うには、そのアルマジローニアンが参加しなければ、球入れができなかったそうだが、他に代わりになるような球は無かったのだろうか?
まぁ、魔物の運動会だから、力任せに投げるような魔物もいて、その種族じゃないと耐えられないのかもしれない……と、無理やり納得しておく。
その後も順調に種目確認が進み、最後に一つだけ、詳細が決まっていない種目の話になった。
「闘技大会じゃ……どうするべきかじゃのう……?」
「武器は無い方が良いんじゃないか? バハムーとか、武器を扱えないだろ?」
「しかし……それでは私が参加できません」
「私は、武器とか関係なく、魔法が使えないなら参加できないわぁ」
「魔法を使えるようにじゃ、武器を使えないじゃ……これはどうしても、不公平が出てしまうのじゃ」
闘技大会……その名の通り、魔物達が1対1で対戦し、強さを競い合う大会だ。
運動会に相応しくない気もするが、これがメインイベントになるから外せないらしい。
聞くと、種目はそれぞれ魔物達の自由意思によって、参加不参加が決まるらしいが、その闘技大会というのは、一番参加を表明している魔物が多いらしい。
ちなみに、種目ごとにポイントが決まっており、一番ポイントの高かった魔物には、豪華景品が出るとの事だ。
「マリー様は、魔法も剣も、格闘も、全てにおいてできますので、どのような条件でも大丈夫でしょうが……私は……」
アムドさんが、武器無しという規定に難色を示しているようだ。
騎士っぽいから、剣がないと戦えないのかもしれない。
キュクロさんは素手でも戦えるようで、ここにいないバハムーさんも含めて、武器無しで良いとの意見。
リッちゃんは、見た目通り魔法を主に使うようなので、魔法が使えないと戦えない。
ただ、魔法を許可すると、魔法を使えない種族にとって不利になることは間違いない。
このあたりの取り決めが難航しているようだな。
「ふむぅ……ユウヤ、カリナ、良い意見は無いのじゃ?」
「良い意見ねぇ……」
「そうねぇ……」
「あのぅ……私の意見は聞かないのですか?」
「む? いたのかクラリッサ?」
「いましたよ! ずっと最初から! 存在感が薄いからって、いる事を忘れないで下さい!」
ごめん、クラリッサさん。
俺も少し忘れかけてた……。
「まぁまぁ、クラリッサちゃん。落ち着いて?」
「……忘れないで下さいよぅ」
涙目になったクラリッサさんが、カリナさんに慰められてる。
ちょっと羨ましい……。
「剣なんだが……木剣とかってあるのか?」
「木剣か……木で作った武器なら、無くはないじゃ……しかし数が……じゃ」
「マリー様、至急フェイスツリーに作らせましょう! 木の武器ならば危険は少ないでしょうからな!」
「フェイスツリーじゃ? あやつらは……数が少なくなるのじゃ……しかし、仕方ないのじゃ。これも尊い犠牲というものじゃ」
「そのフェイスツリーってのに作ってもらったら、なんで数が減るんだ?」
フェイスツリー……そのまま受け取るなら、人面樹ってところか?
「材料はフェイスツリーじゃからな。木製の物を作ると、フェイスツリーが犠牲になるのじゃ」
「は……」
自分達で自分を加工して、木製の物を作るって事か……?
それなら確かに、作るのをためらう気持ちはわかる。
命を使った道具なんて、できれば使いたくないからな。
「しかし、フェイスツリーは自分達の種族が材料になる事を、誇りに思っております。喜んで作ってくれる事でしょう!」
「そうじゃな……わかったじゃ……ある程度の数で自重してもらうのじゃ。それが最低条件じゃ。作った武器は種類ごとに数個、闘技大会中は、参加者が使いまわす事で、注文数を減らすのじゃ」
「畏まりました」
どうやら、フェイスツリーという種族が犠牲になる事が決まったようだ。
俺が適当に木剣と言ったばかりに……。
「ユウヤ、ありがとうなのじゃ。これで武器を使っても、怪我をする魔物が減るのじゃ。普通の剣や槍は危険だからじゃ」
「それは良いんだけど……もしかして、武器を使うかどうかというのは公平にするためじゃなくて、怪我をしないため……なのか?」
「そうじゃ。当たり前じゃろ? 参加する魔物が怪我をしては、楽しむものも楽しめんのじゃ」
「……そうか」
マリーちゃん、思ったよりも仲間の魔物想いだったようだ。
怪我をしないために、武器を使うかどうか悩んでいたなんて……魔物同士が戦う大会で、怪我をする事を恐れて武器をどうするか悩むなんて……想像すらしてなかった!
「木なら、俺も怪我をせずに済むな!」
「私も、存分に剣の腕を試せるというもの! ユウヤ殿、感謝しますぞ!」
「は、はぁ」
キュクロは怪我をしない事を喜んでるし……その巨体で怪我を怖がるってのも、何かなぁ……。
アムドが剣を使える事に喜ぶのは、イメージ通りだけどな。
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