夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~

龍央

第1話 奥さんと一緒に異世界召喚



「あらあらまぁまぁ……」

「香梨奈さん……暢気だね? こんな状況なのに……」


 暢気な声を出す香梨奈さんを見ながら、今の状況を考える。

 確かさっきまでは自宅で、愛する香梨奈さんの、手料理というご馳走を頂こうとしていたはずだ。

 なのにどうだ? 今は二人共、よくわからない、色んな色が入り混じった、不思議な空間を移動している。

 いや、移動してるのかもわからない……原色が混ざろうとして混ざらないような……なんとももどかしい景色が勝手に動いているだけで、実際俺達は何も移動してはいないのかも?


「でも勇弥さん、こんな状況になったんだから、あるがままを受け入れないと」

「あるがままって言われても……せっかく香梨奈さんの手料理を、久しぶりに食べられるところだったのに……」


 ここ最近、仕事が立て込んでいて残業続きだった。

 空き時間に昼食や夕食を済ませる事が多くなり、しばらく香梨奈さんの手料理を食べる事ができずにいたんだ。

 朝も時間が無くて、コンビニおにぎりを移動中に食べるとかだったしなぁ。

 ようやく今日、仕事に区切りがついて早く帰宅する事ができたため、1週間ぶりの手料理を食べられると思ったのに……!

 俺にとって、何物にも代えがたいご馳走なのに!


「まぁまぁ、料理ならまた作るわよ?」

「……今日食べたかった……」


 香梨奈さんが慰めてはくれるが、それでもおかしな状況になって、食べられない事に拗ねて見せる。


「……勇弥さん?」

「……何でも無いです、はい」


 香梨奈さんの目が細められ、俺を射抜く。

 すぐに俺は、拗ねた振りを止めた。

 香梨奈さんには逆らえないなぁ……そういうところも可愛くて良いんだけど。


「でも、これ……どうなってるんだろう?」

「本当にねぇ? 自分達が動いているのか、周りが動いているのかもわからなくなるわ」


 色が入り混じっている景色は、視界いっぱいに広がり、俺達の感覚を狂わせる。

 この状況になって結構経ったような気がするが、不気味な景色が見えるだけで、何も変わりがない。

 ……香梨奈さんが一緒にいてくれるだけで、あんまり不安はないんだがな……これが愛か!?


「香梨奈さんがいてくれて良かった。俺一人じゃ不安で押し潰されてたよ」

「あらあらまぁまぁ、私もそうよ。勇弥さんがいてくれるおかげで、落ち着いていられるわ」

「香梨奈さん……」

「裕也さん……」

「……あー、あー。……聞こえますかー、バカップルー」


 香梨奈さんと愛を確かめ合い、浮かんでる体を泳ぐように動かして近付く。

 お互いの名を呼び合い、唇と唇が触れ合おうとした時、何処からともなく声が聞こえた。

 誰だ!? 二人の楽しい時間を邪魔するのは!?


「誰だ!? 二人の楽しい時間を邪魔するのは!?」

「……心の声が漏れていますよ。んんっ。それはともかく、宝角勇弥(ほうすみゆうや)、宝角香梨奈(ほうすみかりな)、二人は今の状況がわかっていますか?」


 突然聞こえた声に、思わず頭で考えていた事が声に出てしまった……。

 辺りに響く声は、香梨奈さんにも聞こえているようで、俺と同じように顔をキョロキョロさせている。

 しかし、この声はどうして俺達の名前を知っているんだ? それに、今の状況って言われてもな……。


「何が起こってるかなんて、全然わからないな。あんたは誰なんだ?」

「私は神。全ての世界を司る神です」

「あらあら、神様ですって、勇弥さん?」

「神様ぁ? 本当に?」

「信じられないのも。無理はありません。ですが、今はそんな事はどうでも良いのです」

「……どうでも良くはないんだけどな……それで、この状況は一体どういう事なんだ……なんですか?」


 神様と名乗った声の主に、叫んで返そうとしたら香梨奈さんに睨まれてしまった。

 俺が口悪くしゃべる事に対して、結構厳しいからな……神様とかいうのよりよっぽど怖い。


「今、貴方達は、別の世界へと召喚されています」

「召喚?」

「ラノベ的な?」

「そうです香梨奈。ラノベによくあったように、貴方達は異世界へと召喚されようとしているのです」

「異世界……地球とは違うんですか?」

「違います。剣と魔法の世界……というとわかりやすいでしょうか? 魔物もいるその世界に、貴方達は召喚されようとしているのです」

「あらあらまぁまぁ、異世界ですって? 楽しそうだわぁ。……でも、今月の支払いがまだ終わってないのですけど……」

「香梨奈さん……支払いとか、今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ……」


 神の声が言うには、今俺達は異世界へと召喚されている途中らしい。

 ラノベやアニメ、漫画が好きな香梨奈さんはすぐに受け入れているが、俺には到底受け入れられそうに……いや、香梨奈さんが受け入れてるんだから、俺も何とかしなくては!

 とりあえず、今月の支払いとかは、帰ってから考えれば良いと思うよ? 香梨奈さん。


「異世界の理は、貴方達が今までいた世界とは違うものでできています。もしこのまま召喚が成されてしまえば、貴方達は異世界に翻弄され、なすすべもなくなるでしょう」

「随分とはっきり言いますね……それだけ厳しい世界なのか……?」


 香梨奈さんから見せられる物語での異世界は、魔物が蔓延り、人間が剣や魔法を駆使し、命を懸けて戦っている物が多かった。

 それを考えると、戦った経験なんか無い俺達が異世界に行っても、言われたように魔物にやられて終わり……なんて事になるのも、ま、仕方ないな。


「そこで、です。私が二人に、力を授けましょう」

「力?」

「あらあらまぁまぁ、異世界召喚に神様から特別な力……ますますラノベみたいねぇ」


 力を授けてくれる、という神の声。

 香梨奈さんはそれを聞いて、顔を紅潮させて興奮気味だ。

 ……こんな香梨奈さんも可愛いなぁ……っと今は惚気てる場合じゃないな、ちゃんと話を聞こう。


「香梨奈、貴女には全魔法反射、という力を授けます。これは、いかなる魔法をも跳ね返す能力です。意識せずとも効果は常に出ているので、不意な魔法にやられる事もないでしょう」

「全魔法、反射? こちらが使うんじゃなくて、相手の魔法を跳ね返すのか……確かに守りとしては使えそうだ」

「そして、勇弥……貴方には身体強化(極限)を授けます。戦った事の無い貴方でも、どんな敵にも負けない強さを発揮できることでしょう。ただし……」

「ただし?」


 俺に対する力にだけは、注意事項があるみたいだ。

 香梨奈さんの方は、常に効果があって便利そうなのに……俺の方には何かあるのだろうか?


「この能力は、意識をしないと使えません。……そうですね、頭の中で身体強化(極限)、と唱える事で発動するようにしましょう」

「身体強化……何で俺の方は、自分で発動しないといけないんですか? しかも極限って……」

「極限とはつまり、全てを越える身体能力を発揮させてしまうのです。これがもし、常に発動していたら……生き物に触れただけで、爆散してしまいますよ?」

「爆散!? そんなに危険な能力なんですか!?」

「もちろん、加減は本人次第ですが……もし間違えると隣にいる香梨奈すらも……」

「止めて、止めて下さい! それ以上は想像したくありません!」


 加減を間違えると、香梨奈さんに触れただけで爆散してしまう可能性があると……確かにそれなら、常に発動じゃなく、自分で発動できるようにした方が良いな。


「解除する時は、頭の中で解除、と唱えれば解除されます」

「……ありがとうございます」

「それでは、楽しい異世界への旅を楽しんで下さい……永遠に……」

「永遠!? ちょっとどういう……!」


 神の声が聞こえなくなり、言葉の意味を問い質す前に、今まで見ていた辺りの景色が歪んで変わっていく。

 どうやら、召喚での世界移動も終わるみたいだ。

 しかし……永遠ってどういう事だ……? もしかして元の世界に帰れない……なんて事は……ない、よな……?


「……香梨奈さん」

「勇弥さん、現実を受け止めよう? 神様がせっかく便利っぽい能力をくれたんだから、異世界で第二の人生を歩もうね?」

「……受け入れちゃってるし……」


 異世界に行く事を、完全に受け入れた香梨奈さん。

 がっくりと頭垂れる俺を余所に、景色の歪みが激しくなり、俺達の正面からまばゆい光が放たれ、それに俺達は包まれて行った。



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