第8話 コックのクックさんと鳩の鳥料理



「仕方ないのじゃ。婆や、クックに言って料理をしてもらうのじゃ」

「畏まりましてございます」


 再びシュタッと、天窓まで飛んで消えて行く婆やさん。

 出入りはそこなのね……。


「クックって何だ?」

「この城で料理を担当する魔物じゃ。クックの作る鳥料理は美味しいんじゃ!」

「そうか……鳥か……」


 鳥肉は嫌いじゃないが、ここはガッツリ牛肉とかが欲しかった。

 とは言え、こっちの世界にも鳥料理があるだけありがたいか。

 牛とか豚がいるのかは知らないけど。


「それじゃ、食堂に行くのじゃ!」

「わかった」

「案内はお願いね、マリーちゃん」

「すみません、お願いします」

「任せるのじゃ!」


 俺達を案内するため、意気揚々と先頭を歩くマリーちゃん。

 それに続いて、俺とカリナさん、最後にクラリッサさんの並びで付いて行った。


「へぇ~、城の中ってこうなってるのか」

「荘厳ねぇ」

「どうじゃ、凄いじゃろ?」


 城の廊下を歩く俺達は、キョロキョロとしながら進む。

 クラリッサさんは、あの広場に来るまでに通った事があるのか、少し慣れてる様子だ。

 俺達が物珍しそうに見ているのを、マリーちゃんは胸を張って嬉しそう。

 しかし、赤いふかふかな絨毯だったり、大理石にも見える壁や床はまだ良いとしても……何故所々にドクロが置いてあるのか……いや、魔王城というイメージにはぴったりかもしれないが。


「なぁ、あのドクロなんだが……誰かの骨なのか?」

「あれか。あれは確かに誰かの骨じゃ」

「……一体誰のだ? もしかして、侵入して来た人間の骨を……?」

「そんな悪趣味な事はせんのじゃ!」


 人間の頭蓋骨だと思って聞いたら、マリーちゃん憤慨。

 でも、誰かのドクロなら、それは人間のじゃないとおかしくないか?

 ドクロって、人間の頭蓋骨の事だし、マリーちゃんもドクロって言ってたしな……。


「失礼な事を言うなじゃ! シャレ、コウベ、挨拶をするのじゃ」

「カタカタカタカタ」

「カチカチカチカチ」

「ひぃ! 骨が動いた!?」


 マリーちゃんが呼び掛けると、ドクロが急に動き出し、顎を動かして歯を打ち鳴らした。

 二つとも微妙に打ち鳴らし方が違うから、もしかすると、これが個性というか声の違いと言う事だろうか……?


「あら、意外にコミカルな動きをするのねぇ?」

「カリナさん、怖くないの!?」

「何で? だって、あれは人じゃ無いもの」

「さすがに、カリナにはわかっておるようじゃ。あれらは骨の魔物じゃ。あぁして、廊下の台に乗っておく事で、城内の見張りをしてくれているのじゃ」

「カタカタ」

「カチ……カチカチ」


 骨の魔物……? スケルトンとか、そんな奴か?

 そうか……この世界は魔物がいるんだもんな……動くはずの無い骨格標本が急に動いたりなんて、怪談話的な事は起こらない……よな?

 ……この城を肝試しの舞台にしたら、良い物ができそうだ。

 名前はさっきマリーちゃんが呼んでた、シャレとコウベか……魔物のネーミングセンスには突っ込まない方が良いだろうな……。


「何? あぁ、それはこやつの事じゃ。それ以外には?」

「カタ、カタカタ」

「カチカチカチ」

「問題なしじゃな。ご苦労じゃ」


 何だろう……歯を打ち鳴らしてるだけなのに、マリーちゃんと会話が成立しているように見えるんだけど?


「話せるのか?」

「もちろんじゃ。骨伝導という魔法で、私に直接語り掛けて来てるのじゃ」

「魔法……だったら、私には話せそうにないわね」


 骨伝導……って、生き物の骨を伝って音を聞くとかなんとか、か。

 確かに骨だから間違ってない気はするけど……何かが間違っている気がする……。

 魔法と言う事だから、常時全ての魔法を反射してしまうカリナさんには、話す事はできないんだろう、ちょっと残念そうだ。


「ここが食堂じゃ。どうじゃ?」

「おぉぉぉ……」

「大きなテーブルねぇ」

「広いですね。……落ち着かないような……」


 マリーちゃんに案内されて数分、広い城内を歩いてたどり着いた食堂は、人が百人入っても大丈夫! とか言えそうな広さのある部屋だった。

 その部屋の真ん中にデン! と置かれた長いテーブルと、椅子。

 よく、貴族とか王族が食事をするシーンとかで見たような、凝った意匠テーブルや椅子があった。


「好きな所へ座るのじゃ」

「わかった」

「わかったわ」

「私は隅っこで……」


 長いテーブルの端、誕生日席にマリーちゃんが座り、その右側にカリナさんと俺が並んで座る。

 広い場所とテーブルが落ち着かない様子のクラリッサさんは、逆側の一番端で縮こまるように座った。

 ……もしかすると、そうして端の方で小さくなるような癖があるから、存在感が……とか言われるのでは?


「クルックー。マリー様、支度が出来ましたクルー」

「そうか、ご苦労じゃ。並べてくれ」

「畏まりましたクルー」

「……鳩?」

「鳩ねぇ」


 食堂で皆が席に着いたと同時、食事の支度が終わったと、鳩が入って報告して来た。

 数分歩いたくらいで、これもまたそんなに時間が経っていないのに準備ができた事もそうなんだが、鳩が入って来た事の方が衝撃的だ。

 俺よりも高い位置にあるくちばしに、灰色と白の羽毛に首元は青紫で、日本でも良く見られる鳩そのままの見た目だ。

 鳥の足をちょこちょこ動かして、翼で器用にワゴンを押して俺達の前に、料理の載った食器を配膳してくれる。

 ……やっぱり大きくても、移動すると首も動かすんだな。


「これも魔物なのか、マリーちゃん?」

「そうじゃ。クックは料理の鉄人と言われる魔物、コックピジョンという種族じゃ。このクックは、鳥料理が得意なのじゃ」

「鳩が鳥料理……」

「昔、そう言う番組があったみたいねぇ」


 私の記憶が確かならば……鳩は鳥類なので、鳥を料理するのは共食いという……なんて考えたが、魔物だからと言う事で、無理矢理納得しておこうと思う。

 そもそも、鶏がいるかもわからない場所だから、何の鳥肉を使ってるのかは……考えない方が良いだろうしな。



「美味しかったわぁ」

「そうじゃろ?」

「確かに美味しかったです」

「美味しかったけど……まぁ良いか」


 クックさんの作った鳥料理は、モモ肉の照焼っぽい物、ササミのから揚げっぽい物、蒸し鳥のスープっぽい物、あとは焼き鳥だ。

 焼き鳥だけぽいでは無く、しっかり串に刺さって焼かれている、老舗っぽい味がした。

 他の料理がぽいと言っているのは、味が鳥肉じゃなかったからだ。

 なんだろう……牛肉に近いような……もうこの世界を日本の常識で考えるのは、止めた方が良いかもしれない。


「では、部屋へご案内します」

「あ、はい」


 食堂でたらふく料理を頂き、味に満足していると、いつの間にかいた婆やさんが、俺の背後から声を掛けて来た。

 何とか普通に返事を返したが、心臓が止まるかと思うくらい驚いた……気配を消すのは止めて下さい、お願いします。


「しっかり休むのじゃー」

「ありがとう、マリーちゃん。おやすみ」

「おやすみマリーちゃん」

「……おやすみなさい」


 食堂には、お腹を膨らませたマリーちゃんが残り、俺達は婆やさんに付いて部屋へ案内される。


「こちらでございます」

「おー、広い!」

「広いわねぇ」

「……ここも広すぎます」


 ホテルのように部屋が並び、そのうちの3室が俺達に用意されたようだ。

 ここが何階かはわからないが、手すりや落下防止のない、スリルのある螺旋階段を登って、廊下を右に曲がってすぐ、右手側にあるのが俺の部屋、その隣がカリナさん。

 カリナさんの部屋の向かいが、クラリッサさんの部屋のようだ。


 部屋の中は、天井には蝋燭の灯ったシャンデリア、ベッド、洗面台に鏡、風呂、トイレ、机、椅子とソファー等々必要な物が全て揃っており、高級ホテルも顔負けの品揃えだ。

 床の絨毯もふかふかだし、ベッドも大きくシーツも真新しい。

 トイレは水洗、風呂と洗面台にはお湯が出る蛇口が付いている……魔法とかを使ってるんだろうけど、こういった技術に関しても、あまり深く考えない方が良いのかもしれないな。

 あと、ベッドの横にある小さなテーブルにだけは、気になる物が一つあるんだよなぁ……。



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