第39話 魔界竜巻付近はとてつもない暴風



「……わかった……じゃ」

「ごめんね、マリーちゃん」

「……危なくなったら逃げるのじゃ。魔界竜巻をどうにかできなくとも、誰もユウヤパパ達を責めたりしないのじゃ」

「うん、そうだね。約束する。危険な事になりそうなら、すぐにカリナさんを連れて逃げるよ」

「……約束、じゃ。きっと無事で帰って来るのじゃ……」

「うん」

「大丈夫よ、マリーちゃん。私とユウヤさんには、全魔法反射と身体強化(極限)っていう、神様から授かった能力があるからね」

「それに、俺の身体強化(極限)は使えば使う程、強力になるみたいだからね。ここ最近の訓練で、使う事にも慣れて来たし、強くもなってると思うんだ」

「……わかったじゃ。気を付けて行くのじゃ……マリーはここで、パパとママの帰りを待ってるのじゃ」

「可愛い娘が待ってるんだ。きっと無事に帰って来るよ」

「待っててね、マリーちゃん。マリーちゃんを困らせる竜巻なんか、私達で何とかして見せるわ」


 目を潤ませて俺達を見るマリーちゃんに見送られながら、俺達は笑顔で城の外に出た。

 マリーちゃんのパパとママは、魔界竜巻を運動場には行かせないからね。



「……ユウヤ、そのまま歩いて行くのでは、時間がかかってしまうだろう。私の背中に乗れ」

「バハムーさん?」

「あらあらまぁまぁ」


 城を出て、城下町へと歩こうとした俺に、待っていたバハムーさんが声をかけて来た。


「魔界竜巻を何とかするとしても、できるだけ運動場へ近付かないうちに、こちらから向かった方が良いだろう? ほら、乗れ。すぐ近くとまではいかないが、できるだけ近くまで運んでやる」

「……ありがとう、バハムーさん」


 俺に背を向けて、伏せの体勢になったバハムーさん。

 その言葉に甘えて、俺とカリナさんはその背中に乗り込む。

 ……初めてだな、バハムーさんが自分から俺を乗せてくれたのって。



「ぐぅ! 風が強すぎる!」

「バハムーさん! もうここらで良いですから、先に帰っていて下さい!」

「我らドラゴン族、これしきの事では飛ばされん!」

「バハムーさん!」


 城を飛び立ち、凄い速さで城下町を抜け、さらに運動場になっている場所をも過ぎ去って、大分魔界竜巻に近い場所まで来た。

 まだ竜巻は見えないが、吹き荒れる暴風が凄まじく、バハムーさんでさえその中を進むのは苦労しているようだ。

 ここらで降ろしてもらって、後は近付いて来る竜巻へ向かって、俺達が歩いていければ良いと考えても、バハムーさんは無理矢理前に進む。


「ぬおぉぉぉぉぉ! マリー様のため、我ら魔界に住む魔族のため!」


 よほど辛いのだろう。

 叫びながら少しずつ前に進むバハムーさん。

 俺とカリナさんは、その背中で飛ばされないようウロコにしがみ付いている。

 身体強化(極限)を発動し、カリナさんの体を押さえて守ってもいる。


「バハムーさん! もうここらで降りて下さい!」

「ぐむぅ……わかった……」


 さすがにそろそろ前に進む事ができなくなったのか、俺の言葉を聞いてバハムーさんが地上へと降りる。

 運動場から少し離れた場所だからか、見渡す限りの荒野で、暴風によってそこかしこから岩なんかも飛ばされて来るが、全てバハムーさんの羽で庇ってくれている、ありがたい。


「すまないな、私はここまでのようだ……」

「いえ、助かりました。魔界竜巻にも大分近くなったようですし。俺達が歩いて来るだけだったら、運動場の端くらいまで来てたかもしれませんからね」


 バハムーさんは、空をかなりのスピードで飛ぶ。

 魔界竜巻に近付いて、風が吹き荒れるようになるまでは、ジェットコースターも顔負けの速度だ。

 おかげで、運動場の近くに来るまでに魔界竜巻に近付く事ができた。


「……ぐっ……むぅ……このままここにいるのはまずいな……」

「バハムーさんは帰って下さい。これ以上、ここにいるのは危険です。風に飛ばされてしまいます!」

「……そうだな、わかった。ここから先はお前達に任せる事にしよう。……本当は、私達でどうにかしたいのだが……」

「無理はよくありませんよ。後は任せて下さい」


 バハムーさんが俺達を羽で守りつつ、ぶつかって来た岩と風に体が押されるのを見て、ここにとどまっていられる時間もあまりないのだと思わされる。

 魔界竜巻はこちらに近付いて来ているから、あまり長居をしてしまうと、バハムーさんが飛ばされかねない。


「……ユウヤ」

「どうしたんですか、バハムーさん?」


 飛び立とうとする準備をしながら、バハムーさんが俺に声をかけて来た。

 何やら神妙な感じだけど、どうしたんだろう?


「無事ここから帰って来たら、酒でも酌み交わそう。私のライバルよ」

「ははは、ドラゴンからライバルと認められるなんて、光栄ですよ。お酒は……あまり飲み過ぎない程度なら、ですね。ははは……」

「はっはっは! 私と酒を酌み交わすのなら、飲み過ぎないなどできないだろうがな! ……ではな……」

「はい、またお城で!」

「バハムーさん、ありがとうございました!」


 以前から、俺を好敵手のように見ていた感じのあるバハムーさんだけど、ここに来てはっきりとライバルだと認めてくれたようだ。

 まぁ、俺はそんなつもりはないんだけど、ドラゴンからライバルと認められるなんて、そんな事この世界に来るまで考えられなかった事だ。

 バハムーさんと笑って言葉を交わし、カリナさんと一緒にお礼を言って、飛び立つバハムーさんを見送る。

 バハムーさん、城の方面に行くから風に押されて凄い速度で見えなくなったな……怪我とかしてないと良いけど。


「……バハムーさんがいなくなったら、すごい風だね?」

「そうね。ユウヤさんのおかげで助かってるわ」


 バハムーさんが俺達を守ってくれていた羽が無くなった途端、俺達に襲い掛かる凄まじい暴風。

 俺の左腕でカリナさんの体を支えつつ、飛んで来る岩を右手で弾く。

 そうして、少しづつ風に押されないよう前に進んで、魔界竜巻へと近づいて行く俺達。


「……あれが、魔界竜巻の本体……かな?」

「そうみたいね……とんでもない大きさだわ」


 しばらく飛ばされないように、少しずつ前に進んでいたところで、遠くの方に巨大な竜巻が見えた。

 それはバハムーさんどころか、マリーちゃんの城よりも大きく、見上げても頂点が見えない程だった。

 竜巻は荒野の岩や砂を巻き上げて回転している……中に入ってしまうと、人間じゃなくてもただでは済まないだろうな……。


「ぐぅ……風が強くなって来たね……」

「そうね……ちょっと息をするのもしんどいくらいだわ。……それだけ近付いたって事なんでしょうけど」


 魔界竜巻へ向かっている俺達とは別に、向こうもこちらへと近付いて来ている。

 大きさから、あまり近付いたようには見えないけど。

 でも、段々と吹き付けて来る暴風が強力になっているから、近付いているのだとすぐにわかる。


「おっと! ふん! はっ!」

「ありがとう、ユウヤさん」

「なぁに、俺にはこれくらいしかできないからね。よっと!」


 近付くにつれ、さっきよりも大きな岩が飛ばされてくるようになった。

 それを、俺やカリナさんに当たらないよう、右手を使って叩き落したり弾いたりする。

 カリナさんにお礼を言われるが、俺にはこれしかできないからな……。


 魔界竜巻の本体をどうにかする事はできない……というのは目の前にするとよくわかる。

 あの大きさの竜巻は、身体強化(極限)でどうにかできる物じゃない。

 でもあれが魔法であるなら、カリナさんの全魔法反射で跳ね返せるのだろう。

 身体強化(極限)を駆使して近付き、全魔法反射で跳ね返す……二人でこの世界に来たのは、このためだったのかもしれないな。



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