第40話 夫婦の共同作業で魔界竜巻へ



「……能力をくれた神様には、感謝しないとね?」

「そうね。おかげで、マリーちゃんのために何とかしてあげられるわ」

「そうだね。俺達の娘のためにも、頑張らない……と!」


 カリナさんと話しながら、前に進んで飛んで来る岩を叩き落す。

 マントに顔の鼻部分までを隠してるおかげで、カリナさんは呼吸と会話ができるようだ。

 重りも入ってるから、カリナさんを支えるのも少し楽なんだろう……作ってくれたコボ太には、帰ったら改めてお礼をしよう。


 ピシャーン!


「うぉ!」

「きゃ!」


 少しずつ近くなる竜巻。

 その途中で、今まで風と飛ばされて来た岩だけだったのが、急に稲妻が迸り始めた。

 ……これが、魔力の氾濫によって時折おこる、自然の魔法発動……かな?


 ピシャーン! ピシャーン!


「カリナさん!」

「……大丈夫よ。ちょっと怖かったけどね」


 カリナさんに向かって、二つの稲妻が迸り、直撃する。

 岩と違って早過ぎたため、対処出来なかったんだが、それが魔法だったおかげでカリナさんに当たり、空に向かって弾かれた。

 全魔法反射か……助かった。


「岩は俺が、魔法現象はカリナさんが……だね」

「そうね。協力して進みましょ」


 飛んで来る岩は魔法ではないため、俺が対処する。

 魔法はカリナさんが全魔法反射で弾く。

 どちらか片方では、前には進めなかっただろうな……。


「やっぱり、マリーちゃんを連れて来なくて正解だったね」

「そうね。私達だから協力して進めるけど、これでマリーちゃんもいたら……いくらマリーちゃんが強いからって……ね」

「そうだね。それに、やっぱり娘をこんな危険な場所になんて、連れて来たくない」

「そうね……」


 いくらマリーちゃんが強くても、この風と岩、魔法の嵐だとどうにもならなかったかもしれない。

 一人である程度は対処できるのかもしれないけど、近付くごとに強くなる風や魔法の嵐は、いずれ対処できなくなるかもしれない。

 あの小さな体で、岩や魔法に当たったり、風に飛ばされてしまったり、竜巻の中に入ってしまう事を想像すると、改めてつれて来なくて良かったと思う。


 ゴウっ!


「うぉ!」

「大丈夫よ!」


 俺の目の前を炎の塊が通過し、それをカリナさんが手を出して弾く。

 いきなり来たから驚いたが、カリナさんは冷静に魔法だと考えて弾いてくれたようだ。


「ありがとう、カリナさん」

「魔法なら私が、ね。ユウヤさん」

「そうだね」


 魔法は稲妻だけでなく、炎や氷なんかも混じっている。

 どうやら、魔力が作用して様々な魔法になっているようだ。

 色んな魔法が見られるのは、楽しいのかもしれないけど……こんな場面じゃなく、もっと危険がない状況で見たかったなぁ。


「ふん! はっ! てや!」

「危ない、ユウヤさん!」

「カリナさん!? くそっ!」


 飛んで来る岩を右手一本で弾いていると、いくつかの岩の影から魔法の氷も飛んで来た。

 それをカリナさんが弾くと同時、また岩も飛んで来る。

 叫びながらその岩を弾いて、カリナさんに当たってないかを確認する。


「カリナさん、大丈夫?」

「大丈夫よ。岩は当たってないわ。魔法なら、何て事ないしね」

「良かった……」


 なんとかカリナさんに、岩が当たらずに済んだみたいだ。


「さらに風がきつくなって来たね……」

「竜巻が近付いてる証拠ね。魔法も、さっきより多く飛んで来てるわ」


 竜巻は俺達へと着実に近づいてきており、もうその大きさを把握する事はできない。

 見上げても上部分が見えないだけだったのが、今では端も見えなくなっている。

 視界いっぱいに、竜巻で埋め尽くされてるような状態だ。


 竜巻に近付けば近付く程、風が強くなり、飛んで来る岩や魔法も多くなって来ている。

 竜巻自体は意思がなく、俺達を標的にしているわけでもないので、岩や魔法が他の方面へと散らばってくれてるから何とかなってるけどな。

 これが、全て俺達に向かって来たら……対処はできなかったかもしれないな……。

 魔法はまだしも、岩に対処するのも、そろそろ限界だから。


「カリナさん、俺の後ろに……体に掴まるってできないかな?」

「え? どうするの?」

「さすがに片手だけで岩を弾くのは、限界が来そうだからね……」

「……わかったわ」


 カリナさんに声をかけ、ゆっくりと位置を変えて俺の体にしがみ付いてもらう。

 俺の後ろから両手と両足を使って、背中から抱き着いて来る形だ。

 後ろにいるから、前にいる俺に竜巻からの風が当たって軽減され、カリナさんでもなんとか飛ばされずに済んでるようだ。

 これなら、どれだけの岩が飛んで来ても、両手や両足を使えば対処できる!


「でもこれだと、私が魔法を弾けないわ! どうするの?」

「それは、こうやるんだよ」


 しがみついてるカリナさんが、魔法はどうするのかと聞いて来るけど、この状態なら自由に動く事ができる。

 飛んで来た炎の塊を横に動いて避け、上から落ちて来た氷や、迸る稲妻も全て躱す。

 ある程度見慣れて来たからか、魔法が来る前兆のようなものを感じて、避ける動作をする事ができてるんだ。

 ……マリーちゃんの作ったシャドー数体と、避ける訓練をしていて良かった……。

 シャドーの攻撃は魔法じゃないけど、それでも避けるという動作が楽にできるようになったのはありがたい。


「さて、これ以上ゆっくり近づいていても、こちらが疲れるだけだから……」

「どうするの?」

「走るんだ……よ!」


 飛んで来た魔法を避けながら、竜巻に向かって走り出す。

 身体強化(極限)が強くなって来たおかげか、凄まじい暴風の中でも前に向かって走ることができる。

 もちろん、岩を弾いて魔法を避けながらだから、全速力とは程遠い速さだけど。


「はぁ……はぁ……はぁ……結構、近づいたね?」

「……大丈夫?」

「何とかね。さすがに、息切れは仕方ないかな」


 ある程度走ったところで、乱れた息を整えるために止まる。

 いくら身体強化(極限)を発動していても、酸素不足は仕方ないからな。

 呼吸の方は、どれだけ強い風が吹いて来ても何とかできるから、恩恵はばっちり受けてるんだけど。


「はぁ……はぁ……よし!」

「かなり近くなって来たわね」

「そうだね。その分……おっと。風も魔法も……っと! 強くなって来たけど……ねっ!」


 飛んで来る岩を弾き、魔法を避けながらカリナさんとの会話。

 視界いっぱいに広がる竜巻は大き過ぎて、近いのか遠いのかの距離感がいまいちわかりづらい。

 ただ、強くなる風が、確実に近付いて来ている事を教えてくれている。


「もうすぐ……もうすぐだ……」

「頑張って、ユウヤさん!」


 背中にしがみ付いているカリナさんの声援を聞きながら、少しずつ竜巻へと近づく。

 これだけ近くで強い風を受けてると、走る事はできそうに無いな。

 飛んで来る岩を弾きながら、ジリジリと近づいて行く俺。


「危ない!」

「え? ……くっ!」 


 さっきまで、大きな岩ばかりだったから、それだけを見て弾いていたけど、カリナさんの叫びで気付いた。

 飛んで来たのは拳くらいのサイズの石で、カリナさんのおかげで何とか避けられたけど……さっきまでこのくらいの大きさは飛んでこなかったのにな……。

 もしかしたら、岩同士がぶつかって小さくなった物なのかもしれない。


「……あ、ユウヤさん。血が……!」

「大丈夫。かすっただけだよ」


 避けたと思った石だけど、どうやら少しだけ当たっていたようだ。

 いくつも飛んで来た石は俺の頬の肌を裂いて、そこからは少しだけ血が滲んでいる。

 痛みはあるが、それに構っていられる余裕もなく、次々と襲い掛かって来る岩や魔法に対処するので精一杯だ。

 ……腕の方も多少かすったようだけど、マントのおかげで傷は負わなかった……ちょっとマントが裂けてるくらいだな……助かった。

 腕や足に怪我をしたら、当然動きも鈍る可能性があるからなぁ。


「……ん?」

「え? あれ?」


 そろそろ竜巻本体が目の前に迫って来ていた頃、突然、ピタリと岩や魔法、そして風が止まった。

 その場所は、シーン……と静まり返った空間のようになっている……後ろをちらりと見ると、そちらではまだ魔法や岩が乱舞しているのが見えた。


「一体、どういう事なんだ……?」


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