第53話 決勝戦バハムー対ユウヤ



「はぁ……カリナさんにどう言うかなぁ……」

「続いて決勝戦が行われます! ですが、選手には休息も必要です! これより30分、休憩時間としますので、その間に観客の皆様はおトイレなどを済ませておいて下さいませ!」

「そんな案内までするのか、アナウンさん……」


 控室に戻り、一人になって溜め息を吐いていたら、アナウンさんの声で休憩時間になる事を知った。

 ……カリナさんのフォローを考えてたから、頭から抜け落ちてたけど、次は決勝戦なんだよなぁ。

 相手はバハムーさんか……。


「アムドさんがそうだったように、木剣は効かないだろうな」


 バハムーさんの皮膚は金属並みに硬くなるので、木剣が通用するとは思えない。

 そもそも剣を持って攻撃しようとしたら、力を入れ過ぎて壊してしまう可能性もあるから、素手の方が良いだろう。

 盾は……どうだろう……バハムーさんの攻撃をガードしても、そのまま飛ばされそうだしなぁ。


「そもそも盾は、魔法対策のために持って行ったんだし……バハムーさん、魔法使うのかな?」


 今まで、バハムーさんが魔法を使ってるのは見た事が無い。

 力自慢という事だから、魔法が使えないのかもしれないな……今回は盾無しで身軽に行った方が得策か。


 リッちゃんとの試合は、盾が役に立った。

 一人を対象にするような魔法しか使えず、規模の大きい魔法は禁止……というルールだったから、という事が大きいだろう。

 もし、ルール関係無しに対戦していたら、大規模な魔法で盾なんて関係なくやられてただろうしな。

 あれだけ魔法が使えるリッちゃんが、大規模な魔法を使えないなんて事はないだろうし……。


「ルールに救われたというか、なんというか……ともあれ、次のバハムーさんだ。訓練は結構したけど」


 マリーちゃんのシャドーとの訓練で、バハムーさんぽいドラゴンのシャドーとは、散々訓練をした。

 その中で、どうしても決定打を決める事が出来なかったんだよなぁ。

 こちらから触ればシャドーは消えるけど、バハムーさんは違う。

 想定バハムーさんでやっていたとはいえ、強力な一撃をシャドー相手に入れられたような状況はほとんどなく、しかもそれが実際のバハムーさんに通用するかどうかわからない。


「まぁ、やるだけやるしかないか……」


 ともあれ、以前バハムーさんとアームバトル……腕相撲をした時、バハムーさんの指を折った事はある。

 その時の手ごたえを頼りに、何とかするしかないだろうなぁ。


「とりあえず、少しでも体を休めよう……」


 ここまで、ほとんど連戦して来たようなものだから、当然体は疲れてる。

 身体強化(極限)のおかげで、普通に動くよりも疲労は少ないが、それでもだ。

 キュクロさんやリッちゃんとの戦いは、結構ハードだったから仕方ない。

 せっかくの休憩時間、できるだけ休んで万全の状態でバハムーさんに挑もうと、椅子に座って目を閉じ、できる限り休む事にした。

 ……あ、その前に水を飲んでおこう、汗も掻いてるから水分補給しとかないとな。



「皆様、休憩時間の終了をお知らせします」

「休憩も終わりか……」


 アナウンさんの声を聞いて、目を開け立ち上がる。

 休憩時間も終わって、遂に闘技大会決勝だ。


「ん……大丈夫そうだ」


 少しだけ体を動かして、調子を確かめる。

 休む事に集中したおかげで、これまでの戦いの疲労はほとんど残っていないようだ。

 ……これも、身体強化(極限)のおかげかな?


「よし、行くか!」


 気合を入れ、控室になっているテントを出たところで、俺を呼びに来たらしい案内の人に会い、そのままステージへ……。



「皆様! いよいよ、いよいよです! この闘技大会、待望の決勝戦がこれより開始されようとしています! 今大会の優勝者が、ついに決定されようとしています! 勝ち上がって来たのは、我らが四天王、バハムー様! ドラゴン族の長であり、その体から繰り出される攻撃はいずれも強力! さらにその皮膚は硬く、生半可な魔法や剣は全て弾き返します!」


 ステージの近くまで来た頃、アナウンさんの声が辺りに響く。

 いつになく力が入ってるようだ。

 ……この決勝で最後なんだから、当たり前か。


「対するは、我らが魔王様……マリー様の親代わり。今大会唯一の人間でありながら、その動きは華麗! ユウヤ様です! 人間であるユウヤ様が並み居る猛者を打ち倒し、ついに上って参りました決勝戦! 強大無比なドラゴン族、バハムー様! 快進撃を続ける人間、ユウヤ様! 決勝戦ではどのような戦いが繰り広げられるのか!? 魔界中が注目する一戦となるでしょう!」


 会場中に響くアナウンさんの声を聞きながら、ステージへと上がる。

 同時に、辺りの地面を揺らしながらバハムーさんも向かいから上がって来る。


「ここまで来たか、大したものだな。ユウヤよ」

「能力のおかげ、と言いたいですが……それだけでなく、勝つために色々頑張りましたからね」


 主にマリーちゃんとの訓練とかな。


「さすがは俺のライバル……と言ったところか。だが、ここは俺が勝たせてもらう!」

「生半可な力じゃ、バハムーさんに勝てないのはわかっていますが……それでも約束しましたから。俺が優勝して見せますよ!」

「睨み合う両者! 戦う準備は万全のようです! 二人から発せられる気迫に、我々も素晴らしい戦いが行われる事を期待しましょう!」

「決勝戦、始め!」

「むんっ!」

「ふっ!」


 マリーちゃんの合図で、ついに始まった決勝戦。

 と同時に、バハムーさんが俺を押しつぶすように力を込めて、腕を振り下ろす。

 それに向かい、俺も力を込めて拳を打ち付ける。


「ふっ……これくらいじゃあ、さすがに潰れてくれないか」

「なんとか、ですけどね……」


 バハムーさんの腕を、俺の拳で迎え撃ち、押しとどめる。

 身体強化(極限)を使ってるのに、手ごたえがあり過ぎて拳が痛いくらいだ。


「両者打ち合う! しかし、お互いの手を打ち合ったまま止まったぁ! これは、両者の力が同じという事を意味しているのか!?」

「だってよ? 俺達の力は拮抗してるらしいぞ?」

「ははは、バハムーさんと同等と見られるのは、光栄ですよ」

「ふ……だが、これならどうだ!」

「危ないですね……当たるわけにはいきません!」


 腕を引き、凄い速さで回転したバハムーさん。

 これはマリーちゃんとの訓練でも見た事のある、回転尻尾攻撃だ!

 大きな尻尾が俺に向かって来る中、大きく飛んで避ける。

 数舜前まで俺のいた場所を通過する、バハムーさんの尻尾。

 さすがに、これに当たったら簡単に場外まで弾き飛ばされそうだな……シャドーよりも早くて重そうだ。

 大きな尻尾だから、飛んで避けるしかできない。


「あの速度を避けたか……」

「訓練、しましたからね……」

「目にも止まらぬ尻尾攻撃! しかしユウヤ様もそれを軽々と躱す! 素晴らしい戦いです、目が離せません!」

「そら、もう一度だ! はぁ!」

「当たりませ……ぐぅ!」

「当たった! バハムー様の拳がユウヤ様の体に当たったぁ!」


 もう一度、バハムーさんが高速で回転して来たのを、また飛んで避ける。

 すぐに着地しようとした俺に、尻尾を避けられたバハムーさんが、回転の反動を生かして拳を俺の体に叩き込んだ!


「……どうだ?」

「結構、痛いですね……」


 ステージの真ん中から、端まで俺を軽々弾き飛ばしたバハムーさんの拳。

 回転の勢いが付いているとはいえ、この威力は何度も当たっていたら危ないな。

 ズキズキと痛むガードした右腕を動かして、無事な事を確認しながら、ゆっくりとバハムーさんへと近づく。


「ユウヤ様、バハムー様の拳の直撃を受けたにも関わらず、平気な様子です! 人間がここまで耐えられるとは、誰が予想したでしょうか!?」


 平気でもなんでもなく、痛みを我慢してるだけなんだけどね、アナウンさん。

 確かに、普通の人間がこれを受けたら、ただじゃすまなかっただろうなぁ……。

 頭の中で、アナウンさんの実況へそう返しながら、次の攻撃への動作を開始するバハムーさんを見て、次へと備えた。



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