第5話 マリーちゃんとのお話



「幻を操る魔法じゃ。マリーは見た目で舐められる事が多いのじゃ。じゃから、人間が襲って来た時には、威圧するために幻で姿を変えているのじゃ。じゃが……そっちの女には、反射の力で幻魔法が効いておらんかったようじゃ」


 俺達の能力を聞いて、納得顔のマリーちゃん。

 幻を見せる魔法というのが反射されて、効果が無かったから、香梨奈さんには最初から小さな女の子に見えてたわけか。

 ……だから最初、自分の魔法が反射されて吹き飛ばされたマリーちゃんに対し、香梨奈さんは無防備に心配して近づいたんだな。

 大男だったら、あれくらいの事で心配そうにする事は無かったんだろう。

 それにもしかしたら、幻だから香梨奈さんを殴った時、大した怪我が無かったのかもしれない。

 俺が見ていたあの太い腕で殴られたら、怪我や痛みでしばらく動けなくなりそうだし。


「魔王も大変なのねぇ?」

「そうなのじゃ。人間達は皆、マリーがマリーのままだと、笑うのじゃ……」


 幻の魔法を考えているうちに、香梨奈さんがマリーさんに同情するようにしている。

 確かに、侵入者が襲って来て真面目に戦おうとしている時、見た目で笑われたら嫌だよな。


「こんな子供を襲うなんて、やっぱりあの人達を追い出して正解だったな」

「子供とは失礼じゃ! マリーはこれでも大人じゃぞ!」

「……どこが?」

「キー! マリーは大人なのじゃ! 148歳になったんじゃぞ!」

「え? 148?」

「長生きなのねぇ」


 マリーちゃんは、子供と言った俺の言葉に反応して憤慨。

 俺の聞き間違いでなければ、148歳って聞こえたんだけど……気のせいだよな?


「本当なのじゃ。マリーは生まれて148年……ずっと魔王をしているのじゃ!」

「嘘じゃないのか……異世界だから……あり得るのか?」


 異世界、それも角が生えてるから人間とは違うのだろう。

 香梨奈さんに見せてもらったラノベでは、魔族……とか言ったっけ?

 それによると、人間より長生きで、100歳を越えても若い容姿をしているキャラクターなんかもいたっけな。


「ずっと一人だったのね。こんなかわいい子が……」

「ぶっ……離すのじゃ、何をするのじゃ! 顔が、顔が! 薄い胸よりも、骨に当たって痛いのじゃ!」

「あ……」


 ずっと両親もおらず、長い間魔王をして来た、見た目が子供のマリーちゃんを見て、感極まったように香梨奈さんが力いっぱい抱きしめる。

 香梨奈さんの胸に頭を抱えられていたマリーちゃんは、じたばたしながら言ってはいけない事を言ってしまった。


「離……痛い痛い! 痛いのじゃ! 何故じゃ、抜け出せんのじゃ!? 痛い痛い痛い!」

「……マリーちゃん? 世の中には言って良い事と、いけない事があるのよ……?」

「ごめんなさいなのじゃ! 痛い痛い! 謝るから、離してくれなのじゃ!」


 香梨奈さんは、スレンダー美人だ。

 長い黒髪をした、和服の似合う美人……と言うのが一番良いか。

 和服って、胸が大きいとみっともなく見える、と聞いた事がある。

 つまり香梨奈さんは……これ以上は俺の命の危険が危ないので、考えるのをやめておこう。

 ……あのベアハッグ、痛いんだよなぁ。


「まったく……女性の体の事を指摘しても、誰も幸せにならないのよ?」

「……わかったのじゃ……痛かったのじゃ……怖いのじゃ」

「……それに私は、まだ成長途上なのよ」


 28歳にもなって香梨奈さんは何を言っているんだか……とか思わないぞ、絶対。

 命が惜しいからな。


「勇弥さん、何か?」

「……ナンデモアリマセン」

「発展途上という事は、マリーと一緒じゃな! マリーもいつかは大きくなるのじゃ!」


 こちらもこちらで、148年も生きて来て小学生くらい小さいのに……と思わなくも無いが、長寿だから望みはあるのかもしれない……知らんけど。


「それで、そなた達の名前は? マリーだけ名乗ってそちらが名乗らないのは、不公平じゃぞ?」

「そういえば、そうだったな」


 マリーちゃんに言われて、自分達がまだ名乗ってすらいない事を思い出す。


「俺は宝角勇弥。それでこっちは……」

「宝角香梨奈よ、よろしくね」

「ホウスミ……言いにくいのじゃ。ユウ……カリ……ユウヤとカリナで良いな!」

「それで良いよ、マリーちゃん」

「ええ。嬉しいわ、こんな可愛い子に名前を呼ばれるなんて……」


 香梨奈さんと一緒に自己紹介。

 苗字が一緒なのは俺達が夫婦だからだが、案の定、宝角という苗字は言いにくかったか。

 昔からの事だから、慣れたけどな。

 俺達を勇弥、香梨奈と呼ぶ言い方が、カタカナ読みっぽかったが……それも仕方ないのかもな。

 漢字なんて、この世界には無いだろうし。

 混乱しないよう、これからは、ユウヤとカリナで良いか。


「それで二人が住んでいた場所は、どんなところだったじゃ?」


 俺達が召喚されて、こことは違う場所から来たという事を知っているマリーちゃんは、どういう所なのか興味があるようだ。

 俺達は二人で元居た世界、日本の事をあれこれ説明した。


「ふむぅ……電気……スマーホ……よくわからん世界じゃ。魔法が無いというのは不便じゃのう……」

「そうでもないさ。魔法の代わりに色々な技術があったからな」

「スマホとか、色々できて便利だったわねぇ。ここに来る時に何かあったのか、今は壊れちゃってるけど……」

「おぉ、それがスマーホか!」

「スマーホじゃなくて、スマホな? スマートフォンを略してスマホだ」


 スマートフォンなら、略語にしたらスマフォとかスマフォンじゃないか? という疑問もある。

 スマフォは以前にあったが、結局スマホで定着したんだよな……というのはどうでも良い事か。

 カリナさんが、自分のスマホをポケットから取り出したのを見て、俺も同じく取り出す。

 しかしスマホの画面は、真っ暗なままで何も反応しない。


 電池はこの世界に来る直前まで使っていて、残ってるのを確認してるから、カリナさんの言う通り、壊れてしまったんだろう。

 まぁ、どうせこの世界に電波が通ってるわけがないから、電源が入っても使えないだろうけどな。

 ……メモ帳とか、オフラインでも使えるアプリも使えないのは、ちょっと惜しいかもしれないが。


「触ってみる? 壊れてるから、使えないけど……」

「触る、触るのじゃ!」


 カリナさんが、好奇心いっぱいの表情で見ているマリーちゃんに、スマホを渡す。

 受け取ったマリーちゃんは、平べったい長方形のスマホを物珍しそうにあちこち触り、色んな角度で見る。

 なんだか、初めて玩具を渡された子供みたいだな。


「不思議な触り心地なのじゃー。すごいのじゃー。けど、これは何に使うのじゃ?」

「えーっと……遠くに離れた人と話す……ため?」


 他にも用途は色々あると思うけど、一応携帯電話と考えるとそれがメインだろう。

 インターネットとか、説明して理解してもらえるとは思えないが。


「ほぉー。遠話の魔法と同じなのじゃなー。なんじゃ、そっちにも魔法があるのじゃ?」

「遠話? 何だそれ?」

「遠くにいても、同じ魔法を使える者と会話をする魔法じゃよ? これにもかかっておるのじゃろ?」

「マリーちゃん、それに魔法はかかってないわ。電波という物があってね、それが双方向で通じる人とお話しできるのよ?」

「電波? よくわからんのじゃ!」


 まぁ、そりゃそうだよなぁ。

 神様は剣と魔法の世界と言っていたから、詳しい事はわからないが、ファンタジーっぽい世界の事だと思う。

 そんな世界に、電波で通信するような技術があるとは思えないし……そもそも電波を発する機械すら無さそうそうだ。


「うぅん……はっ!」

「ん?」

「なんじゃ?」


 スマホを持ってはしゃぐマリーちゃんを、カリナさんと一緒に微笑ましく眺めていると、何処からかなまめかしい声が……いや、変な事は考えて無いよ?

 俺とマリーちゃんがキョロキョロと辺りを見回して、一点で視線が止まった。


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