第37話 魔物大運動会開催の理由



「マリーちゃん……寂しそうだったわね……」

「……そうだね」

「さもあらん。マリー様は運動会を行う事を、楽しみにしておられたからな」

「俺達のためだってなぁ……」

「私達魔物のために、せっかくマリー様が考えて下さったのに……」

「むぅ……」


 部屋に戻るマリーちゃんを見送った後、四天王の皆さんと俺達は、まだ広間の円卓についたままでいる。

 運動会が中止になった事や、マリーちゃんの様子を見て、皆鎮痛な面持ちだ。


「でも、どうして運動会なんですか?」


 魔物大運動会……魔界に住む魔物達が参加し、皆で競技を行うものだが……そもそもどうして、運動会を開催しようと考えたんだろう?

 魔物達が揃って競技をする……というのは、楽しそうではあるけどな。


「マリー様が、我ら魔物達の結束を高めるためと、考えて下さったのだ」

「結束? でも、今のままでも十分な気がするんですが?」

「ユウヤ様。魔界には魔物が無数にいます。マリー様が魔王になるまでは、色々な魔物、種族が入り乱れて争っていた事もあるのです」


 それは何となく聞いた事がある。

 確か、地下の闘技場を使う時だな。

 力が全てのような時代があったらしく、魔物同士で争う事はよくある事だったと。

 魔物と魔物が殺し合う光景が、そこかしこに見られたらしい……今の魔界を見ていると、よくわからない事だけど。


「マリー様が魔王になられた事で、魔界の魔物達は平穏に過ごすようになりました」

「だがな、まだ血の気の多い魔物ってのはいるんだ、ユウヤ様」

「血の気が多い?」

「あぁ。前時代の名残を残し、強い力が魔物の格を決める……って考えの種族だな」

「強い力……」

「私達も、まだ少しくらいはそういう所が残ってるわ。……これは魔物としての本能かもしれないわね」


 種族によって考え方ややり方は違う……というのはわかる話だ。

 地球でも、民族によって常識や生活様式が違うしな。

 その中でも、前時代的な考えをしている魔物の種族、というのが残っているようだ。


「その種族達は、おとなしくマリーちゃんに従ってるんですか?」

「私達には、魔王であるマリー様に従わなければいけない……という本能もあるからね」

「成る程……それで無理矢理抑えてるわけですね?」

「無理矢理……という程でもないがな。マリー様の強さもあって、逆らう魔物はいない。だが……」

「それが、種族間になるとそうでもないって事だな」

「種族間……」


 マリーちゃんには従うけど、種族間では仲良くできていない……という事か。

 マリーちゃんの手前……表立って争ったりはしないが、喧嘩をするくらいはあるんだろう。

 争いとまでは言わないが、フェイスツリーのジンメンさんは、同じ木の魔物であるトレントという種族に、自分達を差し置いて木材として使われたくない様子だった。

 似たような事は、他でもあるんだろう。


「そこでだ、マリー様がその種族間の関係を改善しようと考えられた」

「……それが、運動会……ですか?」

「そうだ。運動会で魔物達を競わせる事で、仲良くなろうって寸法だな」

「参加する魔物で、チームを組む時の種族規制が無いのはこのためね」

「種族によって得意な競技、不得意な競技があるからな。そのため、不利を無くすために別の種族と組むことが推奨されるわけだ」


 種目によってはチーム戦で行うが、どうしても体の小さい種族が不利になったり、大きな魔物が不利になる物がある。

 優勝を狙うのなら、そういった不利の部分を無くすために、別の種族と組む事を余儀なくされるのか。


「それに、直接戦うのではない種目で魔物達を競わせ、血の気の多い種族のストレス解消も、兼ねている」

「直接戦わなくても、競う事で納得させるわけですね?」

「そうだ。まぁ、それだけでは不十分だから、闘技大会なんてのも用意されたんだ」

「でも、殺し合うのが目的じゃないから、出場者ができるだけ怪我をしない方法が必要だったの」

「それが、武器の規制や魔法の規制……というわけなんですね」


 俺がこの世界に来て、初めての会議でその事が話し合われてた。

 そう考えると、木剣というのはちょうど良かったのかもな……当たり所が悪いと危ないけど。

 相手を殺す事は失格……というルールもそのためか。


「マリーちゃんも、色々考えてるのね……」

「そうだね。魔王として、魔界を良くしようとしてるんだろうね」


 カリナさんと、マリーちゃんが魔界を良くしよう、皆で仲良くしていこう、という気持ちを持っている事を理解し、納得する。

 今まで娘として可愛がってきたけど、俺達よりよっぽどしっかりしてるなぁ……まぁ、年齢や役職を考えると当然なのかもしれないが。


「中止か……また何か別の事を、マリーちゃんと考えよう?」

「そうね……でも……」

「カリナさん?」


 マリーちゃんと一緒に、運動会以外の事で魔界のためになる事を考えようと、カリナさんへ声を掛ける。

 その言葉に、カリナさんは一度頷いたが、それでもまだ俯いて何かを考えている様子。


「……アムドさん、魔界竜巻は魔力の氾濫って言ってたわよね?」

「はい。魔力が集まり過ぎた事で、巨大な竜巻となって荒れ来るってしまうのです」

「それは……魔法とは違うのかしら?」

「魔法……魔力が素なので、魔法とも言えますが……」

「カリナさん、もしかして……?」

「ええ。それが魔法であるのなら、私の全魔法反射で跳ね返せるかもしれないでしょ?」


 カリナさんが考えていた事は、全魔法反射で魔界竜巻を跳ね返せるかどうか……らしい。

 アムドさんが言うには、魔力が集まってできた物だから魔法とも言えるらしいけど……。


「危険です、カリナ様! 魔界竜巻の周辺では、風が荒れ狂っています。人間がその風に近付く事はできません!」

「そうだぜ、カリナ様。俺やバハムーでもあの風に近付いたら、ひとたまりもなく飛ばされるんだ」

「うむ。風に乗り、空を飛べる私でもあの風はどうにもならん。人間など、一瞬で飛ばされるだろう」

「その風は、魔法では無いの?」

「魔力が集まって発生した物ではありますが……何故かその風は魔法ではなく、自然に発生した物のようです」

「マジックシールドでも、何の効果もないものねぇ」


 魔界竜巻の周囲で発生している風……暴風は魔法とは違う物らしい。

 どういう理屈で発生しているのか、マジックシールドがどんな物なのかはわからないけど、魔法とは違うものであるのなら、カリナさんに反射する事はできないだろう。

 台風中継であるような、傘が折れ、立っているのがやっとの状況よりも酷い暴風なんだろうな。

 バハムーさんやキュクロさんが飛ばされるとか、人間に耐えられるはずもない。


「それなら、ユウヤさんがいれば大丈夫よ。ね?」

「え? でも……」


 カリナさんは、俺が身体強化(極限)で風を耐え、魔界竜巻を全魔法反射で跳ね返すつもりのようだ。

 俺の身体強化(極限)なら、風に耐えられると考えてるのかもしれないけど……さすがにバハムーさんやキュクロさんのような巨体を、軽々と吹き飛ばすような暴風に耐えられる気はしないんだけど……。


「大丈夫よ。最近、ユウヤさんは訓練してたでしょ? それを見てれば、風にもきっと耐えられるような気がするわ!」

「いや……でも、バハムーさんやキュクロさんも飛ばされる風だよ? それに耐えられるとは思えないんだけど……」

「でもユウヤさん……私が言わなくても、魔界竜巻の通過する場所へ言うつもりだったわよね?」

「……まぁ、ね」


 何て事のないように言うカリナさんだが、ずばりと俺の考えていた事を当てられた。

 マリーちゃんが皆の事を考えて、ようやくそれが実現しそうな時……それを全て滅茶苦茶にしようとしてる魔界竜巻だからな……おとなしく待ってなんていられない。

 ……例え無謀と言われても。

 何ができるかはわからないけど、身体強化(極限)を使って何かできる事は無いかと考えてた。

 できるだけ表情には出さないようにしてたんだけど……やっぱり、カリナさんにはお見通しなようだね……俺の事をよく見てるなぁ。



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