第42話 怨恨の連鎖

 豊後北部の山岳地帯では大友軍と反乱軍の戦闘が繰り広げられていた。

「尾張守の悪行を許せるのか!」

「執政殿の行いを責める気は、私にはない。右馬頭うまのかみ、なぜ謀叛が失敗したときに武士らしく身を処さなかった!」

「我が妻の仇をこの世に残したまま死ねるか! 左衛門尉さえもんのじょう、お前なら腹を切ったとでも言うつもりか!」

 田原親貫が勢いよく槍を繰りだす。馬上、身をかわしながら、親次が攻撃を返した。

「照世殿のことは不憫におもう。……が、それも乱世。貴公のほうにも落度はあろう!」

「落度だと? あの男の専横を棚にあげて、落度だと!」

 親貫の目の憎悪の焔がなお一層激しさを増した。

(次郎……。名門田原家の跡目という栄達を逃した怨みが貴公の人柄をも変えてしまったのか……。………だとしたら、執政殿と何が違うというのだ………)

 辺り一帯は修羅場とかしている。足軽や武者たちの断末魔の叫びが絶え間なくつづいているのである。

「あの唾棄すべき俗物に加担する輩は、たとえ竹馬のお前でも生かしてはおけん!」

 連続の攻撃が、志賀親次を襲う。

「秋月種実にそそのかされただけなのだろう。そう信じたい!」

「叔父御? はははっ、大友を憎むのは、この鎮西に何も叔父御だけではない。お前らしからぬ浅はかさだな!」

(島津………龍造寺………それとも豊前の連中か? この戦いを望む奴らは)

 月光の照らす森には、人間たちの争いを見守る幾多の生命が存在する。親次の内なる憤激、秘められた能力の覚醒がちかづいている。

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