第10話 鹿児島の老者
「これが、敵の本拠か……」
ほんのり薄紅がさした桜島のシルエットの背後には、紫がかった茜雲が空中を切れ切れに漂っている。
その感覚は、初めて見る光景に対する感慨が引き起こしたものか。だとしても、この国独自の魅惑的な情景であることには違いはない。
時刻は
ここに来ることは、通常業務に穴が開くことを意味するが、この潜入は人任せにはできないことだった。日常の仕事は、他の信頼のおける
初夏の鹿児島は暑く、小袖の
弥十郎から見て左の方角には島津義久が普段生活している
そもそも内城は
城郭様式としては
平山城は丘陵の上、山城は険阻な山を利用して築かれるものである。山城としてもっともイメージしやすいのは、近江浅井氏の小谷城だと思われる。
一般的には、平山城、山城、共に防御的側面が強い。
平山城や山城の場合は、城主やその家族は普段は麓にある屋形に住むことが多い。外敵が侵攻してきたときだけ城を要塞として活用する。
だが平城は違う。
もちろん、城であるかぎり防御を目的の一つとしているの確かだが、それ以上にそこに住む人々の生活の場という意味合いの方が強い。
中央を制圧した織田信長のように、攻略目標に応じて頻繁に居城を変更するというようなことはしていなかった。
(
弥十郎はそう見ている。
そういう意味では信長は割拠する諸侯の中でもやはり格別の存在であった。
弥十郎は坂をくだり始めた。
城下に着く頃には太陽はすでに桜島の
弥十郎は通りに面した質屋の
しばらくすると、
(あの
弥十郎はその男に近づいていった。
「失礼。わたしは、武者修行のため諸国を
その武士は弥十郎の身なりを上から下まで眺めた。
「当家においては、身分の
「でしたら、これをご覧ください」
弥十郎は自身が相馬家の一族であるという
「なるほど。確かに」
「それでは?」
「よかろう。が、本日すぐに、というわけには参らん。十日はかかるが、それでも異存は無いか?」
「結構です。では、十日の後どちらに伺えば?」
「
その老体は顎をくいっと曲げて、自身の屋敷のある区画を示した。
「承知しました」
「相馬……三郎、とか申したな」
「はい」
「わしは、
「感謝致します、
「ふむ」
その男は、去り際に弥十郎を
「十日……。さて、どうするか。まあ、大人しくしておいた方がよさそうだ。あくまでここにきた目的は、……なのだからな」
弥十郎は、ポツリと
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