第12話 冷徹な侍女頭
「あのように不意をつくなんて……。
「無理もございません。姫様もそろそろ縁組みなさるお年頃。おなごの幸せは、良き殿方に嫁ぎ、丈夫な
「そうかしら?」
勝ち気そうな目が、
その瞳には、どこか冷たい印象がある、と芳野は思う。
(この利かん気の強さには、困ったものね……)
「世の中には、」
「女と男しかいない。それは聞き飽きました」
芳野はいつもそう
「おわかりなのでしたら……。ですが、この縁談は大殿様の御意思に叶うもの。お逃げになることは許されません」
「……わかています。そんなことは」
最終的にはいつも父を出してくるこの
この教育係は、いつもそうやって正論を振りかざしてくる。
そう思うと誾千代の胸に悔しさが込みあげてきた。かすかに唇が震える。が、彼女はそれを必死に隠そうとした。それを
一方、芳野は、誾千代の反発もよく分かるつもりであった。
好きでもない男と
が、道雪の意思には例え娘といえども逆らえないのだ。それは芳野も同じであった。
そう思うと、芳野は誾千代の沈んだ姿が
「どうしたの? 芳野」
「いえ、どうかお気になさいませんよう……」
誾千代は、つねづね芳野から女としての所作言動について教育を受けているため、
そんな日常のなかで、芳野を相手にして詩歌を詠んだり、貝合わせをしてうつうつとした気分をなぐさめたり、
「もう日も暮れましたから、本日はこれまでと致しましょう」
芳野は白くしなやかな手で伊勢物語の写本を閉じた。
夕闇が立花山城を浸し、漆黒が時を繋ぐ。
誾千代は、薄手の打掛の
この時代の人々は夕食は取らない。朝食と昼食だけであった。
その侍女は誾千代の書院の見回りを終えると道雪の書院へ向かった。
道雪が普段生活する書院と誾千代のそれは、
この屋形は書院造りが基本となっていた。
初夏の夜風が一陣の涼を
城番の足軽が
屋形の庭にも
門の前にも両脇に篝火があった。それは流れる微風に揺らめきながら前方に広がる暗黒を赤く染めている。
静けさのほうが、松の梢をそよぐ風の音にまさっていた。
その静寂を利用して、
影たちはなにかを探しているようだった。それはおそらく、彼らの目指す価値ある標的なのだろう。その影は並々ならぬ跳躍力で梢をかすめるが、物音ひとつたてない。
刺客の一人が井戸の影に身を
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