28.共同出版
「是非、一緒に作品を作っていきましょう。そちらの住所に、共同出版の資料を送付させていただいても、よろしいでしょうか?」
「共同出版?」
初めて聞く単語に、わずかに怯んだ。ホームページをクリックすると、確かに「〇〇賞の一次通過者には共同出版をお勧めすることがあります」と書かれていた。「共同」と言うからには、出版したい人と誰かが手を組んで、その本に共同出資するということなのだろう。森崎は大手寝具メーカーと、この共同出版を利用したのか。佐川は何としても、俺に出版させたがっているように思えた。ノルマがあるのか。それとも業績に関係するからなのかは分からないが、この立場の違いを利用せずにはいられなかった。今なら、俺は佐川にとって「客」であり、佐川にとって逃したくない好機であるはずだ。つまり立場が対等ではなく、俺の方がわずかに有利な立場にいるのだ。俺の鸚鵡返しに、佐川はすがすがしい口調で答える。
「はい。全額負担していただく自費出版もございますが、弊社と作者が共同で出版するモノになります。全ての作品が共同出版とはならないので、特別です」
佐川は「特別」という単語に力を入れて応える。この言葉に、一体どれほどの人が出版に前向きになるか分からない。承認欲求が低ければ低いほど、この言葉に弱いに違いない。
「他の企業と一緒に、共同出版する場合もあるんですか?」
「もちろん、中島さんが負担する分を、クラウドファンディングで集められても構いません」
つまり、金さえ出せば、どんな作品でも出版することが可能だということだ。クラウドファンディングなら、資金を集められるかもしれない。ただし投資者がその作品に興味を持つか、作者に将来性を感じるかしない限りは、資金集めは困難だろう。しかも、森崎がクラウドファンディングで出版資金を集めたとは、考えにくかった。クラウドファンディングを利用した場合、多くの人々から少しずつ、目標する金額までお金を投資してもらうことになる。森崎の背後には多くの奇特な善人がいるのではなく、もっと暗くて大きな物、言ってしまえば権力的なものがある気がしていた。そうでなければ、病を引き起こす物を出版させないだろう。
「大体、一回で何冊くらい出版できるんですか?」
これはきわめて重要な質問だった。
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