33.警察
しかし、誰が連絡をしたのか、それともこうした状況下では特殊な連絡網があるのか、清川が来る前に、公立病院に警察が来てしまった。二人の若い男性警察官だった。警察署で映から話しを聞きたいということだった。二人の男性警察官は、映の脇を抱えて連れて行こうとした。しかしそれを、映は振りほどいた。華奢な映の体のどこにそんな力があったのかと言うほど、暴力的で強引な行動に、二人の警察官は目を見張った。そして映は、恐ろしい目で警察官二人を見据えた。
「警察署には、行きます」
それは映の決意の言葉だった。風に、映のスカートの裾が翻り、髪の毛が流された。血塗られた白い肌に、その様は、まさに鬼女だった。警察ですら息をのむような迫力があった。
「でも、条件があります。幸の、幸の様態だけ、確認させてください。そうしたら、必ず警察署に行くと約束します」
映は、もう自分が犯人だとされても良かった。裁判で有罪を受けても良かった。その結果、死刑になっても良かった。世間に後ろ指を指されても、構わないと思った。それで俺の命が助かるのであれば、自分の人生など安いものだと思ったようだ。
映は警察に力の限り抵抗した。それはただ一心に、俺の側にいたかったからだ。しかし大柄な男二人に脇を抱えられ、今度こそ力づくで歩かされた。いや、映の足はもはや二人の警察官に抱えられて、地面についていなかった。映の足が宙を掻いていた。どんなに映が俺の名前を呼んで「手術が終わるまでは」と懇願しても、全く聞き入れてもらえなかった。映は首がおかしくなるまで、俺の手術室の方向を振り返りながら、俺の名前を呼んでいた。
俺の手術は成功したが、すぐに意識は戻らなかった。それだけ、出血量がひどかったのだ。
清川が病院を訪れたのは、俺が病室に運ばれた十分後だった。公立病院に駆け込んできた清川は、公立病院の看護師や医師を口汚く罵った。
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