19.あいつ
和紙に毛筆で書かれた田沼の手紙には、住所を映から聞いて、廉にも教えたとあった。そしてその内容は、驚くべきものだった。田沼も絵を見た晩から、一度も化け物の夢を見ておらず、安眠できているとのことだった。田沼は初めて会った時の非礼を詫び、何度も感謝を伝えていた。
廉の手紙の内容もほぼ同じ内容だったが、将来の進路について家族と話したいという旨がつづられていた。廉は絵を渡された日の夜、やはり化け物が怖くて目が覚めたという。その時に、俺の渡した封筒が目に入り、封を開けてしまったらしい。廉はそれが「恥ずかしい」と書いていたが、俺はそうとは思わなかった。辛い時に助かる術があるのなら、年齢問わず、誰でもその術に頼るだろう。まるで、喉が乾ききろうとした時に、水に手を伸ばすようなものだ。飢えている人間が、賞味期限が切れていてもそれに手を伸ばすように、自然な人間の行為だと俺は思った。
この手紙から一週間後には、映の退院が決まった。俺と映は、電話越しに心から喜びあった。
その一方で、清川は悪夢の正体を未だにつかめずにいた。一枚のコピー用紙を手に、清川は一人ごちた。
「あいつには、頼りたくなかったんだけどな」
時計は、深夜二時を回っていた。
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