isee!ワーキングアワードのこと

 少し前のことになるのだが、この度視覚障碍者の就労の事例や、アイディアを募集して表彰する、「isee!ワーキングアワード」にて入選させていただくことができました。

 本当はもう少し早くこのことを書きたかったのだけれど、執筆に使っているブレイルメモポケットを、私の自己都合で壊してしまい、約1カ月修理に出していたので、書くのが今になってしまった。

 点字で書いている詩や小説などの文章を、携帯電話やパソコンの音声読み上げソフトを駆使して、インターネット上に投稿する活動が実を結び、2020年の1月に第1詩集を出版したという事例で応募した。

 当初私はこのアワードに応募するつもりは全く無かった。そんなに売れてない詩集を1冊出しただけの私には、縁の無い物だと思っていたからだ。

 ところがとあるスカイプ会議に上がっていた時に、isee!ワーキングアワードの応募締め切りが、1週間延長したという話題が出た。私もその情報は、某メーリングリストで読んで何となく知っていた。

 それだけ今回は応募者が少ないんだなあと、まるで他人事のように考えていると、

「ひかさん応募しないの?」

と仲間のnさんが聞いてきたのだ。

「えーしないよー。まだそこまでの実績無いし」

「僕前回受賞したけど、その時はまだ実績は無かったよ」

nさんは前回のisee!ワーキングアワードで事例部門を受賞しているのだ。

「でもさあ、あれ受賞するとスピーチしなきゃいけないんでしょう?私人前で喋るの苦手だからなあ」

そんなことを言いながらもふと考えた。

 まてよ、isee!ワーキングアワードを受賞することで、もっとたくさんの人に詩集やその他の作品を読んでもらえるきっかけになるかもしれない。受賞することで、作品に注目してほしいと思ったのだ。

「私やっぱisee!ワーキングアワードに応募してみるよ」

スカイプ会議の終わり掛け、私は仲間たちの前でそう決意したのだった。


 締切日が1週間延びたとはいえ、決意してから締切日までは数日しか無く、pr文を考えるのに時間がかかってしまい、結局送ったのは、締切日当日の午後だった。

 どうせ選ばれることはないだろうと、それからはisee!ワーキングアワードのことは、半ば忘れかけていた。そのためこのアワードのシステムを、あまり理解していなかった。

 それから2か月後のことである。見慣れないアドレスから、「isee!ワーキングアワードにノミネートされました。つきましては、2月28日にオンライン上で行われる授賞式にご参加ください」的な内容のメールが届いた(例年授賞式はこのアワードの主催団体がある兵庫県神戸市で開催されるのだが、新型コロナウイルスの影響で、今回はズームを使ってのオンライン開催となった)。

 まさか本当に選ばれるとは思っていなかったのでとてもびっくりした。どうしたらいいか分からなかった。

 とりあえず、第1詩集出版時にお世話になった出版社代表に連絡した。そしてノミネートに当たり、必要な紹介文や写真などの提出物の準備をいろいろと手伝ってもらって、どうにか授賞式およびアワードの当日を迎えた。

 授賞式ではスピーチをしなければならないのかとどきどきしていたのだが、事前に届いたメールで、当日は一人30秒ほどのコメントだけでいいとのことだったので、少しほっとした。


 ところがアワード当日、メールに記載されたズームのリンクアドレスを何度クリックしても上がれないのだ。ズームを使ったのがこの時久しぶりで、アプリの使用が変わったからなのか、それともネット回線が込み合っているのか…。30分たっても、1時間たってもなかなか上がれない。

 諦めかけた時、ふと思いついた。

(そうだ、メールに記載されているパスコードとパスワードを手打ちで入力したらいけるのでは?)

結果、すぐに上がることができた。その時にはアワードが始まってからすでに1時間半近くたっていた。そのためアワードがどのような流れで信仰しているのか、また最初の方を聞けていないので、このアワードの概念すらもほとんど分かっていなかった(もちろん事前にネットで調べたけれど、それでもいまいちよく分からなかった)。

「では羽田さん(ちなみに応募時は本名)、一言おねがいします」

ようやく上がれたとほっとしたのも束の間、司会者からいきなりコメントを求められて、もうあたふたするしかなかった。

「えー…、まさか本当に受賞するとは思っていなかったので、とても驚いています。このことをきっかけに、もっとたくさんの人に、自分の作品を読んでいただけたらなあと思っています。本日はありがとうございました」

というようなことを喋ったような気がする。

 さきほどから書いているように、このアワードの概要やシステムをよく分かっていなかったこの瞬間の私は、入選と受賞を勘違いしていたのだ。

 アワード終了後、観客として聞いていた出版社代表から、自分は受賞ではなく入選だということを知らされ、ものすごく恥ずかしくなった。

「おい羽田、お前は入選だろ?」

「こいつ何勘違いしてんだよ」

などと他の入選者や受賞者や観客の人たちから笑われていないだろうかと、その後二日間、このことを引きずっていたほど、相当落ち込んでいた。


 それから1週間ほどして、アワードの模様の音声データが送られてきた。

 早速聞いてみると、事例部門を受賞した人の中に、ロービジョンのことを描いた弱視の漫画家さんがいらっしゃった。私も今書いている盲学校の小説が書籍化された時にはまた応募してみようと、新たな目標が一つできた。

 幸い公開されていたのは受賞者のコメントだけだったので、私のあたふたしまくりのコメントは公開されていないようだったので安心した。

 それから1か月後ぐらいに、アワード入選の賞状と、受賞者と入選者の名前と事例が載った冊子と、記念品が届いた。その賞状は、自室の作業デスクの前の壁に飾ってある。

 このisee!ワーキングアワードの入選が、今後の物書きとしての活動の、ほんの微々たる1歩になってくれればと思っている。

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