アンモナイトに恋をして
昼間に地元のコミュニティfmのfm haroをつけたら、どうやらこのお盆休み中に、浜松科学館に行くと、化石探し体験ができると言う情報を聞いた。
化石探し体験?!おもしろそうじゃないか。ついついロマンを感じてしまうぜ。
と言うのも、私自身、過去に「化石」と言う物に、ちょっとした好奇心と言うか、憧れのような物を抱いていたことがあったからだ。
私が初めて化石に触ったのは、盲学校の幼稚部の時に遠足で行った博物館だった。そこでアンモナイトの化石に触った時、まだ4歳か5歳の少女だった私は、思わず心を奪われてしまったのだ。
アンモナイトの、あの渦巻のような丸っこい形にではない。「アンモナイト」と言う、その名前に惹かれたのだ。
かっこいいと思った。「アンモナイト」と言う名前から、勇敢で優しい少年をイメージしてしまったのだ。
そしていつしか思っていた。「彼(アンモナイト)を、自分だけの物にしてやりたい」と。
それから少しして、幼稚部の先生から、「てるみ」と言う点字雑誌に載っていた、アンモナイトの点図の絵を触らせてもらった時は、本当に興奮した。今思うと、男子が雑誌に載っているグラビアの女の子に興奮するのは、きっとあの感覚を言うのかもしれない。
そんな私の熱い思いを分かってくれていたのだろう。ある日祖父が旅行のお土産に、アンモナイトのレプリカの民芸品を買ってきてくれた。だが、私はそれには満足しなかった。
(これは違う!これは私が求めている彼(アンモナイト)ではない!)
そう、あの時の私は、自分のこの手で、彼(アンモナイト)を物にしたかったのだ。あの日、博物館で心奪われた、勇敢で優しい少年、アンモナイトに、代わりなど居ないのだ。
小学生になってからも、私のアンモナイトへの情熱は、まだ失われてはいなかった。
たまたま見ていた「ドラえもん」のアニメで、のび太たちが空き地で化石を発見すると言うエピソードに、私の心は揺さぶられた。
(そうだ、私もいろんなところを掘ったら、化石が見つかるかもしれない。アンモナイトにもまた出会えるかもしれない)
ここから私の掘り続ける日々が始まったのである。
雨の日以外、家の庭はもちろん、公園の砂場や、学校の花壇など、ありとあらゆる掘れそうな場所を、全力で手で掘り返した。しかし、出てくる物はいつも石ころばかりで、当然ながらアンモナイトは出てこなかった。
「あんた化石なんてそんな簡単に出てくるわけないでしょう。もっと深く掘らないと」
もっと深く掘る・・・。母からそう言われた私は、それまで手で掘り返していたのを、こんどはスコップを持ち出して一生懸命深く掘るようにした。それでも穴が大きくなるばかりで、アンモナイトは出てこなかった。
「ひか、アンモナイトは貝だから、海に近いところで化石が発見されることが多かったんだよ」
なるほど、海に近いところか。祖父にそう言われた私は、こんどは実家近くの海の砂浜を、ひたすら掘ることを試みてみた。貝殻はたくさん出てきたけれど、アンモナイトはもちろん出てこなかった。
だが一つ発見があった。それは砂浜を掘ると、海の水が出てくることだ。これは子供ながらにすごいなあと思った。
そんな私にも、ようやく現実と言う物が見えてきたのか、アンモナイトへの情熱は日に日に薄れていき、いつしかその情熱は、ブイシックスの坂本さんに取って変わられていたのだった。
そんなわけで、冒頭の科学館での化石探し体験について、少し調べてみると、岩石を削って、化石を掘り出す体験ができるらしいのだ。全盲の私でももしできるようなら、これはぜひやってみたいと思った。勇敢な優しい少年(いや今だったらお兄様か叔父様かしら?)のようなアンモナイトを、こんどこそ私の物にできるかもしれないから。
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