あの時もしもネットがあったら
大阪の12歳の女の子が、ネットで知り合った35歳の男に監禁されると言う事件があった。
このニュースの一方を知った時、「あーこの子もいろいろたいへんだったんだろうなあ」と思った。
すると案の定その女の子は、「自由にさせてほしい」と言うメモを自宅に残して出て行ったと言うではないか。
「やっぱり」と思った。と言うのも、私もこの女の子と同じぐらいの時、「自由になりたい」と強く思っていたからだ。
12歳、小学6年生。良くも悪くも多感な時期である。
それに加えて私が通っていた盲学校と言うところは、物理的な自由も、精神的な自由も与えてもらいにくいところだった。
まず私の場合、同級生が居なかった。クラスメイトは居たけれど、軽度知的障碍持ちの小3の女の子と、やんちゃ盛りの小2の男の子の3人だけ。
私が上級生と言うことで、彼ら彼女らのめんどうは、いつも私が見ていた。軽度知的障碍持ちの女の子と、やんちゃ盛りの男の子である。それはもうたいへんだった。
二人とも言うことを全く聞いてくれないし、注意してもまた同じことを何度も繰り返すのだ。
でも先生たちはそんな私に手を貸してさえくれなかった。それどころか、彼ら彼女らが何かやらかすと、いつも私が怒られた。あなたがちゃんと見ていないからだと、あなたがしっかり注意してあげないからだと攻め立てるだけで・・・。
それに加えて授業もどんどん難しくなっていくし、児童会の活動も、一応副会長や書記も居たけれど、皆低学年だったり、重複障碍の子が多かったりで、実質全て私が担っていた。
さらに寄宿舎生活を始めたのもこの頃だった。自立のためにと、親や先生から半ば強制的に入れられたのだ。
寄宿舎は起きる時間も、食事の時間も、お風呂の時間も、勉強の時間も、寝る時間も、1日の生活が全て時間で決められていて、規則も厳しかった。当然自由なんて物は無かった。
そんな状況の中で、様々なことが自分だけにのしかかってくる。毎日どうしたらいいのか分からなかった。
こんな時に同級生が居てくれたらもう少し楽だったのかもしれないと、今でも思う。同級生が居ないと言うことは、自分の趣味や、悩みなどを話せる人が居ないと言うのもあるけれど、同時に悩みの対処法や、周りの人たちとの振る舞い方など、行動や言動のお手本になる人が誰も居ないのだ。
大人たちには助けを求められない。彼らは皆私の言葉を否定するだけで、話なんか聞いてはくれないことも分かっていた。だから何とか自分で乗り越えていくしかないんだと、その時からそう思って生きてきた。このことは今でも強く影響している。
あれは今でもよく覚えている。
国語の宿題でどうしても分からないところがあって、答えを書かずに提出したところ、先生にひどく怒られて、放課後居残りさせられたことがあった。
答えが分からないと言うのもあったが、その答えをどうやって導き出したらいいのかが分からなくて、放課後の静香な教室で私は一人泣いていた。
気が付くと、私は窓際に立っていた。
(ここから飛び降りれば誰か助けてくれるかもしれない)
不意にそう思った私は、勢いよく窓を開けた。これが自殺であると言うことを、この時の私はまだ知らなかった。
窓を開けると、夏から秋に変わり始めたばかりの心地良い風が、そよそよと吹き込んでくる。その風が、涙で濡れた頬をそっと撫でていく・・・。
結局飛び降りることはできなかった。
そんな状況で、あの時もしもインターネットがあったら、12歳の私はきっと顔も本名も知らない人たちに訴えていただろう。
「誰か私を助けてほしい。自由になりたい」と。
その声を聞いた優しそうなおじさんに、
「家においで」
なんて言われたら、確実について行ったかもしれない。だって本当に自由になりたかったし、優しくしてくれる人がその人しか居なかったとしたら、そりゃあついて行くよ。12歳なんだから、先のことをいろいろ考えられるほどの賢さなんてまだ持ち合わせていないのだから。
大阪の女の子の事件に話を戻すと、きっとこの女の子も事情は違えどあの時の私と同じように自由を与えてもらえなかったのかもしれない。そこをネットの闇に付け込まれたのだろう。
ちなみに 監禁した男の方も、高校受験がうまくいかなかったことがきっかけで、人生が一変したと聞いた。
マスコミやネットがこぞって叩きまくっているように、この事件は自分の一方的な欲のために、闇を抱えた女の子を監禁した男も悪いし、知らない人にほいほいついて行ってしまった女の子も悪いし、女の子の闇に気づいてあげなかった、いやもしかしたらその闇を作っていたかもしれない女の子の母親も悪いし、そんな危険なところにいつでもすぐにアクセスできてしまうネットと言う存在も悪い。ぜーんぶ悪いのだ。
この事件も、現代人や世の中の闇を浮き彫りにしている事件なのかもしれない。
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