よく分からない夢

 よく分からない夢で目が覚めた。

 夢の中で、私は盲学校の高等部普通科(一般で言うところの高校生)なんだけど、頭は現在の年齢、32歳なのだ。それで小・中学部の時にほんの少しだけお世話になったh先生と、1対1で国語の授業をすると言う夢だった。

 ちなみに生徒数が少ない盲学校では、先生と生徒が1対1で授業を受けると言う光景は日常茶飯事である。

 「いやあ羽田さんと授業するのはどれぐらいぶりだろうねえ」

授業が始まると、h先生は言った。

「そうですね。先生の授業って久しぶりですよね」

と、体は高校生だが頭は32歳の私は、はきはきとした口調で答えた。信じてもらえないかもしれないが、学生時代の私は、今よりももっと内気で、当然人と話すのもものすごく苦手だったので、授業の時も小さな声でもにょもにょと喋るような、暗くておとなしい少女だったのだ。

 「羽田さんとは確か小学部の時の社会の授業で浄水場について一緒に調べたことがあったねえ」

h先生とは直接授業で拘わることはなかったけれど、出張や体調不良などで、先生が授業を欠席された時の臨時の先生として、たまに一緒になることがあった。

確かに小学4年生の時の社会見学で、浄水場に行くことになっていたので、社会の授業で事前に浄水場について調べたことがあったような気がした。

「あーそう言えばそんなことありましたよねえ。いやあ懐かしいです」

と、体は高校生だが頭は32歳の私は、やはりはっきりした声で言った。

 そして始まった国語の授業。

 渡された点字のプリントには、とある男子高校生の、盲僧だか実体験だかを綴った詩のような、小説のような、よく分からない文章が、点字が見数枚に渡って書かれていた。

 その詳しい内容は、夢の中だったのでよく覚えていないのだが、1番最後のフレーズなら何となく覚えている。それはこんな風に書かれていた。

「さらり、さらり、sarari、さよなら」

この筆者の男子高校生の、意中の人との別れの様子を描いているようなのだが、何だかいまいちぴんとこない。なぜに最後の「さらり」だけが「sarari」とローマ字表記なのだろうか?意中の人との別れの悲しみや、悔しさや、惨めさなどを、周りに見抜かれたくないと、強がって、かっこつけている感じがどうもいらっとくる。

「この文を読んでどう思った?」

プリントを読み終えた私に、h先生は尋ねた、

「これ私がその年齢だったらまだ分かったかもしれませんが、今の私には正直理解できません。何なんですかこの最後のローマ字のsarariって。高校生男子のあほらしさ全開って感じがなんかいらっとするんですけど・・・!」

と、この文章と筆者に毒づいた瞬間、目が覚めた。

 いったいあの夢は何だったのだろうか?

 盲学校在籍時には、ほとんど接点が無かったはずのh先生が、なぜ突然私の夢に出てきたのだろうか?

もしかして、h先生に何かあったんじゃないかと、ちょっと不安になる。

 それにしても、夢の中の私は、体は高校生なのに、頭は32歳と言う設定も、いったい何なんだ?!

 本当によく分からない夢である。

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