だからライブが必要なのだ後編

 そんな中、いよいよ始まったアジカンのライブ。

 もうその頃には、爆音にも慣れて、ライブ特融の体の動かし方も身に着けていた。

 さきほどのエルレの時のように、私は拳を突き上げて、腕を振り、音楽に合わせて激しくジャンプしながら、時には観客と共に歌った。

 アジカンのライブを初めて見れた時は絶対泣く!

 ライブに行く前はそう思っていたけれど、いざ参戦してみると、泣くのを忘れるぐらい楽しくて、刺激的な時間だった。

 だがこのライブで今でも1番印象に残っているのは、mcでの後藤さんの言葉だった。

「音楽が好きと言う気持ちを忘れないでください」

その当時、私は某盲学校の音楽科の中退を、本気で考えていた。学校で勉強している音楽と、自分がやりたかった音楽が、あまりに違いすぎたからだ。

 しかし、家族はもちろん、友達や、母校の先生など、中退を相談した人全員から、ことごとく反対された。

 周りともめるのもめんどうだったので、仕方なく学校に通い続けていると言う状態だった。

 そんな中での後藤さんの言葉。

「音楽が好きと言う気持ちを忘れないでください」

そうだ。私は音楽が好きだから、音楽科に入ろうと思ったのだ。

 音楽が好き。全てはそこから始まったのだ。

 たとえピアノが弾けなくても、先生の指示通りにうまく歌えなくても、音楽用語がなかなか覚えられなくても、周りの期待通り、音楽の道に進もうとしなくても良いのだ。私は音楽が好きだ。音楽ってすばらしい物なのだ。そのことを伝えられる人になれば良いのだと気づいたのだ。

 あの時の後藤さんの言葉によって、鬱鬱としていた、当時の私の日常が、確かにリセットされた。

 今思うと、あの時音楽科に進んでいなかったら、私の初ライブは、「あー楽しかったー」だけで終わっていたかもしれない。


 そうもしも今、ライブに行けたなら、あの時のように、先行きが読めない不安定な今だって、リセットできるかもしれない。

 あの体全体に響く、ライブ特融の爆音に身を委ねて、ほんの一時だけでも、全てを忘れられたなら。

 その中で得られる刺激は、やがて明日を生きるための活力や、勇気になるはずだ。私は今、それが欲しいのだ。

 だからライブが必要なのだ。ライブと言う物自体が、できなくなってしまっている、今だからこそ。

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