だからライブが必要なのだ全編

 相変わらずメンタル面の調子が悪い。

 今年2020年は、念願だった第1詩集を出版したにも関わらず、心穏やかな日が、ほとんど無いような気がする。さらにそんな心や日々に、新型コロナの影響が、より一層追い打ちをかけていると言う感じだ。

 じつは今年に入ってから、今後に向けて、かなり大きなことを計画していたのだが、このコロナ騒動のせいで、その計画は白紙になってしまった。

 それだけならまだしも、決まっていた仕事が、先方の事情により突然無くなってしまったり、実家の祖母の認知症が進行していることが分かったり、昔祖父が買った土地の売却騒動が浮上したりと、コロナとは直接関係は無いけれど、不運や悩みの種が尽きない。どんどん気が滅入る一方である。

 毎日のように、携帯を投げつけたくなるほどの自己嫌悪感や、焦燥感や、いらいらに見舞われ(実際に投げつけたことも何度か)、ついには医者から頓服の精神安定剤を処方される始末である。

 いっそのこと、全てコロナのせいにできれば楽なのかもしれないと思うのだが、残念ながら、そう言うわけにもいかないようだ。

 こう言う時こそ、私はライブに行きたいのだ。好きなバンドのライブを、目の前で体感することで、全てをリセットできるからだ。ライブってそう言う物だと思うから。


 私が人生で初めてライブに行ったのは、今から約10年ぐらい前のことだった。横浜アリーナで行われた、Asiankung-fu generation(以下アジカンと記す)主催の夏フェス、nano mugen fes(以下ナノフェスと記す)だった。

「ナノフェスのチケットが取れたから行こうよ」

某盲学校の音楽科時代、夜寄宿舎の自室で洗濯物を干していると、姉からそんなメールが届いた。

私は高校の頃から、アジカンの大ファンだった。公式オフィシャルサイトに入って、彼らの最新情報や、ボーカルの後藤さんのブログを、逐一チェックしていた。なのでこの時のナノフェスの情報も、もちろん知っていた。アジカンの他にも、活動休止前のエルレガーデン(以下エルレと記す)も出るのだ。

 ずっと行きたいと思っていたナノフェスに、好きなバンドのライブにようやく行けるというのに、この時の私は、

(いきなり何を言い出すんだ姉ちゃんは)

と、正直ぴんとこなかった。

 しかし、その期待感は、日を追うごとに少しづつ増していった。


 そんな中ついにやってきたナノフェス当日。

 オープニングアクトで出てきた、初めて聞く新人バンドの、胸やお腹に響く爆音には、ライブってこんなにうるさい物なんだなあととてもびっくりした。それでもライブが進むに連れて、その爆音にもだんだん慣れていった。

 当時ラジオで聞いて、何となく名前を知っていたスペシャルアザーズのライブでは、その心地良い音に、思わず良い意味で眠気を催してしまい、ライブ終了後、物販コーナーに直行して、彼らのアルバムを、2枚も買ってしまうほど好きになった。

 海外バンドのmcを、一緒に行っていた、帰国子女でもある姉のフィアンセに、耳元で通訳してもらったりもした。

 そしてこの日一つ目のお目当てだったエルレのライブ。

 観客の一斉ジャンプで、会場内が地震のように揺れたことには本当に驚いた。

 アグレッシブな曲での拳の突き上げ方や、腕の振り方などを、姉が手を取って教えてくれた。いつの間にか、音楽に乗りながら、激しくジャンプしている自分が居た。

 そうしていると、

「下に降りておいでよ。こっちの方が動きやすいから」

と言って、知らないお姉さんが、アリーナ席まで下ろしてくれた。ライブでの人との繋がりを、初めて実感した瞬間だった。(後編に続く)

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