「ビジターズ」から思う理想の父
さっき渋谷のラジオで言ってたんだけど、佐野元春さんの「ビジターズ」と言うアルバムが、めちゃくちゃすごいアルバムらしい。。このアルバムはまだ聞いたことがないので、早速聞いてみよう(2020年3月三日の私のツイートより)。
そんなツイートを投げたところ、「あのアルバムは良いよ」と言うようなリプライを、それまであまり絡みの無かったフォロワーさんや、初めてお話させていただくようなツイッターユーザーさんからたくさんもらった。元春ファンも厚いんだなあって改めて思った。
私が佐野元春さんを本格的に聞くようになったのは、2015年にリリースされたアルバム「ブラッドムーン」からだった。その当時、たまたまラジオで流れていた「境界線」と言う曲が、爽やかで、なんか良いなあと思ったのと、そのアルバムのプロモーションで、ラジオに出演されていた時のトークが、めちゃくちゃおもしろかったので、思わず「ブラッドムーン」を直観買いしてしまったのだ。ちなみにその時のことは、エブリスタでアップしていた音楽エッセイ「羽田光夏の♪rock with Me!♪」の「佐野元春と言うキャラクター」の中でも書いているので、もしよかったらそちらの方も参照していただきたい。
そんなわけで、元春さんの曲のかっこよさや、歌詞の深さや、キャラクターのおもしろさにはまった私はそれからも、元春さんの過去の楽曲や、アルバムをいろいろ聞くようになったのだが、冒頭のツイートに書いた「ビジターズ」は、まだ聞いたことがなかった。
「ビジターズ」、そんなに良いアルバムなら早く聞いてみたいと思った私は、ちょうどその時にドライブに行くことになっていた晴眼者の友人に、アイポッドタッチにアイチューンズカードを入れてもらうと、早速アップルミュージックにアクセスして、「ビジターズ」を聞いてみたのだった。
結論から言うと、確かにすごいアルバムだった。
このアルバムがリリースされたのは、1984年。その当時、まだヒップホップやラップと言う文化が根付いていなかった日本に、そのような手法を1早く取り入れた作品だったと言うことで、良くも悪くも衝撃的なアルバムだったようだ。うーん、なんかそれ分かる気がする。
だって1曲目の「コンプリケーションシェイクダウン」、いきなりあんな曲から始まったら、現代に暮らす私でも、かなりの衝撃だったのだから、そりゃあ当時の人たちにも、相当のインパクトを残したんだろうなあと言うことは、容易に想像できる。
この曲も含めて、「ビジターズ」は、今のこの時代に聞いても、かっこよくて、おしゃれで、新鮮な衝撃を味わえるような、そんなアルバムだった。
そうそれと、元春さんって、自分の言葉でラップしているなあとも思った。ラッパーになりたいと思っている今の若い人たちにも、元春さんの「ビジターズ」はぜひお勧めしたいアルバムかもしれない。
そんな「ビジターズ」を含めた、元春さんの初期のアルバムを、私はこのデジタルの時代に、あえてレコードや、カセットテープと言った、アナログの音で聞いてみたくなったのだ。そこでふと思ったのが、私の父が、もっと音楽好きな人だったら、元春さんのカセットや、レコードを聞かせてくれたかもしれないのにと言うことだ。
べつに母でもいいのだけれど、この場合、同じ音楽を共有するなら、母よりも、父の方が、個人的には理想的なのだ。
例えばの話である。リビングで夕食を食べている最中に、
「ねえ私最近佐野元春が好きで、よく聞いてるんだよね」
そう話す私に、理想の父は問うのである。
「ヒカおまえ、元春好きなのか?」
「うん」
「そうか。じゃあおまえ、「ビジターズ」聞いたか?」
「いや、それはまだ聞いてない」
「じゃあ「ハートビート」は聞いたか?」
「それもまだ聞いたことない」
「じゃあ「some Day」は?」
「うーん、それもまだ」
「おまえなあ、「ビジターズ」と「ハートビート」と「some Day」を聞いてないやつに、元春好きだなんて言ってもらいたくないなあ」
「えーそうなのー?じゃあ後でアップルミュージックで聞いてみるよ」
「そんなもんで聞かんでいい。アナログで聞けアナログで」
「私レコードなんか持ってないよ。てか聞き方分からんし」
「なら教えてやるから夕飯食べ終わったら部屋に来い」
「え、まじで?」
そして夕食を食べ終えた私は、言われた通り父の部屋に向かう。そこでレコードプレイヤーの使い方を、みっちり叩き込まれるのだ。
そしてついに元春さんのアナログ版のアルバムに針を落とす。
レコードから流れてくる元春さんの楽曲を聞きながら、父の若かった頃の話を聞いたり、その流れから、私の人生のこと、はたまた恋愛相談なんかにも乗ってもらったりするのだ。
そんな会話を、父としてみたいのだ。
私の父は、the昭和の父と言う感じの人間で、堅物で、無口で、威厳のある厳しい父だった。そんな父を、私は子供の頃からずっと怖い存在だと思ってきた。だから姉や妹に比べて、私は父と話すことがあまりなかった。
でもその一方で、そんな父のことを、心から尊敬もしている。間違ったことは間違っていると、正論を振りかざして言わずにはいられない正義感も、自分の気持ちよりも、人からの恩を大事にする心も、パワハラにより挫折してしまったけれど、点字の触読校正の仕事や、いまこうして文章を書いていることにも生かされている、職人肌気質のような物も、きっと機械設計の仕事をしている父親譲りの物なのかもしれないと、実家を出てから特にそう強く思うようになった。自分はあの父の娘で良かったと、本当に感謝している。
そんな父も、先日61歳になったばかりである。せめて孫たちが成人して、それなりに自立するまでは、元気でいてほしいものだ。
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