モグラたたき

 諸事情により、ちょこっとだけ実家に帰省した日のことである。

 お風呂から出て、脱衣所で着替えていると、リビングから、

「ザザザ、ピューン、ポン、ポン」

と言うような、とても奇妙な電子音が聞こえてきた。

 その日は姉一家も遊びに来ていたので、子供たちが何等かのおもちゃで遊んでいるのだろうと言うことは、何となく分かった。

「ねえ、あれ何のおもちゃ?」

着替えを終えて脱衣所を出ると、ちょうどキッチンで洗い物をしていた母に、私は聞いてみた。

「あー、あれはモグラたたきの音だよ」

どうやら2番目の姪っ子が、カプセルトイで買った、モグラたたきのおもちゃで遊んでいるようなのだ。

「ザザザ、ピューン、ポン、ポン」

その音を聞いているうちに、私は何だかとても悲しい気分になった。


 私は1部の友人たちから「モグラさん」と呼ばれている。普段あまり外に出ない生活をしている私を、「モグラみたいだなあ」と相方から言われたことがきっかけである。ちなみにこの連載のタイトルも、そのことから由来していたりする。

 だからなのか、ここ1年ぐらい、「モグラ」と言う物に、愛着を持つようになっていた。

 で、さきほどのモグラたたきである。勇気を出して、地下から地上に出てきたモグラを、なぜ人々は叩くのだろうか。あまりにもかわいそうではないか。同じモグラとして、モグラたたきのモグラが気の毒に思えてならないのだ。姪っ子が遊ぶモグラたたきのおもちゃの音を聞いて、何だか悲しい気分になったのは、そう思うからである。


 また先日も、たまたまつけていたラジオで、モグラの退治方が紹介されていた。

 風車のような物が付いたぼうの先を、モグラの巣がある土に突き刺して、それが回る振動で、土の中のモグラを追い払うのだと言う。

 モグラは農家に取っては外敵だ。穴を掘って、農作物を荒らしてしまうからだ。

 それも分かる。ようく分かっている。

 まだ本物のモグラに触ったことはないが、ぬいぐるみでなら触ったことがある。丸っこくて、かわいらしい形ではないか。

 ウィキペディアによると、モグラは故意に農作物を荒らしているのではないらしい。巣を作る上で、穴を掘る時に、どうしても農作物を傷つけてしまうようだ。

 あんなかわいらしい形をしているモグラを、人間たちによって、農作物を荒らしたと言う無実の罪を着せられたモグラを追い払うだなんて、あまりにひどすぎはしないかと、モグラの私は思うのだ。


 さらに先日も、洗濯物を干しながらつけていたテレビで、モグラたたきのゲームのcmが流れてきた。

 モグラたたきでエクササイズと言うことで、ストレス解消と言わんばかりに、女の人が、必死になってモグラを叩きまくっている様子が、音だけでも充分に伝わってくる。

 皆モグラがそんなに嫌いか?穴から出てきただけで、べつにモグラは何も悪いことはしていないと言うのに。

 全盲モグラ女子は、そんなモグラが本当に気の毒で仕方ないのだった。

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