※過去エッセイ※くるりを語らせて
NHKラジオ第1で、毎週日曜日の13時5分から放送されている番組「うたことば」のくるりの特集を聞いた。
パンサーの向井さんと、元チャットモンチーのドラマーで、現在は作詞家で作家の高橋久美子さんと、ピースの又吉直樹さんが、リスナーからの投稿を交えながら、くるりの歌詞や楽曲についてあれこれ語ると言う番組だった。
くるりは私も学生時代めちゃくちゃ聞いていたバンドだった。だから彼らの話を聞きながら、「うんそうなんだよー、そこなんだよー!」と、もう何回共感しまくったことだろうか。
私もあの中に入ってくるりを語りたい!
と言うことで、今回はこの場をお借りして、くるりについて語らせていただきたい。
ちなみにくるりについては、エブリスタでアップしていた音楽エッセイ「羽田光夏の♪rock with Me!♪」の「初めてジンジャーエールを飲んだ日」の中でも語っているので、私のくるりとの出会いについては、ぜひそちらの方を参照していただきたい。
この番組を聞いていて、はっと気がついたことがあった。
さきほどくるりは学生時代めちゃくちゃきいていたと書いた。もちろんそれも本当なのだが、彼らの楽曲の良さや、歌詞の深さが分かるようになったのは、じつは学校を卒業して仕事をするようになってからかもしれない。
この番組の1曲目に流れた「ワンダーフォーゲル」と言う曲の、
♪つまらない日々を小さな体に、
擦りつけても減りはしない、
少し寂しくなるだけ♪
と言うフレーズに励まされたと言うリスナーの投稿があった。私もこのフレーズには、大変助けられた。
その当時、a型作業所で自動車部品の組み立ての仕事をしていたのだが、晴眼者の中で、全盲の視覚障碍者は私一人だけと言う職場の環境に、なかなか馴染むことができずにいた。おまけに通勤時間がバスで片道やく2時間もかかるのだ。朝や帰りのラッシュの時間の人込みにもまれながらの通勤は、白杖を持って外出する私にとっては、思っていた以上に神経や身を削る行為だった。それでも生活のために、どうにかがんばるしかなかったと言う状況だった。
そんな職場への行き帰りの最中、アイポッドでこの曲を聞いていた時、さきほどのフレーズが心に止まった。
(そっかー、このつまらない日々も、少し寂しくなるだけですむのなら、だいじょうぶかもしれない)
とその時抱えていた憂鬱感が、ふっと軽くなったような気がした。
それとこの番組のラストに流れた「東京」。この曲は、ベスト盤を買った学生の時は、それほど深くは聞いていなかった。しかしそれから数年後、埼玉にある某国立のでっかい施設に、半年間自立訓練を受けに言った時、二日目にしてホームシックになってしまった。その時たまたま持ってきていたくるりのベスト盤をかけていて、「東京」を聞いた時、
(この曲、ものすごく良い!)
と強く思ったものだ。具体的にどこがどう良いと思ったのか、それを簡単に言い表せない今の自分の語彙力の無さが、本当に情けなくて悔しい。
また今回の番組では取り上げられなかったのだが、私がくるりの中で、最も忘れられないエピソードを持つ曲が、「ジュビリー」だ。
ちょっと暗い話になってしまうかもしれないが、それは2017年の12月、みなかみに住んでいた友人の家に転がり込む日のことだった。
幼い頃から、同居する父方の祖母から過干渉を受けていたこともあって、どうしても祖母と折り合いがつけられずにいた私は、この年ついに家出を決意したのだ。
実家や故郷の浜松には、しばらく帰らないつもりだった。それでも、母や姪っ子たちに会えなくなることは、とても寂しかったし、辛かった。
そんな心情の中、駅に向かうバスの中で、この「ジュビリー」を聞いていた。
♪そう行かなくちゃ
このバスに乗れば
間に合うはず♪
あの時は、本当にこの歌いだしのような感じだったかもしれない。
「みなかみの友達の家に遊びに行ってくる」
と言うような、軽いノリで出てきてしまったのだから・・・。
♪さっきから風が冷たい
雲のように自由になれるはず♪
その日は確かに冬だった。みなかみはかなりの雪国だと聞いているので、浜松よりもさらに寒いのだろう。
♪失ってしまった物は
いつの間にか地図になって
新しい場所へ誘っていく♪
そうなのだ。この時の家出も、そうあってほしいと信じたかった。
私はこれまでにもいろいろなところを転々としてきた。仕事も、住む場所も・・・。
その度に、様々な物を失ったり、様々な人たちと出会ったりしてきた。
それはこのフレーズのように、今までに失ってきた物たちが、導いてくれたことなのかもしれない。
だからこの時も、家族や故郷を失ってしまうかもしれない分、自分の人生にとって、とても大きな物やことを得られるはずだ。そう信じて、「ジュビリー」を聞きながら
故郷の浜松を離れたのだった。
話は変わって、先日新しい小説の案が浮かんだ。ユーチューブやツイキャスのような、ネット配信の世界に、自分の居場所や生きがいを見出してしまった人の、光と影を描いた話で、たぶん長編か中編になるんじゃないかなあと思う。
その小説の構想を、夜お風呂に入りながら考えていたところ、不意に頭に流れてきた曲が、まさにくるりの「町」だったのだ。
ボーカルの岸田さんの、
♪この町は僕の物♪
と言う、まるで嘆きのような叫びから始まる歌いだしが印象的な初期の名曲。
翌日アイポッドで改めてこの曲を聞いてみると、これから書こうとしている小説と、この曲の雰囲気が、何となくぴったりだと思ったのだ。そのおかげでタイトルも「トビウオの町」にした。ある程度まとまってきたら、カクヨムでも発表してみようかなあと考えている。
そんなわけで、くるりの楽曲にはこれからもお世話になりそうだ。
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