自分の詩集を触りに行く

 「駅ビルの大型書店の郷土本のコーナーに、羽田さんの詩集が、この前の新聞記事と一緒に4冊並んでいたよ」

と言うようなメールが、先日届いた。ちなみにこの前の新聞記事と言うのは、今年(2020年)の1月に出版した第1詩集、「世界と繋がり合えるなら」を、3月13日に全国流通した際に、地元の新聞社に取り上げていただいた時の物である。

 そのメールには、書店に詩集が並んでいるところを映した写真が添付されているようだったが、全盲の私には、当然それを見ることはできない。

 これはぜひともこの手で触りに行って、確かめにいかなければ!

 と言うことで、そのメールが届いてから数日後の日曜日に、相方と実際その書店に行ってみることにしたのだ。

 新型コロナウイルスの影響で、なるべく乗らないようにしていたと言うのも少しあって、この日は3月以来、やく3か月ぶりにバスに乗った。仕事に出ていた数年前までは、毎日のようにバスに乗っていた自分が、3か月もバスに乗っていなかったことに、我ながらとても驚いた。

 緊急事態宣言が解除されてから、2週間近くが過ぎたとは言え、それでも三密を避けたい人は多いだろうから、バスに乗る人も少ないだろうと思っていたけれど、そうでもなかった。いつもの日曜日の12時過ぎのバスらしく、それなりに混雑していた。

 バスに乗ったのと同じく、やく3か月ぶりに降り立った駅のバスターミナルも、駅ビルに続くロータリーも、この3か月間世の中は本当に外出自粛をしていたのだろうかと思うぐらいに、いつもと何ら変わらない光景だった。

 駅ビルに入ると、早速8階にある書店に向かった。

 8階まで行くのにエレベーターに乗ったのだが、私と相方以外、エレベーターには誰も乗っていなかったし、誰も乗ってこなかった。たまたまそうだっただけかもしれないけれど、それにしても、日曜日の午後の、人でごった返しているであろう時間帯の駅ビルのエレベーターに、全く人が乗っていないのは、何だか不気味だと思った。でもそのおかげで、1階から8階まで、ノンストップで行くことができた。

 たどり着いた8階の大型書店は、まるで迷路みたいに、所狭しといろいろな本が並んでいた。その中を、弱視の相方に、お目当ての郷土本の棚を探してもらうのには、少し時間がかかった。

 ようやく見つけた郷土本の棚に、それはあった。ラミネートされた先日の新聞記事の後ろに、吉野博さんの詩集の隣に、私の第1詩集が、3冊並んでいた。

 いやあ、嬉しかった。いつか自分の本が、書店に並ぶことが夢だった、しかも教科書で読んだことがある吉野博さんの詩集の隣に、自分の詩集が並んでいるだなんて、ものすごく感慨深い。

 さらに先日のメールでは4冊あったと聞いていたのが、3冊に減っていたのだ。この数日の間に、誰かが1冊買ってくれたのかもしれないと思うと、嬉しさと、感慨深さはさらに倍増する。

 自分は本当に詩人として歩み出したんだなあと、この時ようやく実感したような気がする。

 その実感を胸に、同じ階にあるカフェに、少し遅めのランチを食べに行った。

「今立っている足の下に線が引いてあるで」

注文をしようと、レジの前で並んで待っていると、相方がそう教えてくれた。

 ほほー、これが噂のコロナ感染を防ぐために、レジの前に引かれていると言う線かー。ニュースなどでよく聞いてはいたけれど、買い物に出る機会も少なかったので、これまであまり意識していなかった。

 注文を終えてお金を払おうと、カウンターの奥の店員さんの方に手を伸ばすと、臼井ビニールのような物に手が触れた。

 「ん?」と一瞬戸惑ったけれど、すぐに気が付いた。

 なるほどー、これが最近話題の、飛沫を防ぐためのアクリル板かー。どうやらそのアクリル板の間から、手を差し込むような感じで、店員さんとお金の受け渡しをするようだ。

 今後しばらくの間は、どこのお店のレジでも、このようなシステムが主流になるのだろう。この方式に慣れるまでは、まだ少し時間がかかりそうかもしれない。

 お金を払い終えて席につくと、また一つ気づいたことがあった。それは、向かい合って

座れなくなっていたことだ。

 相方が言うには、いすは全て横並びになっていて、テーブル同士の感覚も空いているそうだ。

 これらのことも、全てコロナ対策のためなのだろう。仕方ないことかもしれないけれど、何となく寂しいなあとも思った。でもお昼に食べた、ハーブチキンサンドとミネストローネはとても美味しかった。

 と、そんな感じで、自分の第1詩集が書店に並んでいることを実感できたのと同時に、コロナ禍で世の中の仕組みが変わったこと、またべつに変わっていないこともあるんだなあと言うことも、肌で体感できた、そんな1日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る