第44話 「どうしてあれが突破されたのか、分かったか?」

『どうしてあれが突破されたのか、分かったか?』


 …頭が痛い…


『CK47、聞こえてるか?』


「…聞こえてる…」


『おまえの才能は認めてるが、今回は甘かったようだ。』


「…俺のせいかよ…おまえら…やる事が古いんだ…」


『ふっ…まだそんな口をきく元気があるのか。』


「…早く殺せ…」


『そうはいかない。おまえは私達の大事な武器だ。』


「……」


『CK47に食べ物を。』


『はっ。』



 CK47と呼ばれるようになったのは…いつからなのか。

 もう何年も、名前で呼ばれてない。

 俺の名前は…何だったっけな…



「CK47、食事だ。」


 作業所の入り口に運ばれた食事は、簡素だが栄養価の高い物。

 こいつらは、俺を生かして…武器を作らせている。



 自分が武器を作らされていると気付いたのは…いつだったのか。


 荒れ地に建つ研究所。

 余計な事は考えず、研究に没頭できる環境は、俺にとって天国だった。


 ここで研究を続けて…何年目だったか。

 突然、トップが変わった。

 今までと全く違う研究スタイルに辟易とし、ここから出ようとすると。

 酷い嵐に見舞われたり、何か事故が起きたり…何らかの形で足止めを食らった。

 それは、俺を含めて全員が。


 結局、それから何十年もここにいる。


 その間に…薬で操られるようになった。

 他に居る研究者も同じだ。

 今は別の部屋で…生きているのか死んでいるのかも分からない。



 わざとこいつらの意に背いた物を造ると、自分以外の誰かが殺される。

 実際に見たわけじゃない。

 だが、断末魔の叫びとも取れるそれを耳にすると、嘘だと思っても…数日は悪夢にうなされる。


 繰り返される悪夢。

 いくら頭のいい俺でも。

 洗脳されていた方が楽かもしれないと…思うようになった。



「もっと美味い物をよこせよ!!」


 食器を投げつけて叫ぶ。


 反抗的な言葉を吐きながらも、言われるがままに武器を造り。

 出された食事は全て飲み込む。


 いつ死んでもいいと思うクセに、俺の行動は全てその反対だ。


 生きるために。

 そうしているとしか思えない。

 

 絶望を感じながら、望まれている事には喜びにも似た感情が湧く。

 だが、俺の造った物で…世界がどうなってるのか…



「……」


 隠し持っているペンを耳元に寄せる。


『…愛してます…』


『…千秋…』


 はるか昔…録音した、愛しい声。

 これが、俺の支えになっている。


 この声を聞いて、自分の名前が『千秋』だ、と思い出し、一瞬でも人間らしい気分になれる。



「…俺も…愛してるよ…」



 …いつか。

 いつか、ここを出たら…









 君を迎えに行くよ。






 51st 完

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いつか出逢ったあなた 51st ヒカリ @gogohikari

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