第13話 「……」

 〇東 志麻


「……」


「来ちゃった♡」


 目の前にいるのは…瞬平のフリをした薫平。



 ボス達が捕縛された事で、対策は変更。

 先に応援に来ていたグループとは別に、国立公園から50km離れた場所に到着した俺の元に…


「使わないのに整備だけは万全だね。」


 薫平は、FRT-CA5に乗ってやって来た。

 ただ、相当無茶をしたのか…あと1kmも飛んでいれば、燃え尽きてしまう状態になっていただろう。


「…体は平気か?」


「だいじょーぶ。無駄に鍛えてたから。」


「この事、瞬平は。」


「知らない。後の事は泉に頼んだけど、怒ってるだろうなあ。」


「……」


 小さく溜息をついた後。


「この箇所に見張り小屋がある。」


 目の前にキャサリンで地図を開いた。


 何もない空間に、必要な地図や映像をホログラムで映し出すキャサリン。

 瞬平が年々改良してるおかげで、その機能は驚くほど正確で助けられている。



「ふーん…予想以上に手強そう。」


 地図を前に、薫平は顎に手を当てた。


「…ボスの家に入ったのはおまえか?」


 地図を見入る薫平に問いかけると。


「そうだと思う?」


 薫平は視線だけを俺に向けた。


「……」


「俺達以外の誰かが動いてくれてるね。三枝なのかなって思ったりもしてるんだけど…どうかなーって感じ。」


 …て事は、薫平じゃないのか。

 猫の反応が出なかった。と、瞬平から聞いてはいたが…

 薫平なら、それを消す事もすぐに出来ると思った。


 もし、薫平の言う通り『三枝』が阻止したのだとしたら…

 これは完璧に一条と二階堂の戦争という事になる。



「ま、ありがたいじゃん?俺達の手が行き届かない所を先回りしてくれるなんてさ。」


「…そいつの目的が分からない内は、何とも言えない。」


「んー…まあそうだけど、デキる味方は一人でも多い方が良くない?」


「……」


 瞬平に比べると、薫平は頭が柔らかい。

 二階堂の中で正義だけに目を向ける俺達より、一度外に出て違う目線で世界を見ている薫平の方が、分かる事も多いかもしれない。



「…ボスはRR445の地下にいる。体温反応から見て三人だ。」


「三人…最初にいた二人と、って事だよね。じゃ、富樫さんと火野さん達はどこに連れてかれたのかな。」


 薫平はポケットから小さなリモコンを取り出すと。


「探してちょ。」


 そんな事を言いながら、地図に向けてボタンを押した。

『ピッ』と音を立てたそれは、地図上で赤い鳥になって動いている。


「…また何か作ったのか。」


「これ便利だよ。チップ埋め込んでる人の居場所だけじゃなく、体調まで分かるから。」


「体調?」


「ま、俺の趣味だね…あ、いた。」


 薫平が指差した場所。

 そこに赤い鳥が止まり、その横に位置と体温が表示された。


 ボスの居場所から北北西に15kmか…


「志麻です。富樫さんと火野さんはNW9YT582の地点に。水元さんと木塚さんは…」


 本部と応援に連絡を入れる。

 地図に映し出された『体調』とやらは…ボスを含めて五人とも安定している。

 木塚さんに殴られて倒れた火野さんも、今は状態は良さそうだ…


 …今のところは、だが。



『志麻、そこに薫平いる?』


 地形を見ながら、敵の位置確認をしていると。

 地図の映像の下に窓が開いて、本部からではなく…泉…お嬢さんが映し出された。


「…はい。」


 薫平を見ずに返事をすると。


『瞬平が怒りまくってる。』


「……」


 小さく溜息をついて、ゆっくり瞬きをしながら薫平を見る。

 当然だよな。とは思いつつ、それを知りながらここまで無謀な事をする薫平に違和感なのも確かだ。


「えー。そこ、瞬平の好きそうな物ばっかだろ?」


 薫平は悪びれる風でもなく、首をすくめた。


『おまえ、バカだろ!!』


 興奮した様子の瞬平が映し出されて、その大声に薫平と二人して仰け反った。


『何してんだよ!!CA5持ち出して…何やってんだよ!!』


「あー、バレたかー。」


『バレないとでも思ってたのか!?あ!?マジバカだな!!』


「そんな怒るなよ~。て言うか、大事な事頼みたい。」


『は?何言ってんのおまえ。』


「じゃ、泉に頼む。」


『…何。』


 瞬平の横から、これまた…不機嫌そうなお嬢さんが顔をのぞかせる。


「おはじき頑張ってくれたから、棚の右端にある一番いいご飯あげといて。」


『……』


 薫平の頼み事に、お嬢さんはすっと顔の表情を失くして。


『あんた…帰って来たら覚えてなさいよ。』


 低い声で言った。


「楽しみ。」


『バ!!カ!!かっ!!』


 再び瞬平の怒声。

 ああ…この二人、仲が良かったがゆえ…こうなると手が付けられそうにない。


「瞬平、もうバカなのはしょうがない。作戦に移りたい。」


『……』


 俺の言葉に、ワナワナと震えたままの瞬平は唇を尖らせて…ドカッと椅子に座った。


「そこにさー、衛星でこっち見れるモニターあるじゃん?」


『…は?』


「右から二番目のやつ。」


『……』


 薫平の指示で、瞬平が動き始める。


「こっちから位置情報送るから、それで海さん達の居場所とか、敵の位置把握してよ。」


『…何でおまえに…』


「昔…一条のトップをやっつけたのも、瞬平と薫平だったんだよ。」


『……』


「俺達も、母さん守らなきゃ。」


 薫平が二階堂を抜けた理由が…うっすらとだが分かった気がした。

 二階堂にいたら、薫平はサポートに回る側。

 紅さんを守る位置には…立てない。



『…死ぬなよ。』


「さあね。」


『バカが…』


「瞬平の指示次第。」


 ケンカしてても…離れてても。

 やっぱり二人は繋がってる。


 目の前でのケンカ腰のやり取りにさえ、愛を感じた。

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