第18話 「頭。」
〇高津瞬平
「
僕が声を掛けると。
本部のエレベーターホールに立ってた頭は、少しだけ振り向いて僕を見た。
「ああ、瞬平。ご苦労だったな。」
「いえ……あの」
「上で話そう。」
「……はい。」
頭は、僕が何かに気付いた事…知ってるんだ。
…もしくは、僕なら気付くと察して…僕に指示を出すよう命令されたんだ。
普段はボスが使ってる部屋に入って、ソファーに座ると。
頭は僕を真正面から見て。
「何か見付けたのか。」
真顔で言われた。
「…はい。」
「そうか。」
「…何者なんですか?」
「……」
頭は僕を見たまま首を傾げて…無言。
これは…話す気はない…って事なのかな。
ボスのチップは…要救助者の二人の情報が送られた後、通信が遮断された。
武器は旧式ばかりだけど…敵方に技術者がいてもおかしくない。
通信手段がある事を知られて、遮断されたのかもしれない。
僕は勝手にそう思って…ボスとの通信は当てにしてなかった。
だけど。
キャサリンの通信を落として現地に向かった志麻のチップは…反応してた。
同じエリアに入ったにも関わらず、だ。
それで俺は、ボスのチップの回路に侵入を試みた。
本部では出来なかったかもしれないけど…薫平の家には、それが出来るほどの環境が揃ってた。
…さすがだね。
「一瞬ですが…人の動きが映りました。」
「……」
相変わらず、だんまりを決め込む頭。
「私にRR445への援護は禁止だと言ったのは…頭が第三者の存在を知っていたからですね?」
僕の言葉に頭は表情を変えず、ただ…腕組みをして僕を見つめる。
「その第三者の事は二階堂には知られてはならない…だから、応援を遮断させたんですね。」
「……」
…志麻と薫平が向かった現場で、確かに地雷は爆発した。
だけど…それは、志麻達が踏んだからじゃない。
「すごく判断しにくかったですが、最初の爆発は地下牢からでした。」
地下牢のそれによって、地上にあった爆発物が次々と爆発していった。
「当初地下牢に爆発物は探知されませんでした。と言う事は、誰かがボスを助けた時点で地下牢を爆破。そして、地上の爆破物は下からの衝撃で一気に片付く形に配列されていた…。」
しかも…僕達が探知した時には、これだけの爆発があれば国立公園は壊滅状態になるはずだったのに。
終わってみれば全てが最小限。
この件は…僕しか知らない。
まずは頭に確かめてからじゃないと…ボスにも言えないと思ったからだ。
僕が吐き出す一連の真相を聞いた頭は。
「…見事だな、瞬平。」
小さく笑って…初めて僕から視線を外した。
「…良かったです…」
「良かった?何が。」
「…頭が…ボスを見捨てたんじゃないって分かって。」
「……」
あの時僕は、すごくショックだった。
二階堂だったら当然とされてても…頭がボスを見捨てるなんて、信じたくなかった。
「そう思うか…?」
しかし、安堵した僕に向けられた言葉は、少し不安を煽るものだった。
「…え?」
眉をしかめた僕に、頭は伏し目がちになって。
「…いや、何でもない。誰一人命を落とさず帰って来れた。それだけで…十分だ。」
いつもより…トーンの低い声でそう言われた。
〇二階堂 海
「…おかえりなさい。」
ホテルの最上階で、咲華が目を細めて言った。
優しく笑みを浮かべているつもりだろうが…その表情は少し曇っている。
…護衛がついたり泉が付きっ切りだったんだ。
理由は聞かなくても…危険にさらされていたのは分かったはず。
「ただいま。」
浮かない気持ちのまま…咲華に手を伸ばして細い肩を抱き寄せる。
さっきまでここにいた泉は、華月を連れて詩生が収容された病院に向かった。
護衛も帰らせて…今は俺と咲華とリズだけ。
「…大丈夫?」
腕の中で、咲華が言った。
「何が。」
「…辛そうな顔してるから。」
「……」
「もし…話せるなら、話して?」
腕を緩めて体を離す。
咲華の顔を覗き込むと…その目には、何か強い決意のようなものがとって見れた。
…どんな危険な目に遭おうと…一緒に生きていく。
そう誓った。
…それでも…咲華とリズには…
「海さん。」
ハッとして咲華を見ると。
「命を懸けた仕事だから、その瞬間が真剣なのも分かる。でも…全部が上手くいかない事だって、きっとあるよね?」
真剣な目で…俺に訴えかけて来た。
「上手くいかなきゃ意味がないのかもしれない。でも、誰も命を落とさなかった…って、それだけは聞いた。」
「……」
「あたしには分からない事かもしれないけど…それでも、それを聞いた時、なんて素晴らしいニュースなんだろうって思ったの。」
…俺を見上げる咲華の目は…俺に『生きていてこそだ』と伝えてくれている。
それこそ…俺が今、心の中に黒い塊を抱え始めている事を察しているかのように…
「今回負けたような何かがあるなら…いつか挽回すればいい。そのためにも…生きてなきゃ。」
「…そうだな。」
小さく溜息をついて再び抱き寄せる。
咲華の頭に顎を乗せて、あの地下牢での事を思い返した。
急に寒気が舞い込んで来た気がした俺は、何気なく頭上の岩間を見上げた。
…何かが動く予感がした。
それなら少しでも二人の状態を良くしておかなくてはと思い、詩生に追加の鎮痛剤を飲ませた。
そして、ずっと眠っていた浅井さんを振り返ると…
そこにいるはずの浅井さんの姿が…なかった。
浅井さんが眠っていた場所に残された毛布を手にして、地面に手を当てる。
一人では動けないはずだ。
だが誰かがここに入った形跡はおろか…気配すらない。
ましてや、一人で動けない浅井さんが消えるなんて…
何かが起きてる。
俺は、万が一岩場が崩れても無事な隙間に詩生を連れて行こうと立ち上がった。
が…その瞬間、頭上から光が射しこんで…目を閉じた。
しかし、それは何分も閉じていたわけじゃない。
なのに…目を開けると、そこに詩生がいなかった。
いったい何が起きてるんだ…?
辺りを見渡してると、突然の爆発音。
落ち着け。と自分に言い聞かせると同時に…意識が遠のいた。
次に目を開けた時には…病院にいた。
地底湖にあった船の中で見つかった。と言われても…ピンと来なかった。
地底湖? 船?
浅井さんも詩生も、救助に来てくれていた志麻と薫平も…そこで見つかった。
…全員が助かった。
命がある。
それは…いい事だ。
だが…
俺にとっては…
…屈辱でしかない。
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