第3話 「……」
〇二階堂 海
「……」
「ボス…これは…」
「…ああ…」
本部に戻って、華月の持っていた画像を富樫に見せた。
「他にも何かあるかもしれませんね。探してみます。」
「頼む。俺は彼の足取りを。」
「はい。」
華月と咲華の前では普通の顔をしてみせたが。
ブレスレットの出品者は…二階堂がずっと追っているテロリスト集団が使っているコードネームだ。
「…ブレスレット以外にも、腕時計と指輪…バッグもありますね。全部違う人物の物のようです。」
「そうか……じゃあ、何人か捕まってる可能性があるな。」
「そうですね…」
富樫の報告を聞きながら、俺は詩生の出国記録をチェックする。
…
俺にとっては、腹違いの弟になる。
見掛ける事があっても、その存在を明らかにした事はない。
「……」
ここ一ヶ月内に起きた、世界のハイジャックやバスジャック、犯人不明の事件をリストアップする。
力の無さを痛感するほどの数に、溜息をつきそうになりながら読み進めていると…
「…富樫。」
「はい。」
「数日、留守にする。」
「…まさか、お一人で向かわれるのですか?」
恐らく、富樫は俺と同じリストを読んでいるはずだ。
「私情を挟んでいるからな。」
「いずれは御家族になられるのですから、そのお気持ちも分かりますが…これは事件です。隊を動かしましょう。」
「……」
富樫のいう事は当然だ。
俺一人が行って太刀打ちできる相手じゃない。
だが…
「……分かった。だが、なるべく静かに動きたい。」
「では少数精鋭で。」
「頼む。」
「10分後にジェットへ。」
「ありがとう。」
咲華に連絡を…とも思ったが、余計な心配はかけたくない。
だが…
咲華は妊娠中。
俺の不在中に何かがあっても困る。
『申し訳ないけど現場が入った』
そうとだけメールをすると。
『危険な現場じゃない事を祈ります。こちらは華月が居てくれるので大丈夫(^^)/』
…俺の立場や想いを察してくれたのか、顔文字までつけてくれた。
『早乙女君の事も調べてるから、華月に安心して待つように伝えて。』
『ありがとう。伝えるね。あたしからも、よろしくお願いします。』
『うん。ありがとう。行ってきます。』
『行ってらっしゃい。お帰りをお待ちしてます』
「……」
咲華と華月とリズ、三人が頬寄せ合った笑顔の画像が送られて来て。
なんて愛しい人達だろうと思った。
大事な存在のためにも…集中して行かなくては。
「もしもし、泉。」
『ああ、兄ちゃん。何。』
「後で富樫にデータを送らせる。見たら…ちょっと動いてくれ。」
『…了解。』
いつもなら、あれこれ聞いて来る泉が何も言わない。
きっと…俺の声で何かを察したのだろう。
「よし。行くぞ。」
「はい。」
待機していた富樫とジェットに乗り込む。
そこにはすでに、今までも厳しい現場をこなし生き延びて来た顔が三人ほど座っていた。
「…泉にもデータを送ってくれ。」
「はい。志麻と瞬平はどうしますか?」
「泉の判断に任せよう。」
「分かりました。」
…俺達が追い続けているテロリストは、その昔『一条』と名乗っていた組織で。
内部紛争が起きて分裂してからは、その存在も影を潜めていたらしいが…
ここ数年内、動きを見せ始めている。
「……」
ふと、ある疑問が浮かんだ。
「ボス?」
スマホを手にした俺に、富樫が首を傾げる。
「…電話に出ない。」
「…奥様ですか?」
「ああ……華月も繋がらない。」
「すぐ見回りに行かせます。」
華月はどうして…簡単にこのブレスレットを見付けたんだ?
華月に見付けさせるように、仕組まれたのだとしたら…
最初からー…
標的は俺達、『二階堂』なんじゃないのか?
〇二階堂咲華
「…何だったのかな…」
「ほんと…特に何もない…わよね。」
「うん……お姉ちゃん、あれ何?」
隣にいる華月が、裏庭を囲った塀の手前にある木を指差した。
「あれって?」
「枝の所。」
「枝?何かある?」
「…もう。」
唇を尖らせる華月に小さく笑って。
「…あれに気が付くなんて、華月凄いわね。」
首をすくめた。
「え?」
「あの木を買って植えた時の記念に、メダルを飾ってるの。あんなに小さい物、よく気が付いたわね。」
「普通気付くと思うけど…」
「そっかあ。二人だけの秘密だったのに。」
「はいはい。ごめんね?気付いちゃって。」
リズを抱えたままの華月が、クスクス笑う。
…あの枝の付け根に…防犯カメラが埋め込んである。
あたし達は幸せに暮らしてるけど…何があっても不思議じゃないのは確かだ。
だから…最低限の防犯と…あたしに出来る限りの注意と…
それなりの覚悟はしてるつもり。
…何があっても、リズと海さんを守る。
あたし達の幸せを…守る。って。
「…これ、りっちゃんの?」
華月が庭の片隅に転がっているボールを見下ろして言った。
ついさっき。
庭から耳慣れない音が聞こえて来て、あたし達は外に出た。
華月が防犯カメラに気付くとは思わなかったけど…
もしかしたら、詩生君の事もあってか…色んな事に敏感になってるのかもしれない。
「ううん。違う。」
「ご近所の子供が投げ入れたとか?」
「この辺りに子供はいないんだけど。」
「ふーん…じゃあ…さっきのは、これが飛んで来た音かな。」
あたし達はボールをマジマジと眺めながらも、それに触る事はしなかった。
特に能力があるわけじゃないけど…
なぜか、触っちゃいけない気がした。
それは華月とリズも感じてるのか…いつも珍しい物を見るとはしゃぐリズが、華月の腕の中でおとなしくしてる。
フォンッ。
あたし達がボールを眺めてると、突然それが妙に生ぬるいような音を立てて割れた。
「きゃっ!!」
驚いたあたし達が抱き合ってる間に、割れたボールの残骸はまるでその存在を消すかのように…
「…え?」
「とけた…」
音も匂いもなく。
とけて消えた。
「……」
「……」
「なっなっ。」
ふいにリズが笑顔でボールがあった場所を指差す。
「うん…ないない、ね。」
「まー、んまんま。」
「…お姉ちゃん、りっちゃんお腹空いたって。」
「…そうみたいね。」
ボールの事が気になったけど…あたし達は家の中に戻る。
「……」
「……」
二人で顔を見合わせた。
部屋の様子が…何となく…だけど、変わってる気がしたから。
「…何だろうね。」
「うん…」
「あ…海さんから着信があったみたい。」
「…あたしにも。」
「……」
海さんは現場に行くと、しばらく音信不通になる。
だから…メールをくれた後に電話なんて…
「華月。ここを出よう。」
あたしは最小限の荷物をまとめて。
「もしもし…咲華です。」
お義父さんに電話をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます