第21話 「おばあちゃま、一人で来たの?」
〇桐生院華月
「おばあちゃま、一人で来たの?」
病院の一階にあるカフェで、あたしはおばあちゃまと甘い物を食べてる。
急に現れて驚いたけど…少し安心も…してる。
詩生がいなくなってから、ずっと気が張ってたから。
おばあちゃまの笑顔を見たら…ホッとした。
「うん。だって、なっちゃんと来たら…華月、気まずいでしょ?」
「…そんな事ないよ。」
「嘘ばっかり。」
頬を突かれて苦笑いする。
…解ってる。
おじいちゃまの決める事は…いつも正しい。
だけど、その決断には…最初、誰もが傷付く。
DEEBEEは解散。
まだ正式発表はされてないけど…その内ニュースにはなる。
だって、DEEBEEにいた希世が、お兄ちゃんとガッ君とバンドを組む話は…ファンの間で静かに広まってるもの。
宣材写真だって…撮ってたし…
「…おばあちゃま、ビートランドの会長になるんだよね?」
「うっ…それ…荷が重いけど…なっちゃんのお願いだからね…頑張っちゃう。」
目の前で小さくガッツポーズをするおばあちゃま。
可愛いなあ…
「あのね…あたし、七光を大活用したいって思ってるんだけど。」
少し姿勢を正して告白する。
「七光?」
「延期になったフェスって…夏にやるの?」
「うーん…今の所、そうかな。出来れば周年と同時に大規模でって。」
「そっか。」
カップを手にしてラテを一口。
サラブレッドだけど…ちゃんとボイストレーニングをした事も、誰かの前で堂々と歌った事もないあたしが。
フェスに出る。なんて言ったって…
即却下されちゃうよね…
…でも。
あたしは詩生と一緒に生きていきたい。
そのためには…音楽が必要。
モデルは、歌ってても出来る。
あたしがそこに立っていれば…それはもうショーなんだから。
「…おばあちゃま。」
「ん?」
「そのフェスに、あたしを出させて。」
「…え?」
「あたし、詩生とユニット組むから。」
「……」
おばあちゃまが口を開けて、真ん丸い目をした。
ああ…あたし、今おばあちゃまを驚かせてる。
そう思うと、ちょっと嬉しかった。
「こ…この話…なっちゃんは…?」
「知らないよ。まだ…お兄ちゃんにしか相談してなかったし。詩生にも…先週打ち明けたぐらいだから。」
「…ま…間に合う?」
「間に合わせる。」
「……」
「あたし、詩生の居場所になるの。」
あたしの中には何の迷いもなくて。
それは…おばあちゃまにも伝わったらしい。
「…分かった。贔屓しちゃう。」
「おばあちゃま…」
「あっ、でもきっと…贔屓じゃなくなると思うから。」
「え?」
「華月と詩生ちゃんなんて…絶対誰もが認める最強ユニットになるとしか思えないもん。」
「……」
おばあちゃまの指が、優しくあたしの前髪に触れる。
「…ついでだから、これ、サプライズにしちゃおうよ。」
優しい気持ちになってる所に、おばあちゃまの悪戯な笑顔。
「…え?」
「誰にも内緒にしちゃお?みんな驚くよ?」
「って…そんな事出来るの?」
「しちゃうの!!あ、里中君にだけは相談しなきゃね。」
「う…うん…」
「わ~楽しくなって来たっ。」
「……」
あたしは…目の前でワクワクしてるおばあちゃまに…小さく頭を下げる。
「ん?」
「…ありがとう。おばあちゃま。」
「……」
「大好き。」
顔を上げて、おばあちゃまの目を見て言うと…
「…もー!!なんて可愛いんだろ!!あたしの孫!!」
おばあちゃまは立ち上がって、あたしの頭をギューッと抱きしめた。
…周りからは笑われたけど…
ほんと…
おばあちゃま…
…大好き。
〇浅井 晋
「……」
何やろ。
さくらが来て、アドレナリン出過ぎたんかな。
眠れへん。
隣のベッド、詩生はすっかり夢ん中や。
…俺の孫…か。
詩生に向けてた視線を天井に移す。
何…言う事はないが、ちと…感傷的な気持ちになった。
ビートランドで廉のセレモニーをやった後…
俺は20も年下のセリーヌと結婚した。
翌年にはハリーが生まれて。
まあ、幸せやったな。
地下牢におる間…考える時間だけはあり余るぐらいにあった。
最初はセリーヌの事もハリーの事も…一日も忘れる事なく考えてたはずやけど…
その内、思考が停まった。
セリーヌはまだ若い。
帰って来ーへん俺を待たんと、新しい男を見付けて幸せになってくれてたらええなあ…て。
そう思うた。
実際、目が覚めた時にそこにおったハリーとセリーヌ。
俺が思うより、ずーーーっと大人んなっとるハリーと。
一気に歳を取った感のあるセリーヌ。
当然や…
15年も心配かけてたんやしな…
セリーヌは10年俺を待って。
2年前…俺の葬式もあげて、ずっと支えてくれてた男と入籍したらしい。
…えかった。
それで。
「…さくら…か…」
昼間の様子を思い出して、つい笑うてもうた。
ガキか。
けど…何で俺…
…廉が撃たれた後…記憶が曖昧になった。
何回か、廉とさくらについて聞かれた事がある。
それは、高原さんにもやし…廉の娘の瑠歌にも。
何でやろか…
あの時は、全然さくらの事が分からへんかった。
写真を見ても…や。
今日、さくらが病室に入って来た時も、元気のええ女が来た!!ぐらいやった。
けど…
ふ…っと。
詩生と華月ちゃんが何かを見始めた隙に。
さくらが…唇の前に人差し指を立てて『しー』て言うたか思うたら。
俺のこめかみに、指を当てた。
あの瞬間。
一気に波が押し寄せたかのように…頭の中で写真がめくれた。
…何やろ。
あの感覚。
頭のどこか…片隅に部屋があって。
そこに閉じ込めといた記憶が、ドアが開いた途端に流れ出て来た…いう感じかな。
さくらの事はもちろん…
廉の、あの場面も思い出した。
あれから…43年も経ったんやな…
けど、あの時は頭にもやがかかったようになって思い出せへんかった場面が…今は鮮明によみがえる。
廉は…飛び出した子供を守ろうとした。
そして…銃弾に…
「…っ!!」
思い出しただけで身体が震える。
この15年間、何回も命を諦める事があった。
肉体的にも精神的にも辛い日々やった。
けど…
あの、瞬間。
廉が撃たれた瞬間。
…あれに勝る苦痛はない。
けど…
「……」
廉が撃たれた後。
…誰かが、あの銃撃戦を終わらせた。
誰かが、や。
駆け出したボブカット。
相手に蹴りを入れて銃を奪うと、それを次々に…
「……」
ベッドから体を起こす。
あの時…あれを終わらせたのは…
…さくら…?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます