第15話 『瞬平。』

 〇高津瞬平


『瞬平。』


「何。」


『今送ってくれたデータにMI6からの物があったが…さっきの頭の声明は二階堂以外にも発信されてたのか?』


 現地から志麻の声。

 僕はキーボードを叩きながら、装着したヘッドセットに言葉を返す。


「してたのかもね。僕のとこにMI6以外…CIAやモサドからも一条についての情報が入って来た。」


 元々、一条はイギリスを拠点にしてた。

 だからMI6からの情報はありがたい。

 組織の根本的な部分を知るのは大事だ。


『なるほど…一条が所持してる武器の数はおびただしいな。』


「だね。僕らが把握してない物まで想定すると、考えたくないレベル。」


『えー。瞬平、らしくない事言うねー。』


「うるさい。おまえ、ちゃんと仕事しろよ?」


『やってるやってる。』


「黙れっ。」



 …頭が、薫平の名前を出した。

 二階堂を抜けたにも関わらず…僕のフリしてCA5に乗って現地入りして。

 本当なら、父さんに『死して償え』って冷たく言われても仕方ないぐらいだ。


 それでも…

『薫平がいるなら』って…頭は思ったのかな。



 薫平が抜けた後、僕はめちゃくちゃ頑張った。

 奴がいなくたって…って。

 僕だけでも、やれる。って。

『高津の双子』は、二人揃わなきゃダメだって思われたくなかった。


 だから…本当はすごく腹が立つ。

 こうして…勝手な事して、なのに認められてる風な薫平の事。


 …なのに、どこかで安心してる自分もいる。

 これで…最強だ。なんて。



 でも実際は、すごく難しい。

 ボスの居る地点まで…どうやって近付いて、単身で動けない要救助者を確保するか。


 集められた色んな情報を元に、爆発物の性能や特徴を割り出していく。


「地雷も爆発物も、旧式だね。」


『て事は、リモコンはないって事だな。』


「うん。アーサーVで見ても、信号の反応はない。」


『なるほど…』


 可能性としては…

 地雷の隙間をぬって救助に向かう方法…が、一番成功に近い。

 ただ、それには…『邪魔者がいなければ』って状態で、だ。


 当然ながら、バズーカを構えた兵達が待ち構えてるだろうし…

 何より…

 地雷の隙間をかいくぐるのも、時間がかかる。


 撃墜されても根気強くドローンを飛ばしながら、こちらから攻撃をするパターンもあるが…

 それだと他の爆発物に…



『瞬平。』


 僕が結論にたどり着けなくて悶々としてると、志麻から声がかかった。


「何。」


『リモコンがないなら…まずは富樫さん達の救出を先に始めよう。』


「あ…」


 もう夜だという事と、ボス達の居場所の条件が悪すぎる事で、頭が固くなってたようだ…

 リモコンが使えないなら…片付けられる事から始めた方が賢明だ。


「確かに。ありがと。」



 志麻の言った通り、僕は富樫さん達の救出に向けてのプログラムを作成して、各国から応援に出てくれているメンバーにもそのデータを送った。


『10分後に遂行する。』


「よろしく。」


 富樫さん達はこれで間違いなく…安全に救出されるはず。

 問題は…ボス達だ。


 僕が衛星モニターに向かい合ってキーボードを叩き始めると…


『瞬平、聞こえるか?』


 かしらの声が聞こえた。


「あ…はい。」


『他との通信を切ってくれ。おまえにだけ話しがある。』


「…はい…」


 何だろう…と思いながら、言われた通りヘッドセットへの通信はかしらだけにする。


「なんでしょう?」


『…全員救出を念頭に置いても、とても危険な取引だ。』


 かしらの声は…鬼気迫るものがあった。

 今まで、どんな現場にも冷静な判断と適切な対応ができる人で…誰もが尊敬して止まない人だ。


「はい…」


『…地下の三人のうち、二人は自力で歩けない。』


「…はい…」


『二階堂は…こうを最優先するつもりでいて欲しい。』


「……え…?」


 つまり…


『紅は一条にとって絶対的存在だ。何があっても渡してはならない。』


「…それは…どういう…」


 軽く…脳内にヒンヤリとしたものを感じた。


『…現場にいる二階堂 海は、二人を救うために尽力するだろう。それを信じるしかない。地上からの援護は中止だ。』


「な…っ…!!」


『犠牲は…最小限に留めなくてはならない。』


「……」


 言葉が…声が…出なかった。


『富樫達が救出された確認を取ったら…引き上げるように通達しろ。』


 頭は今…

 ボスを見捨てる指令を出せ…と、僕に言ってる…?

 そ…


「…そんな……そんな事…!!」


『瞬平。命令だ。』


「っ…」


 体の…震えが止まらない。

 僕は…

 …僕は…そんな指令…


『富樫・火野、NW9YT582から救出成功。敵陣全員丸腰で眠らされていました。詳細は不明。』


 ふいに入って来た朗報を聞いて、僕はモニターを見上げる。

 そこには小屋から救出されてる富樫さんと火野さんが映ってる…けど…


「二人とも無事なんですね?それは…眠ってるだけ?」


 僕はヘッドセットの信号を全局に入れて問いかける。


『はい。二人も敵も…小屋の中、全員が眠ってました。』


 全員が…眠ってた?


「…LK5FR663の救出隊はどう?」


 富樫さん救出と同刻に動いたグループに問いかける。


『こちらも…水元・木塚、共に救出成功しました!!ただ…やはり敵陣全員眠っています。』


「…丸腰?」


『はい。誰一人…武器は持っていません。』


「…村人じゃないよね?」


『リストにある顔です。一条のメンバーですね。』


「…ちなみに…」


『…水元と木塚も眠っています。』


「……」


 いったい…何が起きたんだろう…?

 確か、どの敵陣にも武器はあった。

 反応も出てた。


 …何が起きてる…?



『このままRR445付近に向かいますか?』


 応援の一人にそう言われて、僕は小さく息を飲む。

 これは…罠じゃないのか?

 こんなに簡単に救出させて…


 一条の手が見えない。


 頭の声が脳裏をかすめた。


『地上からの援護は中止だ。』


 …助けられないなんて…


 僕が答えあぐねていると…


『俺が行く。』


 力強い…志麻の声が入って来た。

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