第3話 失敗した二度目の人生

 そんな二度目の人生を手に入れた私は、前世の普通な人生しか送れなかったという悔しさを晴らすために、今度は勝ち組と言われるような良い人生を送れるように、誰よりも先んじて努力を始めた。


 若い頃から身体を鍛えて運動も人並み以上に出来るよう、病気も怖いから警戒して健康には特に気を使い、学力を高めるために勉強を怠らなかった。女の子らしく美貌のケアにも幼い頃から怠らず注意を払った。


 その結果、成績優秀で運動神経も抜群。両親から譲り受けた端麗な顔を手に入れるに至った。


 美に、運動能力に、勉強もできる。これだけ揃っているのだから、今度こそは我が世の春を謳歌できると、人生楽しく生きていけると思っていた。転生したのだから、他の人とはスタート地点が違う、誰よりも早く準備を始めて努力してきた。


 これだけ頑張ったんだから、何事も自分の思いどおりになるだろうと考えていた。だが、それは大きな間違いだった。


 人生は、自分一人だけのステータスで決まるものではない、ということをすっかり忘れていた。



 人間関係というものを、もっと大事にするべきだった。



 私は人とコミュニケーションを取るのが苦手である。思い返すと前世では、人並みには出来ていたし苦手でも無かった筈。なのだが、今世では失敗続きだった。それで今世でコミュニケーションについて苦手意識が生まれた。


 まず幼稚園に通っている頃、前世の大人としての記憶があるせいで子供の集団の中に混じって遊ぶという事が妙に気恥ずかしくて、それでも気合を入れて子供の仲間に加わろうとタイミングを見計らっている間に、幼稚園から卒業していた。行動に出るのが遅すぎた。


 そして小学生。今度は男としての記憶があるせいだろうか、女性のコミュニティーに上手く入って行けず。かといって、男の子のグループに入ろうとしても仲間に入れてもらえなかった。見た目は完全に女の子だからという理由で、男の子っぽい遊びに加えてもらえなかった。もっとボーイッシュな感じだったら、違っていたのかもしれない。


 結局、やることは中途半端で孤立することになって一人だけ。その時間を友達作りではなく、一人で自分磨きに費やして時間が過ぎていった。


 中学生になったら、学校の成績が重要視されるようになってきて成績優秀だった私は高嶺の花としてクラスメート達からは距離を置かれるようになり自然と孤立した。友達作りも上手く出来なかった。


 高校生になると、人付き合いをしてこなかった今までのツケが回ってきた。クラスメイトの一人から嫉妬されて、その一人が中心となって周りの女子を味方につけて、私はイジメを受ける事になる。


 最初は無視から、陰口を叩かれて。持ち物を隠されたり、ありもしない噂を流されたりと陰湿なイジメ。


 それでもまぁ、子供のイジメなんてたかが知れている。気にする必要もないだろ、友達じゃないクラスメートなんて長くて3年間だけの関係だから、時が経ったら解決する問題だ。と自分に言い聞かせて軽く考えていた。


 そんなある日、私の身体の調子に異変が起こった。学校に行こうと朝、目を覚ますと身体が動かなくなったのだ。起き上がろうとすると、鉄のようにガッチリと身体が固まって動くことが出来ない。学校に行くために無理やり起きようとするが背中から冷や汗も出てきて、ベッドの上から自力で身体を動かすことが出来なくなった。


「シホちゃん、起きてる? 学校の時間よ」


 いつもの時間になっても、自室から出てこない事を不審に思ったのだろう。母親が確認しに部屋の中に入ってきた。その時、私はベッドの中に横になっていた。


「ごめんなさい、ちょっと具合が悪くなって……」

「そうなの? どこが痛むの?」


 布団から半分だけ顔を出した私。ベッドの上で横になっている状態で、掛け布団で下半分だけ隠した私の顔を覗き込んできて、心配そうな表情で尋ねてくる。


 具合が悪いのは本当だけど、身体がだるく感じるだけなので嘘をついているような気分になった。頭は痛くないし吐き気もない。ただ身体が思うように動かないだけ。


「身体がだるくて……ちょっと……」

「わかったわ。学校にはお休みしますって連絡を入れておくから、シホちゃんは安心して。ゆっくり休んでなさい」


 すぐに母親は、学校を休んでいいよと言ってくれた。その優しい言葉を聞いて私は安堵して、それだけで身体のだるさが軽くなった気がする。


「はい……」


 何の疑いも持たずに部屋を出ていって、学校に休みますという連絡を入れてくれた母親の姿を見て、先程まで感じていた身体の不調は回復していた。


 朝、だるくて起き上がれなくて、母親が私の部屋に確認しに来ると今日も不調だと言って、学校に連絡してくれる。そんな事が1週間も続いた。


 熱は出ていないし、吐き気もない。風邪やインフルエンザで体調を崩しているわけではない事に気付いた母親。彼女に連れられて私は病院に行った。診察された結果、大きなストレスによって鬱病と社会不安障害、いわゆる対人恐怖症であると医者から告げられた。


 学校でのイジメ。自分では問題ないと思っていた事なのに、知らず知らずのうちに精神的に大きなダメージを受けていて、身体の症状として現れてしまったらしい。


 症状の原因を究明する際に、私が高校でイジメを受けていた、ということが表沙汰になった。それから後、私は学校に登校しなくてもいいよ、と両親から言われたので高校に行かなくなってしまった。


 転生という大きなアドバンテージを生かすことが出来ず、むしろデメリットとして大きく失敗した人生の道を歩み始めている。これから先、将来はどうするべきなのか全く分からなくなってしまった。


 そんな人生のどん底と思えるような、私にとって最悪な状況の中で出会ったゲームというのが、「リミット・ファンタジー・ゼロ」というタイトルのVRMMOだ。

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