第4話 噂で聞いたゲーム

 私が、リミット・ファンタジー・ゼロというゲームを知ったのは、友達から教えてもらったのが最初のキッカケだった。


 ただ、友達といってもリアル世界の友達ではなくネット上で知り合った人達だ。


 私の一番の趣味は、テレビゲームで遊ぶこと。女の子っぽくない趣味かもしれないが、前世でも好きだった、という理由もあって今世でも一番の趣味と言えるぐらいになっている。


 前世では仕事以外には、ゲームぐらいしかしてこなかった。大人になっても趣味がゲームぐらいしか無かった。そんな前世の反省を活かして、ゲーム以外にも積極的に趣味を持つようにするため、読書や映画、音楽鑑賞などにも躊躇せず手を出した。


 すごい、と皆から言ってもらえるよう運動できる身体を鍛えたり、両親が習い事で通わせてくれた音楽教室でも人一倍がんばってピアノやギター等の楽器を必死に練習したりするのも趣味にしていた。


 今では、不登校になって習い事も辞めてしまった。結局、今世で飽きもせずに続けられている、一番の趣味だと言えるのはゲームぐらい。習い事に通って、特技とかを身に付ける事は出来たけど、今の私の趣味として残ったのはゲームだけだった。映画とか読書とか、今も好きだけどね。


 一応、学校に通っている頃の私は成績優秀であり、学生としてやるべき事はやった後に熱中しすぎない程度にゲームを趣味として楽しんでいたから、両親からもゲームばかりやっちゃ駄目と言うような注意をされた覚えはない。


 というか父親がコアなゲーマーなようで、一緒にゲームを楽しくプレイすることもあった。そして、母親も誘えばたしなむ程度にゲームを一緒に楽しんでくれる。弟は身体を動かすことが好きで、アウトドア派であり学校の部活とかが忙しいという事もあって、普段はあまりゲームをしている姿を見ることはない。ただし、誘えば一緒に遊んでくれたりする。


 父親、母親、私と弟の四人でリビングに集まってパーティー系ゲームをすることもあった。家族仲は良好で家族みんなで楽しめる趣味として、小野間家にはゲームがあった。


 そんな私の趣味、ゲームを通してネット上で知り合った「何となく気が合いそう」と感じた何人かの友人たち。彼ら彼女らとは、薄く長い関係を続けている。どこの誰なのか詳しく知らないし詮索もしない。教えてもらった年齢や、性別さえ本当なのかどうか定かではない。


 そのお陰なのか、ネット上ならリアルで感じる息苦しさや視線の恐怖で対人した時のような不安を感じることはなかった。だから、一緒にゲームをプレイして楽しめる友達になれていた。


 そんな人たちから教えてもらったのが、リミット・ファンタジー・ゼロという完全ダイブ型VRMMOだった。きっかけは、チャットアプリのグループ内で今おすすめのゲームを聞いた時。



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レッド>オススメ? フルダイブ型のVRMMOをプレイ出来るって環境が揃ってるなら、絶対にリミット・ファンタジー・ゼロだね。


ブルー>あれ、めっちゃ面白いよな。


ティティアナ>今どき、リフゼロをプレイしない人が居るってマ?


エリノル>フルダイブ型は環境を揃えるのに敷居が高いんだから、それでマウントを取るのは止めなさい、ティティ!


ティティアナ>すまぬ。私もリフゼロに一票。オススメのゲームなのは確か。



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 というようなチャットの返事が来た。一ヶ月前ぐらいに発売されたゲーム。噂には評判が良いと耳にしていたが、ここのグループに居る皆からも好評なようで、ネットでの評判や噂はサクラ行為やステマでもなく本当だったんだなと確信できた。



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フォルトゥナ>へー。そんなに面白いの?



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 カチカチとキーボードで文字を打ち込む。目の前の画面に、私のチャットネームである、フォルトゥナという名前がチャット欄に表示された。


 そんな、私の何気ない一言にコンマ数秒も待たないうちにバババッと続けて一気にチャットから返信が戻ってきた。



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レッド>一言、オススメ。


ブルー>超お薦めだ!


ヴェル>プレイすべきやね。


エリノル>フォルトゥナ、一緒にやらない?


ティティアナ>やろうよ。待ってるわ。



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 チャットルームに居るメンバーが満場一致で面白いという評価を出してくるのは、とても珍しいことだった。ここに居る皆は、ゲーム好きとはいえ好き嫌いのジャンルが結構違っていて、意見が合わない事も多かった。そんな皆の意見が一致して評価が高い、という事は期待できるということ。



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フォルトゥナ>ちなみに、どんなところが面白いの?



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 興味を持った私は、リフゼロというゲームについて更に掘り下げてチャットルームの皆に聞いてみることにした。それぞれの答えを返してくれる。



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レッド>今までVRMMO系ではあまり重要視されてこなかったストーリー性を重視してるのが評価できるね。


ブルー>ゲームシステム的には、真新しいモノは無いんだけど。実は、めっちゃ丁寧に作り込まれているから良いんだよね。


ヴェル>戦闘が意外と楽しいし、なによりも生産系に熱中できるのが良い。


ティティアナ>プレイするつもりなら、絶対に前情報とかを調べずに知識ゼロの状態で遊んだほうが良いっぽい。


エリノル>皆でプレイするのが楽しそうなゲーム、ナンバーワン。


フォルトゥナ>へぇへぇへぇ、そうなんだ。



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 皆の話を聞いているうちにプレイしたい欲が沸き起こった。是非ともプレイしたいけれども、プレイするための敷居が非常に高い。


 まずは、VRMMOを安定してプレイするための専用高速回線の契約が必須な事。次に、フルダイブ型のVRMMOをプレイするために専用カプセル型筐体の据付工事が必要だった。筐体を置くために、住宅の広さも考えないといけない。広めの部屋があるマンションか、一軒家ぐらいは必要。


 まずプレイ環境を整えるための準備費用が大変だ。全てを揃えるとなると、今最新の圧倒的ハイスペックを誇る超高性能パソコンを買い揃えられる程の値段だ。まだ、未成年の私には環境を揃えるのが困難だろう。


 両親に買ってと強請るには金額が高すぎる。私は、学校にも行っていないし。かと言って、アルバイトをしてお金を稼ごうにも、病気のせいもあって仕事の面接に行くのも大変だ。万が一、働かせてもらうことになったとしても職場に出たら色々と迷惑を掛けてしまうかもしれない。


 いつか精神状態が今よりもずっと落ち着いて、働きに出られるようになって自分で給料を稼げるようになったら絶対にフルダイブ型のVRデバイスを買う、と心に決めていた。今はプレイできないが、いつかは……。


 そんな風に思っていたんだけれど、思わぬところからVRデバイスを手に入れる事になった。

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