第42話 最新テクノロジー体験

「どんな感じですか?」


 VRデバイスを装着して、いつも使用しているキャラクターであるフォルトゥナでゲーム内に入る。降り立った場所で伊田さんの声が館内アナウンスのように遠くから聞こえてくる。


「これ、凄いですね」


 私は伊田さんの質問に素直な感想を答えた。自分の動きというよりも目の前に居るエリノルの動きが、いつも以上になめらかに動いているのを見て驚いたから。


「ちょっと待って下さい。動きの調整をするんで。木下さん、お願いします」

「あぁ」


 どうやらゲームに入った後に調整というものが必要らしい。木下さんは先程の打ち合わせで紹介された、チーフプログラマーという人だった。彼が、調整という作業をしてくれるらしい。普段使っているVRデバイスではやらない事だ。


 待っていると、色々と動きの指示をされて外部で何かの作業が行われていく。


「個人の動きに合わせて、ちょっと設定をいじると更に動きが良くなるんです」

「なるほど」


 確かに、重りを外すような感じで徐々に動きが軽くなっていく様な気がする。


「指先まで、思ったように動くんですね」

「ホントだ」


 エリノルの指摘で気が付いた。私も手をグーパーと閉じて開いてを繰り返したり、指を一本ずつ動かしてみると思った通りに動くことを確認できる。


「それに何だか、見える景色もいつも以上に綺麗に見えます」

「あぁ、それもVRデバイスの性能が高いおかげですね。処理速度と描写速度が数倍アップしていて、仮想世界を作っているんで」


 なるほど、実際に見えている景色が違ったのか。デバイスの性能が高いから景色もいつも以上に良く見えるという事らしい。


「設定、終わりましたよ」


「うひっ!?」

「おお!」


 伊田さんの声が聞こえた、次の瞬間。背中に突然、誰かに触られた感触が有った。思わず変な声が漏れ出てしまった。


「こんなに、しっかりと触った感じが有るんですね」


 背中を触ってきた犯人はエリノルだった。景色を見るのに夢中になっている間に、私は背後を取られていたらしい。そして背中を触られた。


 突然のことにびっくりしたし、仮想空間でもこんなリアルに肌を触れられた感じを体験するとは思わなかったので驚いた。


「もう! 止めて下さいエリノル」

「まさか、ココまで驚くとは思わなくて。ごめんごめん」


 その後、自分の両腕を触ってみたり握手してお互いの感触を確かめ合ったりして、最新の機能を体験してみた。コレは本当に凄い。リアルすぎて、仮想空間と現実空間の区別が付かなくなりそうだ。


「コレって、モンスターと戦ったとしたらリアルにダメージとか入るんですか?」


 モンスターに攻撃され殴られた感覚とか、切られた感覚、魔法攻撃に当たった時の感覚なんかを感じるようになるのなら、ちょっと危なそうだ。


「いいえ。今現在は、人同士か対物に触る場合のみです。モンスターの接触は対象外ですね。触覚のフィードバックを行うのは、指定した範囲だけなんですよ」


 設定によって感触をフィードバックする範囲を設定できるらしい。そうしないと、色々と危なそうだから納得できる。


「公式番組の撮影は、あそこで行うんですね」

「そうなります」


 触覚反応の再現機能を確認した後。次は目の前にあった、テレビ番組のような美術のセットが置かれた空間について尋ねる。そこで公式番組の撮影を行うんだろうなと、すぐに分かった。


「ここは現実と違って、好きなように配置を変えたり出来ますよ」


 外部からの声である伊田さんがそう言った後、目の前にある装飾や電飾のセットが次々と変わっていく。


「まだ仮決定なので、ここは自由に決められます。伊礼さんには企画のデザイン画を後でお渡しするので、何かアイデアが有れば提案をお願いします」

「はい、分かりました」


 エリノルは仕事柄そういう事が得意そうだったので活躍しそうだ。運営とは、私が知らぬ間に色々と話し合っているらしい。


「ここから、リフゼロの世界は繋がっているんですか?」

「もちろん繋がっています。二人がいる場所もリフゼロ内にある世界の一部ですよ。具体的に説明すると、イシスキジャの街にある館の一つの中。その場に存在している建物の中ですよ」


「え? あの、謎の街ですか」


 イシスキジャの街とは、プレイヤーが立ち入りできない建物が数多く存在している謎の場所だった。


 なぜ、プレイヤーは中に入れないのか、館は誰の持ち主なのか、ストーリーとどう絡んでくるのだろうか。ゲーム内で集まった情報からネット上で様々な推理と考察をされているような場所だったが、こういう使われ方をするのか。


「それと第一回の番組放送では新情報を告知するためにフォルトゥナさんの魔法学校にある寮、プライベートルームを公開する予定ですが大丈夫ですか?」

「はい、多分大丈夫です」


 ここ数日間、私はリフゼロの新機能であるプライベートルームを先行して体験させてもらっていた。色々と楽しんだので新機能については、番組内での報告をしっかり出来るだろう。


 部屋を公開するのは今日が初めてだ聞いたけれど。事前に公開することを教えてもらっていて良かった。一応、念の為にも皆に公開する前に一度部屋の中身だけは確認しておこう。仮想空間なのにまるで、友達を家に招く前に部屋を掃除をしておこう、という感覚と同じような気持ちになった。


「あと説明しておくのは、視聴者からのメッセージですね。当日は、こんな風に見えるようになります」


【こんな感じです】

【どうでしょう?】

【入力された文字が3Dで空中に表示されて】

【右から左に流れていきます】


「わぁ、これは分かりやすい」

「面白いですね」


 目の前に3Dの文字が流れていく。今は、外からテストプレイで文字を流してどんな具合になるのかを見せてくれた。


「あ、この文字掴めますよフォルトゥナ様」

「本当だ」


 実際に流れる文字を掴んで、自分のもとに持ってくることが出来る。ちょっとした機能だがこれは面白いな。番組内でも話題にできそうだ。


「ざっと、こんな感じです。本番もよろしくおねがいしますね」

「お願いします」「分かりました」


 一通りの確認を終えて、私達はゲームからログアウトする。その後に、他の4人も順番にVRデバイスに乗り込んで最新機を体験していった。


 先に体験し終わった私達は、外からどう映っているのかも確認する。こうして公式番組の成功に向けて、皆で着々と確認と準備を進めていった。

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