第41話 最新VRデバイス
「見てもらいたいのは、コレ。企業向けの最新型VRデバイスです」
伊田さんに案内されて部屋の入ってみると、その中には大きな機械が2つ設置されていた。最新型のVRデバイスというヤツらしい。自宅にあるVRデバイスと比べると3倍ぐらい大きさが違うような巨大な装置だ。
「公式番組の放送は、ココでやってもらおうと考えています」
「普通のVRデバイスとは、どう違うんです?」
公式番組の放送当日は、ココに来る必要があるのか。前のダンジョンの攻略模様を生放送した時とは違う。
石坂さんが最新型VRデバイスについて質問すると、よくぞ聞いてくれました、という感じで伊田さんが笑顔を浮かべて詳しく説明してくれた。
「まず搭載しているCPUの性能が凄いんです。クロック周波数が10倍近くも違うので、処理速度が一般のVRデバイスと比較して段違いに早い。つまり簡単に言うと、キャラクターの動きがより現実と近いものになります」
なるほど、皆に見てもらう公式番組ではリアルに近い動きを視聴者にお届けすると言うことか。
「このデバイスの中には表情をトラッキングする高性能なカメラと特殊な専用ソフトがインストールされていて、これを使うことによって表情などが一段とリアルになります」
この最新型VRデバイスを使用するだけで、動作だけでなく色々と現実世界の動きと同じようになる。自宅で私が使っているVRデバイスでも表情は結構リアルに反映されているけれど、最新型とどれぐらい違うのだろうか。
「そして、最大の利点がコレです」
伊田さんは黒の全身タイツのように見えるソレを取り出してきて、私達の目の前に差し出してみせた。
「このVRデバイスにはなんと、触覚反応を再現する機能を搭載しているんですよ。触覚フィードバックデバイスを備えたボディスーツを着ることによって、ゲームの中でも肌の感覚が再現されるんです」
今まで視覚と聴覚だけでもリアルだったのに触覚も再現されるだなんて。仮想世界への没入感が凄そうだ。
「他にも色々と性能がアップしているので、利用してみると一般のVRデバイスとは明らかな違いがあるのが分かると思います」
「へぇ、そうなんですね」
話を聞いていると最新型VRデバイスが他と比べると凄そうな装置である、ということは理解できた。
「あとは、この最新型VRデバイスは企業向けなので値段とか凄いんですよ。一台で一千万ぐらい掛かってメンテナンスやランニングコストに月額数十万ぐらいは必要になってきます」
「いっ!?」
値段を聞いて、高ッと思った。説明を受けて自宅に欲しいと思ったけれど、とてもじゃないが買えそうにない。
「それじゃあ実際に、皆さんにも体験してもらいましょう」
ここには最新型VRデバイスが二台ある。ということで公式番組一回目の出演者に選ばれている私と有香里さんが、まず最初に最新機のVRデバイスを最初に体験させてもらえる事になった。普通じゃ味わえなかっただろう体験に、ワクワクしている。
「更衣室があるので、そこで着替えてきて下さい」
ボディスーツを受け取った後に、私達は指示された通り着替えるため更衣室があるという場所を教えてもらって、有香里さんと2人で移動する。
「更衣室ありましたよ、有香里さん」
「うーん……そうね。ちゃっちゃと着替えて戻ろうか」
私達は更衣室に入ってボディスーツに着替える。一度、着ていた服を脱いで下着姿になってからボディスーツを着る。素肌に密着させる必要があるらしいから。着替えが終わって外に出ようとした時、私は有香里さんに呼び止められた。
「ちょっと待って! 流石にその格好のまま、皆の前に出るのは」
「え?」
ボディスーツを間違って着ていたのだろうか。確認してみるが、問題は見当たらない。ちゃんと着れていると思う。どういう事かと有香里さんに視線を向けると、呼び止めた理由を教えてくれた。
「人前に出る姿としては、ちょっと色っぽすぎる」
「あぁ、なるほど。そういう事か」
確かにボディスーツに着替えた有香里さんの姿を見て、ちょっとだけエッチだなと思って視線を外していた。振り返って自分の姿を客観的に考えると、そう見られるということか。
そういえば昔、こんなぴっちりとしたボディスーツを着た少年少女たちが人形兵器に乗って戦うアニメが有ったっけ。
「志穗ちゃんはちょっと危機感や警戒心が足りない。もっと注意していかないと」
「えっと、はい」
有香里さんから、女性としての警戒心の無さについて注意されてしまった。
「さっき石坂さんにも聞いたよ。来る途中でナンパされて、変な奴らに連れて行かれそうになったって」
「あれは、その……」
言い訳しようにも事実なので、言い返せない。
「打ち合わせ中、周りから見られているのには気付いていた? さっき更衣室に来る途中で、社員さんとすれ違った時に見られているのには?」
「いや、全然気にしてなかったです……」
打ち合わせをしている間は、ずっと話し合いに集中していたので気付かなかった。更衣室に来る道中もボディスーツを見るのに夢中になっていてだろう、気にならなかった。私は、周りからそんなに見られていたのか。
「もう! あんなにあからさまに見られてたのに気付かないなんて事ある!? 志穗ちゃんは、もっと男性に対して警戒心を持ってね」
「分かりました」
それから有香里さんが更衣室の中で見つけ出してきた白地のタオルを借りて、私はソレを身体に巻いて隠す。コレで確かに身体は隠せたけれども。
「これは、逆に変じゃないですか?」
「ボディラインを見られるよりかはマシ」
なんと言ったらいいのか、逆に淫猥な感じもすると思うんだけど。有香里さんから許可が出た。この姿で仕事をしている人達が居るオフィスを横切るのか。なんだか、もっと恥ずかしい気がする。急いで移動した。
「戻ってきましたか。着替えは終わったようですね」
「ちょっと、伊田さん!」
VRデバイスの置かれた部屋に戻ってくるなり有香里さんが抗議をした。着替えが終わるのを待っていた皆の視線が集まる。
「このボディスーツはセクハラです。アタシはまぁ、水着だって思えば問題ないですけど。この子はまだ年頃の女の子なんですから、注意して下さい」
「す、スミマセン。配慮が足らず」
私の代わりに有香里さんが怒ってくれた。堂々とした彼女の姿に皆の注目が集まるが、男性陣は瞬時に視線をサッと外すのが分かった。水着姿で本人は問題ない言っているけれど、長身でスタイルも良い彼女の身体に、ぴっちりと密着したボディスーツの感じはエロいから理解できる。
「えーっと……、それじゃあボディスーツについては次回までに対策を何か考えるとして、最新型VRデバイスの体験を早速お願いします」
詰め寄られた伊田さんは慌てながら話題をもとに戻す。一悶着あったものの、なんとか事態が収まった後に私は最新型のVRデバイスに乗り込んだ。
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