第15話 申し出
「力を借りたいって言われても、俺たちはただのプレイヤーですよ」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。リフゼロを他の人達とは違うアプローチで、色々な方法で楽しんでもらっていましたよね。それを他のプレイヤーに是非とも共有してもらいたいのです」
レッドと伊田さんが向かい合い、代表者同士として話し合っている。それを私達は後ろから様子を伺いながら、二人の会話を聞いていた。
ダンジョンに潜ってモンスター達との戦いに飽きてきたレッドやエリノル、武器やアイテムを作りすぎて行き詰まり生産に退屈していたヴェル、ゲームの情報量が膨大で調査するのに流石に少し疲れてきたティティアナ。私も、ゲームに少しマンネリを感じていて退屈していたところだった。
そんな皆で集まってリフゼロの中で他に新しい楽しみを見出そうと話し合いして、思い付いた色々な方法やルールを作って楽しんだ。その様子を、運営スタッフに見られていたらしい。
高い崖から飛び降りて、いかに声を出さないで我慢できるか勝負。
腕相撲大会で、誰が一番になるのか腕力勝負。
縛りあり罰ゲームありのPvPトーナメント等など。
「プレイヤーの間では既に有名になっていますよ。戦隊ヒーローのリーダーが率いるパーティーメンバー達が面白おかしい遊びをしている、というのが」
「戦隊ヒーローのリーダーって俺の事か」
知らぬ間に世間でも噂になっていたらしい。戦隊ヒーローって言われているのは、プレイヤーネームが”レッド”だからだろう。私も、今ではもう慣れてきたけどレッドという名前を初めて聞いた時には戦隊モノを結びつけた。一緒に、ブルーという名前もあったから。
「遊んでいる様子、見られてたのね」
「なんだか恥ずかしいな」
「まぁ、楽しかったし良いんじゃないかな」
「見られてても、そんなに気にする必要はないでしょう」
恥ずかしそうな表情を浮かべてティティアナが小さく声を漏らす。ヴェルも、平静を装いながら恥ずかしがっているような感じがあった。だがエリノルとブルーの二人は特に気にした様子はないし、平気そうだった。
私は改めて思い出してみると恥ずかしいと思ってしまう。かなり、はしゃいでいただろうから。他人の視線を気にせず、全力で楽しんでいる様子を見られていたのか。思い出していると、顔が熱くなってきたように感じる。
「それとフォルトゥナさんの素晴らしいキャラクター性。それを、より詳細を詰めてリアルにすれば、プレイヤーの皆が惹きつけられると思うんです」
「え? 私?」
突然、私の名前が呼ばれてドキッとする。まさか、コッチに話題を振られるなんて予想していなかったから。
しかも、褒めてくれているみたいだった。だが、自分にはそんなに褒められる程の特徴はなかったと思うけれど。
「リアルにする、ってどういう意味です?」
「今、皆さんが操作しているキャラクターに本気で成り切ってもらって、リフゼロの世界を楽しんでもらいたいんです。キャラクターのつもりになって考えて、この世界にリアルで存在している人物になりきり、キャラクターらしい演技をしてもらいたいと考えています」
「?」
話を聞いても、まだよく理解が出来ない。なぜ、そんな事をする必要があるのか。私の理解が追いつかず、疑問に思っていると伊田さんが更に説明してくれた。
「たとえば遊園地の着ぐるみマスコットキャラクターのような感じで、ログインしてきたプレイヤーをお出迎えしたり、ワールド内を散歩したり触れ合って、もてなしてもらいたいんです。プログラムされたNPCなんかじゃなく、リアルに存在しているプレイヤーが対応することで、リアルさを増す」
他にもゲームの公式PVにキャラクターとして出演してもらったり、今後放送予定の公式番組に演者として出てもらったり、課金アイテム等のゲームに関する情報を、キャラクターになりきってPR活動してもらいたいと考えている。というような事を伊田さんから詳しく説明された。
「もちろん、これはお仕事の依頼なので対価を用意しています」
「え!?」
ゲーム内で他のプレイヤーには見えない秘密のメッセージで数字が送られてくる。それを目にして私は驚いた。一般的なサラリーマンの月収と同じぐらいの金額だったから。予想していた金額よりも報酬がだいぶ多かったから。
「コレが決定ではなく内容は詰めていく必要はあると思いますが、予定ではだいたいこのぐらいを考えています」
「なるほど」
後ろで見ていて驚いた私と違って、レッドはメッセージを確認した後も冷静に受け答えしている。
「どうでしょう? 依頼を受けていただけますか」
「……」
無意識で、私は他の皆の方へと視線を向けていた。他の皆が一体どうするのだろうかと思って。
だが誰も、どうするか答えようとはしなかった。予想もしていなかった急な話すぎたからだろう、即答を避けている。
そして、誰もNOとは答えない。受けても問題は無さそうな仕事だったからかな。けれど、安易に受けると言ってしまうのも危険がありそうで怖かった。
そんな雰囲気を察したのか、伊田さんは私達の答えを聞くのを止めた。
「流石に急な話だから、すぐに答えを出すのは難しいですよね。今日の話し合いは、こんな提案があります、という事を伝えたかっただけなので。一週間後に再び面談をして、その時に引き受けてもらえるかどうか判断をお願いできますか。次の機会で、どうするのか聞かせてもらいたいと思います」
そう言って、伊田さんは席を立った。その後に続いて、ディレクターの中宮さんも一緒に立ち上がる。
「何か要望があれば可能な限り対応します。少しでも気になった事とか、分からないという事があれば、先ほどお渡しした名刺に書かれている連絡宛にでもメッセージを送ってもらえれば対応します」
そう言い残して冒険酒場から立ち去っていった二人。彼らの背中を見送りながら、私はどうしようかと頭を悩ませていた。
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