第16話 皆の決断

「さて、どうしようか?」


 伊田さんと中宮さん、ゲームプロデューサーとディレクターである彼ら二人がこの場から去っていった後。レッドが私達に向かって問いかけてきた。どうしようか、というのは先程の話を受けるのか、断るのか。


「ちょっと怪しくないかなぁ、突然の話だったし。よく分からないけど、こんなお金がもらえるなんて。うまい話には裏がある、って言うし慎重に考えるべきだと思う」


 エリノルは慎重だった。突然の話に怪しさを感じて、今回の件については否定派の様子。


「いや、でも説明で聞いた色々な活動をして貰える報酬としては妥当じゃないかな」


 逆にブルーは乗り気のようだった。その言葉に頷いているのはヴェル。


「俺は今回の話を受けてもいいと思った。面白そうだし」

「最悪、何かあればゲームを辞めれば良いしさ」


 そう言って、ヴェルとブルーの二人が賛成派に回る。だが、二人の意見を聞いた時ティティアナがその言葉に指摘する。


「ダメだった場合には逃げるって、それはちょっと無責任じゃない?」

「もちろん依頼を受けるのなら、やるべき事はやる。最悪の場合というのは、念の為にな」


「なるほど、そういう事か」


 弁解するブルーの言葉に一応の理解を得たのか、頷いて黙り込んだティティアナとエリノル。


「フォルトゥナはどうしたい?」

「私、ですか?」


 そこで突然、どうするか判断に迷っていると話が振られた。私はまだ、どうするか決めかねていて他の皆の決断に乗っかろうかなと考えていたけれど駄目か。


 なんと答えようか迷っている間に、レッドが続けて言う。


「広場の歌の件もあるし、上手くいけばそっちの問題も解決できるんじゃないかな。それに向こうは、フォルトゥナに注目している感じだった」

「あー、なるほど」


 想定外に続いてしまった独唱会。次回は、エリノルが機転を利かせて未定と言って先延ばしにしてくれたけれど、何もアクションしなければ色々と言われそう。それにあの様子だと、次も次もと続いて終わらせることが出来無さそうだ。


 それなら運営になんとかしてもらうか。今回の件を理由にして独唱会を終わらせる事ができそうだ。


「フォルトゥナちゃんが賛成するのなら、私も賛成にしようかな。楽しそうだ、ってのは本当だしね」


 どうするか考えあぐねていると、エリノルはその判断を私に委ねてきた。


「え? 皆は賛成の流れ? じゃあ、私もフォルトゥナちゃんが賛成のなら、自分も賛成意見に変えます」


 エリノルに乗っかる形で、ティティアナも私に判断を任せにきた。どうしようか。でも、面白そうという気持ちは確かにある。危なそうというのも分かるが、やってみたいと思っている。


「受けてみたい、と思います」


 しばらく皆に見守られながら考えた。思い浮かんだ、そのまま今の気持ちを正直に伝える。すると私が口にした決断に、レッドは頷いた。


「そしたら、この場にいる皆が満場一致で賛成ということで」

「異議なし」「おっけー」「了解」「うん」


 最終結論を確認するレッドに、私達みんなが同意した。


「よし。なら、連絡を入れておこう。善は急げってね」


 思っていたよりも早く、皆の意思が固まって結論が出た。その場の勢いで、すぐに連絡を入れようとウィンドウを開いたレッドに私は待ったを掛けた。


「あ、その前に」

「どうした? 何かあるのか」


 一つ、懸念があった。


「私は、家族にも一応相談をしておきたいです」

「なるほどな。フォルトゥナの他に、相談しておきたい相手が居る人は?」


 他の皆は首を振って大丈夫だと示す。どうやら、私だけのようで申し訳ない気持ちになる。


「ごめんなさい。せっかく決まりかけていたのに邪魔しちゃって」

「いや、いい感じのタイミングでブレーキになったかも。一旦、冷静になって色々と考えたほうが良いかもな。向こうにも、確認してみるのが良いか。その間に、フォルトゥナは家族の人と話し合って。了解を得られたら、その結果を俺に連絡してくれると助かる。ダメだった場合も、連絡をくれ」


「はい、分かりました」


 そう言って気遣ってくれるレッド。早く確認して、改めて連絡しないと。


「それじゃあ、今日はこの辺で解散しておくか」


「そうだな」

「はぁ、疲れた」

「まさか、こんな事になるなんてね」

「バイバイ」


 レッドの言葉で解散となり、みんな各々ログアウトしていくのを見送りつつ、私も一緒にゲームからログアウトした。



***



「パパ、ちょっと相談が有るんだけど」

「ん? どうした?」


 リフゼロからログアウトして夕食後の時間。私が相談したいことが有ると言うと、驚いた表情を浮かべて父親が見つめ返してくる。


「ママも一緒にちょっとお話の時間、良い?」

「もちろん。どうしたの?」


 夕食後に早速、ここのタイミングだと思い数時間前にあった申し出について相談してみることにした。


「実はさっき、こんな事があって」


 ゲームプロデューサーである伊田さんの話について説明する。それを聞いた後に皆と一緒に出した結論についても話した。それらを一気に両親へと説明していく。


 まだ私も分からないことが多くて、あやふやな説明になってしまったかも。ただでさえ、学校の事で色々と問題を起こしているのに。これ以上、なにか心配事や迷惑になるような事をやってしまうかも。


 でも、今回のことが上手く行けばバイトをする代わりに給料を稼げる。そのお金を両親に渡せたら、親孝行になると思った。


「なるほど、良いんじゃないか?」


「うん。シホちゃんのチャレンジを応援するわ」

「ほんとに? ありがとう!」


 これから説得するつもりで居たのに、あっさりと了承される予想外の返答。思わず聞き返してしまった。両親は首を縦に振っている。


「シホは、本気でソレをやってみたいんだろう?」


 問われて、改めてじっくりと考えてみる。皆と一緒が楽しいという理由もあるが、チャンスだとも考えていた。失敗してきた今までの人生を挽回するために逃げずに、チャレンジしてみたい。


「やってみたい」

「なら、心配はせずに好きなようにやってみるのが良いな」


 思いがけないほど、両親は理解を示してくれていた。ただし一つだけ注意点として父親はこう言った。


「どうなっているのか逐一の報告だけはしてくれ。何か問題が起こったら、迷わずに相談すること。これだけは約束してな」

「無理はしないようにね」


「うん。わかった」


 予想していたよりも、あっさりと両親からの理解を得られた。色々と、学校に関してとか問題を起こしているから止められるかもと思ったけれど、そんな事もなくて私は安堵した。


 皆と一緒にリフゼロを続けられると思ったら、なんだかとっても安心していた。

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