第17話 公式PV撮影

「それじゃあ、撮影に入りますね」

「よろしくおねがいします」


 公認プレイヤーという申し出を受けて契約をした後、早速最初の活動が始まった。その活動内容とは次回のアップデートで実装される秘宝のダンジョンの紹介と、私達公認プレイヤーについての説明をしてくれるPVを制作する事だった。


 その時に流れる映像を撮るために、ゲームにログインしてゲーム内のフィールドで撮影が行われる事になった。場所は、イニティアナの街にほど近い所にある草原だ。初心者プレイヤーが、最初に来てモンスターとの戦いを学ぶ場所だ。


 魔法使い装備を身に着けて杖を構える私。3Dモデルデータのカメラを肩に担いだ撮影スタッフ、台詞や周辺の音を録音する音響スタッフ、現場で作業指揮をする監督の四人が集まっていた。仲間のレッド達とは別れて個人での撮影である。


 ゲーム世界の中だから、本当は撮影のビデオカメラも収音のショットガンマイクも無いままでも、ゲーム映像を録画して編集することが出来るらしい。だけど、撮影の雰囲気作りと目線を意識しやすいように、口径が大きいテレビの撮影をするような、ビデオカメラのモデルデータと撮影スタッフをわざわざ用意してくれたらしい。


「あれ、何やってるの?」

「公式のお知らせに載ってた。PVの撮影って書いてあったよね」


「すごいリアルだなぁ」

「あれ、あの子。広場で歌っていた、めちゃくちゃ歌が上手い子」


「ほんとだ」


 撮影現場の周りにプレイヤーが、どんどんと集まってきていた。公式ホームページで事前に撮影について告知していたらしい。そのせいか、現場には数十人の見物人が周りを囲って集まっていた。人だかりを発見したプレイヤーも更に集まってきて、徐々に見学者の数が増えていった。


 見物人の中に、私の操作しているキャラクターを知っている人も居るようだった。アレって、例のあの娘? 広場で歌っていた? と話し合っている声が聞こえてくる。


 本当に映画やドラマ撮影かのような状態になっているな。でもここは、仮想空間の中だ。リアルとは違う。


 見学は出来るけれど、私達が撮影している場所はスタッフ以外には立入禁止区域というものに設定されていて、一般プレイヤーは立ち入ることが出来ない状態に出来るらしい。だから、周りに居る見物人もこれ以上は近づいてこれない。


 なかなかに手の込んだ事をしているが、これもプロモーションの一環として必要な活動だからやっている、と事前に説明を受けていた。納得の行く話だった。


 リミットファンタジーゼロのモットーは、リアルな世界観を追求する事だという。キャラクターの3Dデータも有るので、コンピュータだけを使ってCG制作によってPVを全て完成させることも可能だ。しかし実際にキャラクターをプレイヤーが操作し演技して、撮影する行為をして見物人まで集めて、リアル感を出すという事が目的らしい。


「では、先程の打ち合わせ通りに。最初の魔法をお願いします」

「いきます!」


 ちゃんと撮影前の打ち合わせもあって、細かい撮影プランの説明を監督から受けていた。リハーサルまで済ませて、本番に挑む。


 私は、杖を構えて集中しているように見せるためにギュッと目を閉じた。というのは建前で、見学者が多いので緊張してしまうから気にしないようにするため目を閉じた、というのが本音。


「イグニスよ、怒り狂い敵を打ち払え。エクスプロージョン!」


 パッと目を見開いて杖を前方に向けて呪文を唱える。撮影用の的として用意されていた、ハリボテのモンスターに魔法を直撃させる。


 ゲームシステム的には、魔法の名前だけ口に出せば音声認識でスキルが発動する。けれど、雰囲気作りのために用意された本来は必要ない呪文も唱える。


 習得しているスキルが発動して、眼の前でバッと爆音が鳴って、大爆発が起こる。撮影の為に用意されたハリボテのモンスターが爆散して、キラキラと火花が飛び散り爆炎が舞う。派手な見た目に相応しい量のマジックポイントが消費された。


 戦闘では、なかなか使う機会の少ない魔法だった。でも、ダメージ量はそこそこに多いので先制攻撃に使うか、もしくは緊急時に目眩ましの為に使う場合もある。通常のダンジョン攻略では、稀なシチュエーションだが。


 見栄えがするので、最初の魔法に選ばれたのだろう。私も、リフゼロの中で好きな魔法の一つだった。


「オッケーです。とっても良かったですよ」

「ありがとうございます」


 監督から撮影終了という言葉が聞こえた。お褒めの言葉も言われたので、私は頭を下げて無事に終わって、スタッフ達にお礼を言う。




「一週間後にPVは公開予定なので、皆さん是非御覧ください」

「お願いします」


 この場での撮影が終わった後、移動する前に集まってきていた見学者達には監督が宣伝する。私も、一緒に宣伝して見てもらえるようにお願いした。


「PV、公開されたら絶対に見に行くよ」

「楽しみにしてるね」

「頑張ってー!」


 見学していたプレイヤー達から優しい応援メッセージにやる気が漲る。この場での撮影は終わったので次の現場に移動だ。現実とは違って、ゲームの世界だから一瞬で場所が移動できてしまう。


 そして、一言か二言のセリフを言って次の現場に移動。それを三箇所繰り返して、全ての撮影は終わった。


「お疲れさまでした、フォルトゥナさん。撮影は以上になります」

「ありがとうございます」


 一応、予定では一日ぐらい掛かるというスケジュールを取られていたみたいだが、半日も掛からずに終わってしまった。私が想像していたよりも意外とあっさり撮影は終わる。


 スタッフ達も、思っていたよりも早く終わりましたね、と言っていた。どうやら、彼らも今回のような事をするのが初めてで慣れていない様子。時間の見通しが立っていなかったのか。


 撮影はかなり緊張したが、見た目は普通に落ち着いて振る舞えたと思う。この後に予定されている他の皆の撮影。その時にどうだったのか、皆にも話を聞いてみたい。そして、公式PVの完成が待ち遠しい。早く完成版を見てみたいと思った。


 この撮影したPVが公開されたら、私達は正式に公認プレイヤーとしてデビューということになる。非常に楽しみだった。

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