閑話2 両親の志穂への気持ち
長女長男の順に子供を授かり、夫と私は幸せに暮らしていた。
姉の志穂は小さな頃からしっかり者で頭も良く運動もできるような、自分の娘だがまさに完璧と言えるような女の子だった。
弟の
そして、夫の
ある日の事、珍しいことに志穂ちゃんが登校する時間になっても部屋から出てこなかった。彼女の部屋に確認しに行くと、顔色を悪くしてベッドに寝ている志穂ちゃんが居た。
「シホちゃん、起きてる? 学校の時間よ」
「ごめんなさい、ちょっと具合が悪くなって……」
日頃から健康に気を使って、今まで病気らしい病気もしてこなかった志穂ちゃんがベッドの上に横になって起き上がってこない。これはただ事ではないと、無理はしないように休むように言っておいて、学校にも私から休むという連絡を入れておいた。
ただの風邪だったとしても志穂ちゃんが病気にかかるなんて非常に珍しい事だったから、私はすごく慌てた。
まさか他の可能性で具合を悪くしているとは考えもしなかった。翌日になっても、同じ様な症状で苦しんでいる志穂ちゃんを見て、すぐに病院へ連れていくべきだなと感じるようになった。
なのに本人は休めば治るから、家で休ませておいてと言って病院には行きたがらなかった。医者に診てもらわないと危ない病気かもしれないからと説得を続けたのに、病院に行く意思を見せない志穂ちゃん。迷惑がかかると、家族なのにすごく遠慮してくる。本人が行きたくないと言うので、何か起きた時の為に注意しながら様子を見ることにした。
流石に1週間も経って症状が改善しないのを見て、私は無理やり志穂ちゃんを病院に連れて行くべきだったと、その時になってようやく思った。
病院に連れて行って志穂ちゃんの症状が判明した。風邪など身体的な病気ではなく精神的に病んでいる事が分かった。さらに詳しく話を聞いてみると、学校でイジメに遭っているという事実が発覚した。
それから私は夫と毎日のように、どういう対処をするべきなのかについての相談を繰り返し、志穂ちゃんの今後についてを考えてきた。それから、学校とも何度か話し合いを行ってきた。結果的に志穂ちゃんは学校を休学という事になった。
それが良い選択だったのか悪い選択だったのか私には分からない。正解が分からないから、子供の将来に責任を強く感じて怖かった。けれど一番の目的は志穂ちゃんが生きて幸せを感じてくれる事だったから。それだけを考えて色々と行動した。
学校に通わないようになってからしばらく経って、徐々に表情も明るくなってきたように思う。もともと志穂ちゃんは表情に感情が出ないから、注意深く見ないと分からなかった。それでイジメの件を見逃してしまったから、今度は間違えない。
最近は、笑顔を見せることが多くなったように思う。どうやら、学校以外の場所で友達が出来たようで私は少しだけ安心した。
そんな友達になった子たちと一緒になって、後に娘があれ程の凄い存在になるとは、この時には夢にも思わなかった。
***
自分の娘と一緒に、テレビゲームを楽しめる日が来るとは思わなかった。世間一般の普通な女の子と比べたら、ちょっと変わっているのかもしれないけれど、うちの娘はゲームが大好きだった。
化粧や美味しいお菓子なんかにも興味を持っていて、女の子らしい一面もしっかりとあるけれど、それを超越して志穂はゲーマーだった。可愛い娘と一緒になって趣味を楽しめるなんて最高の娘だと思う。
学校で娘がイジメの被害に遭っていると聞いた時には、目の前が真っ暗になるほどの怒りに震えたが、一旦冷静になる。ここで感情に身を任せ学校を責めに行っても、志穂の為にはならないから。
とりあえず、まずは問題が解決するまで悪影響を及ぼすような環境から引き離す事が大事。ということで、学校には行かなくていいと言うため休学にしてもらった。
それから、志穂がどうしたいかを決められるように。学校復帰、別の学校に転校、通信制の高校に入り直しても良い。とにかく彼女の選べる将来の選択肢を、なるべく沢山用意してあげたいと思った。
志穂が一番に楽しいと思えるのは何だろう、と考えた時に思い浮かんだのはやはりゲームだった。安易とは思うけれど、喜んでもらえたのならなによりだから。志穂と会話ををして欲しいと思うような物を探り、突き止めた。
偶然を装いつつ、VRデバイスが手に入ったと伝える。志穂の喜んだ顔が見れて、ヨシッ! と思った。VRMMOにズブズブとハマっていくのを見て、ちょっとだけ心配になったけど問題はなかったみたいだ。
VRデバイスを仕事で使うからという表向きの理由、VRデバイスを使ってみた時の感想も教えてと言っておいたら、数日後にはちゃんと使ってみた感想をまとめて、本当に教えてくれたりもした。
この時に出会ったVRデバイスが、後に娘の将来を大きく決める事になるとは思いもしなかった。
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