第19話 公開生放送、ダンジョン攻略スタート
「これ、もう見えてるんですか?」
「映ってます。ほら、ココがカメラになっていますよ」
緋色の秘宝が眠ると言われているダンジョンの入口付近に、私達は立っていた。煌々と篝火が焚かれている場所。これから初めてこの緋色のダンジョンに入っていくのだが、その様子がゲーム内で公開生放送されるという。放送時間は、1時間を予定している。タイムリミットがある状態で行けるところまで行くという内容。
映像を撮影するビデオカメラはどこに有るのか聞いてみると、エリノルが空中を指差してレンズはココに有るぞと教えてくれた。確かに、そこに透明な何かが浮いていた。これが撮影しているレンズか。
ちょっと身体を動かしてみる、すると私の動きに追従してレンズが勝手に移動してくれるようだ。遠隔操作されていて自動的に撮影してくれている。その様子がネットとゲーム内で配信されて、誰でも見られる状態になっている。
「ウィンドウを開けば、プレイヤー達からの反応がメッセージで確認できますね」
私は、ウィンドウを開いて確認してみた。すると、既にもう撮影されている映像が画面に映し出されているのが確認できた。こうやって、手元でも公式生放送の模様を見れるようになっている。そして、確かに次々と視聴者からのメッセージが送られてきていた。
たった今、リアルタイムで撮影している映像が放映されていて、映像が写っている画面の横には、上から下へメッセージがずらりと並んでいる。
プレイヤーが一人ひとり送ってきてくれた感想などのメッセージを、リアルタイムで読めるようになっている。
【見えてるよ】
【見えてる】
【画面に映ってますよ】
【緋色ダンジョン初攻略に期待】
【無知なアホアホお嬢様カワイイ】
【お姉さん騎士の言うこと、よく聞いてお嬢様】
公開されている生放送の映像を見てくれている視聴者プレイヤー達が、私達に向けてのメッセージで反応を返してくれている。
「なるほど。教えてくれてありがとう、エリノル」
「いえいえ。恐れ入ります、フォルトゥナ様」
生放送中に視聴者達の感想コメントなどが入力されると、私達の元に送られてきてメッセージとして読むことが出来る。一方的ではなく、双方向で対話をしている感じで反応が返ってきて、すぐさま確認できるようになっている。
キャラクターに成り切っているエリノルが、丁寧な喋り方になって教えてくれる。私も演技をして、敬称を省略して彼女のことを呼ぶようになった。貴族の娘と護衛をする女騎士だ。
「準備はいいか、皆」
レッドの号令で、皆の注目が一つに集まった。雰囲気が一気にピリッと、緊張感が漂う。
「前回の皆との冒険から、レベルやスキルが変化した者は居るか?」
「俺は変化なし。最近、色々と用事があってレベル上げ育成できてなかったから」
「同じく」「私も」「ないです」「うん」
ダンジョンへ突入する前に、皆の状況について最終チェックを行うレッド。事前に把握しておいて、ダンジョン内では指示を出してくれる頼れるリーダー役を務めるから。そして、確認された皆は特に報告するような大きな変化はないと答えた。
「わかった。それじゃあ、いつものように行こうか。持ち込みアイテムで忘れ物はないか、ティティアナ?」
「大丈夫です」
以前ティティアナは、ダンジョンへ突入する際に必要な物の準備を忘れてきた事があった。皆で一旦ダンジョンから戻る羽目になったという出来事である。
それ以来、毎回のようにレッドから持ち物確認されていて、頬を赤く染めて恥ずかしそうな表情でティティアナが答える、というのが恒例となっていた。
ちなみに頬を染める表情について、VRデバイスがティティアナの感情を表情から読み取って、本当に恥ずかしいと思っている彼女をゲームの世界にいるキャラクターに、しっかりと反映されている。すごい技術だ。
「よし。今回は本気で行くから、ネタ装備の持ち込みは無しだぞヴェル」
「分かってる。ほらこれ、マジ用の装備を持ってきたから心配するな」
ヴェルは、手に持つハンマーを掲げて見せた。それを確認してレッドは頷く。彼はスキがあれば、自分で製作した武器を試そうとダンジョン内へ持ち込もうとする癖がある。鍛冶屋をしていて、常日頃から幾つもの武器を生産しているので、その性能を試したいそうだ。
だがしかし、今回は公式生放送ということで本気で挑むつもりのレッドにダメ出しされて注意されていた。
「エリノル、お嬢様の護衛には細心の注意を」
「もちろんです」
ここではロールプレイで役になりきって注意を促すレッドと、役になりきって答えるエリノル。熟練の冒険者と鎧を身にまとった騎士。二人のやり取りを見ていると、本当にアニメのワンシーンにあるような、画になる感じがあった。
「フォルトゥナ様、後方からの援護を頼みます」
「任せてください、頑張ります」
続けて、私に対してもロールプレイで会話を続けるレッド。せっかくなので、私もソレらしい振る舞いとして装備している杖を掲げて返事をした。この杖を使って魔法を操り、後方から支援するのが私のダンジョン攻略での役目だ。
「じゃあ、ブルー行こうか」
「おっけー」
リアルでも知り合いで、信頼を置いているブルーに対してだけレッドも親しそうに声を掛けている。いい感じに緊張感も和らいで、万全の状態となった。
【うぉぉぉ雰囲気すげえ良いじゃん】
【親しい関係最高】
【お嬢様が最高にお嬢様してる】
【守られててカワイイ】
【事前準備が厳重だね】
【これが攻略組の風格!】
【パーティー構成はコレでいい感じ?】
【前衛二人、後衛二人、状況によって変える二人】
【完璧ではないが、まぁ上々って感じ】
【自分はまだ怖くて緋色ダンジョン入れてないから参考にしよ】
【放送内で有用な攻略情報を求む】
「よし、行くぞ!」
「おー!」「っしゃあ!」「よし」
ウィンドウを開いて、プレイヤーから送られてきているメッセージを横目で確認しながら、私はレッドの後に続いてダンジョンに突入した。
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