第20話 緋色の秘宝ダンジョン

 私達6人がパーティを組んで、ダンジョンを攻略する場合の陣形は次のような感じだった。


 まず前衛を務めるのが戦士のレッド。それから騎士のエリノル。この二人が、前に出てモンスターから皆への攻撃を受けながら戦う。


 レッドは、戦士という役職だった。戦士は、近接武器を使った時の攻撃力が非常に高いという特性がある。


 そして、同じ前衛を務める騎士エリノルも近接武器を使った時に攻撃力が上がるという特性がある。けれど、戦士程のステータスアップは無い。その代わりに防御力が他の役職に比べて高いというのが騎士の特性だった。


 なので、敵からのヘイトを集めて攻撃を一身に引き受ける。そして、パーティから受けるダメージを減少させる役割を担っていた。


 前衛と後衛の中心に立って、状況によって切り替えるのは狩人のブルーと鍛冶屋のヴェル。


 ブルーは弓を使った遠距離を得意とする役職だが、短剣などを駆使して近接攻撃も可能だ。そしてヴェルは鈍器を使う強力な一撃を得意としている鍛冶屋という役職。


 鍛冶屋の特性によりアイテムを、他の役職と比べて三倍近く多く持つことが可能になる。なので、後方に下がって遠距離や回復など道具に頼る後方支援的な戦い方も彼は出来る。ダンジョン攻略で必須ではないけれど、一人居てくれたら非常に助かるという職業だ。


 そして後衛を任されている魔法使いの私と、賢者のティティアナ。


 魔法使いは遠く離れた場所から攻撃魔法を放ったり、支援魔法で戦っている仲間を強化したりするスキルを覚えることが出来る。マジックポイントが底を尽きると無力になってしまうので、常にマジックポイントの管理に気を配る必要がある。


 そして、賢者であるティティアナも私と同じように仲間の戦力強化がメインの職業だ。回復もできるので、傷ついた仲間を助ける回復役を任されている。


 それぞれで役割を担って隊列を組み、ダンジョンの中を注意しながら進んでいく。すると、ブルーが進む方向の先に何かを発見した。


「未知のモンスター、3体。多分スライム」

「3体、私も確認しました。他にモンスターは見当たりません」


 ティティアナも同じく発見して皆に報告する。ブルーとティティアナの二人で敵をダブルチェックしている。モンスターの接近を見落として、不意打ちされて全滅してしまうという可能性もあるから細心の注意を払う。


 ブルーの習得している”チェック”というスキルは、敵が近くにいる場合に知らせてくれる。


 ティティアナの”スキャン”というスキルは、指定した範囲内に敵が存在しているかどうかを確認することが出来る。どちらも敵を発見するスキルだ。


 スキルを使わなくても目で見て、隠れている敵を発見することは可能。けれども、薄暗いダンジョンを進んでいる間に敵を見つけるのは難しい。


 ということでダンジョン攻略中、ティティアナとブルーの二人がスキルを使って、敵の発見に務めていた。


 緋色の秘宝ダンジョンに足を踏み入れてから初めて、緑色をしたスライム状の敵を発見。初見のモンスターだった。


【初戦闘キター!】

【敵の発見めちゃ早ッ。早くない?】

【狩人なら簡単よ。むしろ遅いぐらい】

【さて戦いのお手並み拝見】

【頑張ってお嬢!】

【モンスターの目撃情報記録を忘れるな】


 攻略の様子を見ているプレイヤー達も本日初戦闘に興奮しているのだろう。一気にメッセージ欄が文字で流れていく。


「ティティアナ、記録を頼むよ」

「もう終わった」

「オッケー」


 敵モンスターの情報は記録という行為をして街に持ち帰ることによって図鑑というシステムに記録される。そして、次回の冒険からはモンスターのレベルや残りの体力なんかも見るだけで分かるようになる。出会ったモンスターは記録して、図鑑を埋めていけば、どんどんダンジョン攻略が楽になる。


 一部では手順が面倒だという理由で批判されてもいたが、私は面白いシステムだと思う。面倒だけれど、この面倒な手順があるおかげでゲーム攻略の楽しさや手応えに繋がったりするのだから。


 プレイヤーの中には、敵の情報をわざと記録をしないで無知の状態でダンジョンをクリアする。という縛りプレイを楽しんでいるような、ぶっ飛んだプレイヤーも居て楽しい。


 だが、ダンジョンの中には数百種類ものモンスターが生息している。それら全てのデータを覚えきるのは非常に大変で、ちょっとでも油断するだけでモンスターに負ける可能性だってある。だから縛りプレイになり得るのだろう。


 このように、このモンスターの情報収集は非常に大事な仕事である。


【ナイス】

【ナイス】

【ナイスッ!】


 視聴者の皆が、モンスターの情報収集を素早く済ませたティティアナの事を褒めていた。モンスターの情報を知っておく事の重要さをよく知っているから。メッセージ欄が次々と、ティティアナの素早い記録を褒める言葉で埋め尽くされていた。



「よし。まずは魔法で先制攻撃をしてみよう。お願いしますフォルトゥナ様」

「わかった」


 敵の観察を終えて、一番遠くから攻撃できる魔法を使う事に。次に狩人の弓による遠距離攻撃。そして、近接攻撃にレッドかエリノルが剣で斬りかかるという段取りになっていた。


「マジックファイアー!」


 ということで、まずは最初に私が魔法を唱える。スキル名を口にして遠くに見えるモンスターに狙いを定めて、解き放つ。


 液状の緑色スライムモンスターは炎に包まれて赤に染まった。グニャグニャと火の向こうで蠢いている様子が見えている。どうやら苦しんでいる。見た目の通り、物理に耐性あって、魔法攻撃が弱点なのだろうか。しかし、一匹だけ魔法の狙いを外してしまっていた。


 その狙いを外した緑色スライムが、コチラにズルズルと近寄ってくる。


「敵の狙いがフォルトゥナ様に向いた。ブルー、弓による遠距離攻撃を頼む」

「了解」


 短時間に連続で魔法を使用すると通常よりも多くのマジックポイントを消費する。なので、攻撃の役割を交代して後を任せる。ブルーの放った矢は直撃したが、緑色のスライムは移動スピードが変わらず、何の影響もないようだった。やはり物理耐性が高いモンスターのようだ。


「近づいてきた。攻撃を受けないように注意しながら、叩け」

「おう」


 レッドとヴェルが、ズリズリっと這って接近してくる緑色スライムに逆に立ち向かって接近する。攻撃範囲まで近づいてから武器を構えて、力いっぱいに構えた武器を振り下ろす。すると緑色スライムはバラバラに飛び散って動かなくなった。


 私が最初の二匹を倒して、ヴェルが残りの一匹を仕留めてくれた。


「周辺の警戒、敵は居ないか?」

「いないみたい」

「こっちも他のモンスターが居ないか確認したが、大丈夫だ」


 緋色の秘宝ダンジョンでの初戦闘は何の危険も感じずにノーダメージで戦いを終えることが出来た。とても幸先がいい。


【チームワークはバッチリかよ】

【でも無駄が多いよね】

【わざわざ注意を引いて戦いに行く必要はなかった】

【ノーダメージで処理できたんだから良いじゃん】

【それは結果論】

【なら放置して後で処理することになったら。それこそ失敗していたかも】

【知らないくせに語るな!】


 ちょっと荒れているメッセージ欄。どうせなら敵を無難に倒せた事について褒めて欲しいと思う。まぁ、わざわざそんな事を口にもせずに私達は最下層を目指して先へと進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る