第62話 競合他社の現況

「あ、すみません。私の事ばかり話してしまって」


 今日は会議をするため皆が集まったっていうのに、自分の事ばかり話している状況に気が付いて、慌てて頭を下げて謝った。特にプロデューサーの伊田さんは、色々と仕事があって忙しそうなのに、貴重な時間を奪ってしまった。


「いいですよ。ある意味、今回の公式初イベントにも関係するような事でしたから。お話を聞けて良かったです」


 伊田さんはそう言って、私を気遣ってくれた。そして会議がようやく始まった。


「早速なんですが私達が行ってきた公認プレイヤーの事に関して、最近は他社も同じような手法をする所が増えてきているみたいなんです」


 公式がプレイヤーを操作する人間を用意して、ゲーム内でロールプレイしてキャラを演じながら、他のプレイヤーと交流するという方法を行うVRMMOゲームが増えてきている、と伊田さんは語った。


「私も見ました。他のゲームの紹介PVとか、システム紹介で書かれていましたよ」


 大和屋さんがそう言って、幾つかゲーム開発会社名とゲームタイトルを次々と上げていく。私も聞いたことのある大手老舗ゲーム会社から、新作タイトルまで色々と。


「えぇ。その辺りが、プレイヤーが操作する公式キャラクターというのをゲーム内に登場させているんですよね。公認プレイヤーとか、公式プレイヤーキャラ、それからVRアイドルなんて呼ばれ方で、業界内でも徐々に流行ってきているんです」


 私達が今やっているような公認プレイヤーという存在、これをやる同じ様な人達が増えてきているらしい。


「でもまぁ遅かれ早かれこうなるだろうな、とは予測していました。うちも皆さんのおかげで、リフゼロのプレイヤー数が劇的に増えましたから」


 今まで私達がやってきた活動、公式PVに公式番組により知名度が高まっていって新規プレイヤーが増えた、今回のイベントも公認プレイヤーが居たおかげで認知度が上がったと伊田さんは評価してくれた。


 だから、他社も真似をして同じ様な手法で新しいプレイヤーを増やしたいと考えるのは、自然なことだと伊田さんは納得していた。


「こういうのって、阻止できないんですか? 著作権とか何かで訴えたりして」

「残念ながらアイデアに関しては、著作権法では保護されないんだよ」


 私の疑問に答えてくれたのは、レッドを操作している石坂さん。


「例えば、フォルトゥナというキャラクターデザインを、そのままで無断使用すると著作権に引っかかるけれど、公式で認めた実在するプレイヤーがキャラクターを操作する、という方式についてはアイデアとして著作権侵害を訴えることは出来ないんだよね」

「なるほど」


 補足説明してくれたエリノルの伊礼さんの言葉を聞いて、なんとなく理解できた。同じ様なアイデアで、商売しようとする人達を阻止することは出来ないらしい。


「うちはアイデアを最初に出したという先発優位によって、まだ優位なポジションに位置できているんで大丈夫です」

「私達が現れるまでは、他に公認プレイヤーのような存在は居なかったですもんね」


 ゲームでお金を稼ぐ。大会に出場して報酬を稼ぐプロゲーマーともジャンルが違うし、ゲームサーバー内の上位組に位置するトッププレイヤーとも違う。


 ゲームの物語に登場するキャラクターとしてロールプレイをして一般プレイヤーと交流をする。公認プレイヤーというのは、そんな方法であると私達は認識している。そして、そんな事をしているVRMMOはリフゼロが初めてなのは確かだ。


「このまま同じようにゲーム内でロールプレイして、公式番組に出演して、ゲームの運営に関わっているだけでは、今後も増えていくであろう他社の公認プレイヤー? 公式プレイヤーのキャラクター? VRアイドルという存在の中に埋もれてしまうと思います」

「そうですね」


 だんだんと、ビジネスのお話になってきた。私はただ楽しくリフゼロをプレイしていたいと思うけれど、そうも言ってられないか。既に私は給料を頂いて、曲も作ってもらってビジネスに大きく関わっているらしいから。


「そこで! これから我々も新たな取り組みをしていって、公認プレイヤーとしての存在を確実なものにしていこう、と考えているんです」

「ほー」


 千木良さんが感心する声を上げた。私も、伊田さんがいろいろ考えているんだなと心の内で驚いていた。でも、当然なのか。リフゼロのプロデューサーをしているから何とかゲームを売り出すために作戦を考えないといけないんだな。大変そうだ。


「ということで、フェニレート社ではフォルトゥナさんをメインに押し出していこうと考えています」

「私!?」


 突然の指名に驚いた声を上げてしまう。というか、このパターンは公式番組の歌を作ることになった時と同じ様な流れみたいだな、と私は思った。

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