第61話 勝負の結末

「数日前にソフィアさんから、勝敗の件についてのお話があります、っていう内容が書かれた個人メッセージでのが送られてきたんですよ」

「へぇ、向こうから会う約束を取り付けてきたの?」


 エリノルの問いかけに私は頷いた。


 イベントが終わってから翌日の事だった。彼女からメッセージが送られてきた事に気が付いて、私はすぐに返信した。すぐに、場所と時間を指定して会えるかどうかの確認の連絡が来た。


 パーティー加入の件についての話もあったので、レッド達みんなを呼んだ方がいいかもしれないと一瞬考えたけど、今回は私が勝っていたので一人で会いに行くことにした。


「うん。それで、私1人だけでソフィアさんに会いに行ったんだけど」


 ダンジョンRTAのクリアタイムによるランキングが発表されて、勝敗は決した。


 私は12位にランクインして彼女は55位という順位だった。結果は出たけれど、わざわざ勝ち負けをハッキリと言うつもりは無かった。そのまま、しれっと有耶無耶にして、一緒にリフゼロを遊ぶ友達になれたらいいなと思っていた。


 そう考えていたんだけれど、向こうから勝敗に関してと連絡があったので私は会いに行った。


「すると、出会っていきなり謝られたんですよ」


 リフゼロのゲーム内で会おうと約束した場所に向かうと、そこにはソフィアさんが待っていた。勝負についての話をするのかと思いきや、いきなり面と向かって謝られたと説明をする。


 ……本当は目の前で土下座されて、未熟なのに無知で勝負を挑むだなんて非常識でした、と謝られたんだけど。土下座された事については、本人の名誉のために隠しておこう、と思って口にはしなかった。だけど。


「たしか目の前で、地面に頭がつくまで土下座されたんだろう?」

「えっ!? なんで知ってるんですか」


 レッドから、そう言われて反射的に思わず本当のことを言ってしまった。驚いて、言ってしまった後に、やっちゃったと思ったけれど、もう遅い。


「掲示板で、ちょっとした話題になってたんだよ。それを見て知っていた」

「うわっ……あの場面、誰かに見られていたのか。しまったな」


 あの時、私達が会ったのは普段から人通りが少ない場所。その時も周りには、誰も居なかった事を確認して急いで頭を上げさせた後に、急いでその場から移動した。


 なのに、レッドの話によれば誰かに見られていたらしい。しかも、掲示板に書き込まれたとなると周知の事実になっているということか。


 私が指示した事ではないけど、ソフィアには申し訳ない事をしてしまったと詫びる気持ちになった。私が注目を集めている公認プレイヤーだっから、彼女を巻き込んでしまったのかも。もう少し注意するべきだった。


 ソフィアには後で謝らないと。気持ちを切り替えて、皆への説明を続ける。


「えっとまぁ、それで私達は場所を移動してからダンジョンRTAの勝負について、2人きりで話をしたんですよ」


 私のプライベートルームまで、謝り続けている彼女の手を引いて魔法を使った瞬間移動で場所を移動した。


「勝負は決したんで話は終わりにしようと思ったらソフィアから、勝った者の褒美は何にするのか、という話し合いが始まったんです」


 ソフィアが順位で私よりも上位になって勝った場合には、彼女を私達のパーティーに加える、という約束だった。


 だけど、私が勝った場合の条件については事前に話し合っていなかった。そもそも彼女はリフゼロ初心者だったし、私のほうがリフゼロを先に始めていたしプレイヤースキル的にも有利だったから、褒美は無しでいいよと伝えようとした。その直前に、彼女の口からからこんな提案が飛び出た。


「そしたら、なんでも言うことを聞きます! って言ってきたんですよね」


「なんでも?」

「はい、”なんでも”って言ってました」


 本気でソフィアは、私の言ったことを”なんでも”実行するつもりのようだった。


「それは、思い切った提案だね」

「対応に困りました」


 もちろん私は彼女の提案をすぐに断って、褒美はいらないと伝えた。けれど彼女は聞き入れなかった。しかも、手持ちの装備とお金やアイテムを全部譲渡すると言ってきたり、これからダンジョンを探索する時には奴隷のようにこき使ってくれたら良いと提案したりしてきて、何度も断っているのに聞こうとしなかった。


 ソフィアのツンツンしていたような態度が、イベント前と比べて180度変わってしまい、接し方が分からなくなった。彼女の方から急に距離を詰めてきたので、私は引いてしまった。


「ソフィアさん、思ったよりコミュニケーションを取るのが下手な人だったんだ」

「初めの出会いも、もしかしたら仲良くなりたかったのかな」


 ティティアナが辛辣な意見を口にする。エリノルの言う予想を聞くと、そうなのかもしれないと納得ができた。私も人のことは言えないけれど、コミュニケーションが苦手なのかも。


「仲良くしたいな、って思ってたけど急に距離を詰められて対応に困っちゃって」

「なるほどなぁ」


 とりあえず勝敗の褒美について一旦置いておいて決めずに、その場は別れることにした。


 その後についてはソフィアの相棒であるレオナルドと情報交換して、彼女の接し方について改めて模索中というような状況だった。


「一応イベントでの勝負の件に関しては解決した、のかな……」


 また新たに解決しなければならない問題が発生したけれども、勝負の件に関しては解決したと言っていいだろう。言っていいのかな?

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