第63話 リフゼロのイチオシ

「なぜ、私なんですか?」


 私以外に、可能性がある人が居る。私達、パーティーでメインに据えるべきなのはレッドだと思う。リーダーで皆をまとめる役だし、名前からしてもトップに立つべき人だ。あとは、今回のイベントでも2位という凄い結果を残したから。これから全面に押し出していくのなら、彼の方が適任だと私は思うんだけれど。そんな事を考えながら問いかけた。


「フォルトゥナさんを選んだ理由は2つあって、一つは歌です」

「うた?」


 そう言って伊田さんは、何かの資料を取り出してきて私の目の前に置いた。というか、事前に用意していたらしい。その用意周到さに驚く。

 

「これをご覧ください。この週間シングル売上ランキングの一位を」

「あ、このタイトルは」


 伊田さんが指をさした箇所に、公式番組で流しているオープニング曲のタイトルが載っていた。私が歌ったあの曲、歌手名の所にはフォルトゥナの名がある。


「そうそう、これ! 凄いよ志穂ちゃん」

「私も見ました。凄いですよ」

「へぇ、あの曲は良かったからね」

「これはスゴイ」

「快挙だな。有名歌手の知り合いができた」


 話を聞いていた皆が、口々に褒めてくれた。というか皆は知っていたのか。私は、初めて見た。


「タイミングも良かったようで、有名なアーティストとぶつからなかったから1位にランクインできたようです。いや、これはフォルトゥナの実力か」


 私が歌った曲が25万枚の売上を記録して、週間売上げランキング一位に入賞したらしい。こんなに凄いランキングに載れたという事は、確かに快挙だった。


「……」


 あの曲がこんなにも売れていたのかと思い、驚きすぎて声が出なかった。良い評判ばかりを聞いて噂になっているのを耳にしていたので、歌に関してこれ以上褒め言葉を聞き続けるのが恥ずかしくなってきて、周りから聞こえてくる評価の情報について極力遮断していた。


 というか、こんなランキングに載るとは夢にも思っていなかったから。知らぬ間にまさか、こんな事になっているなんて。


「この結果から、世間一般にもフォルトゥナの知名度が上がってきているんですよ。実は、この件で雑誌からインタビューの問い合わせとかもありました」

「はぁ……、そうなんですか」


 突然の説明に、まだ実感が湧かない。問い合わせについて、詳しい内容に関しては後で話しましょうと伊田さんに言われた。フォルトゥナというキャラクターは、リフゼロの世界を飛び出して、世間一般の人にも認知されてきている事実を知って、私は放心状態になる。


「それからもう一つ、魔法学校生徒会は覚えてますか?」

「もちろん、私がギルドマスターを務めているギルドですよね」


 第一回の公式番組で私が出演したとき、新システムとして紹介をしたギルド制度。その番組内で立ち上げた、私のギルドの名前だった。


「そのギルドに所属している人数は今、何人ですか?」

「ありがたいことに、所属してくれる方が今もどんどん増えてるので正確な数字とかは覚えてないんですが、たしか21万数千人ぐらいです」


 私がギルドの所属人数を口にした瞬間、会議室の中がザワッとした。


「え!」

「多いね」

「そんなに?」

「それも凄いねぇ」


 驚きの声を上げる大和屋さん達。え、なんでだろう。他の皆もギルドを立ち上げ、ギルドマスターを務めている。同じぐらいの人数が所属をしていると思っていたら、違うようだった。


「そ、そんなに多い?」


 皆が驚いている事に私も驚いてしまった。問いかけると、頷いて肯定される。私が口に出した数字って多かったのか。他の皆と、今まで比較したこともなかったから、知らなかった。


「伊礼さんがギルドマスターを務めているギルドも、私のギルドと同じぐらいの人数が所属してるのでは?」

「いや。フォルトゥナ様親衛隊は、今現在で10万人を突破したところだよ」


 同じタイミングで一緒に立ち上げた、口に出すのはちょっと恥ずかしいギルド名をしている、あのフォルトゥナ様親衛隊も同じぐらいの人数が所属していると思った。だが実際は、倍近く所属人数が違った。


「いや、それでも結構多いけど。その倍の人数が所属してるなんて多いよね」


 千木良さんのつぶやきに、私はそうだったんだと思った。


 所属できるギルドの数に制限は無いから好きなだけ選び放題で、所属し放題だし。私のギルドに、これだけ多くプレイヤーが所属してくれているならば、他のギルドも同じぐらいのプレイヤーが所属しているんだろうと考えていた。


「いえ、そんな事は無いですよ。小野間さんのギルドに所属している人数は、頭一つ抜けていてダントツだったんです」

「そうだったんだなぁ」


 いま判明した、私にとって驚愕の事実。というか、このギルドに所属してくれてる人数の多さで人気度を測ろうとしているのか。まぁ、私のギルドだと知って所属してくれているんだと思ったら、所属人数の多さで人気度を測れるのかな。


「それらの事実から分かる通り、現実世界もリフゼロにもフォルトゥナさんのファンが数多く居ます。一押しキャラクターとするのに適任なんです」

「……っ、な、なるほど」


 フォルトゥナというキャラクターが、多くのプレイヤー達から望まれていることは理解した。顔から火が出そうなほど恥ずかしい思いだが、納得する。


 そうか、私じゃなくて”フォルトゥナ”というキャラクターが人気なんだなと考えると、少しだけ落ち着くことができた。


「”フォルトゥナ”を押し出していく方針だというのは分かりました。それで、具体的に取り組みって何をやるつもりですか?」

「ズバリ、歌です」


 よくぞ聞いてくれました、というような表情を浮かべながら伊田さんが発表した。やはり、またかという思いが私の心に浮かぶ。


「今度はライブを実施したいと考えています」

「ライブ?」


 伊田さんの言葉を聞いて、思わずそのまま聞き返してしまう。リフゼロの話じゃなかったのだろうか。


「はい、その通り。ゲーム内にある仮想世界で初のライブを実施したいと思います。そしてゆくゆくは、現実世界でも」

「え? ちょ、ちょっと待って下さい。現実世界?」


 ゲーム内でライブを行うという事は、たしかに斬新だなと思った。ただ、その次の発言が理解できない。現実世界でライブを実施する?


「はい」

「私、顔を出すんですか?」


 現実世界ということは、リフゼロの世界じゃないということ。私は、リアルな姿を晒すことになるのだろうか、と考えた。


「いえいえ、現実世界でも”フォルトゥナ”というキャラを演じていただきます」

「えぇ……?」


 困惑しっぱなしの私。伊田さんの説明によれば、最新のホログラム技術というのを駆使して、3Dキャラクターを空中に投影して現実世界でのライブを実現するという事が可能らしい。


 具体的な方法まで既に調べているし、伊田さんが計画を実現しようと本気で考えているらしい事が理解できてしまった。


 どうやら私は、近い将来にフォルトゥナとしてライブ・コンサートを行う事になるらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【未完】仮想世界のVRアイドル キョウキョウ @kyoukyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説