第9話 冒険者ギルド
「え~っと、コッチかな」
「街の中、マップかなり広いですね」
「アタシも街中を歩く時にはマップでルートを確認しながらじゃないと、迷っちゃうからなぁ」
私はエリノルに案内されながらクエストを受けられるという場所に向けて、彼女の少し後ろを付いていく形で歩いていた。見える景色が日本とは全く違うから、歩いているだけで海外のような風景を楽しめる。
「このイニティアナって街、ゲームのスタート地点なのにめちゃくちゃ広いからね。それに作り込みが半端じゃなくて景色も凄いし」
「確かに。私も思いました。めちゃくちゃ景色が綺麗だって」
手元のウィンドウには街のマップを表示させて、目的地へのルートを確認しながら前を歩いて案内してくれるエリノル。彼女の言う通り最初の街だけれども、かなりの広さが有ったからマップは確かに必須だった。
それだけの広さがあるのに、見える風景にはコピーしたように同じに見える景色は一つもない。気付いていないだけかもしれないが、それでも凄く手間が掛かっているだろう。この街だけでも、作るのに一体どれだけの労力を要するのだろうか。
「あった。この場所で話を聞いたら最初のストーリーが始まるから。それでクエストを受けられるようになるよ。それじゃあアタシはここで待ってるからフォルトゥナ、行ってきて」
「分かりました。ちょっとだけ待っていてくださいエリノルさん。すぐ戻ります」
「いってらっしゃい~」
到着した建物は冒険者ギルド。この建物の中に入ればイベントが発生するという。エリノルは、もう終わったイベントらしいのでまだ完了していない私だけ一人で入り確認する。
建物の中に入ると、言われていた通りNPCとの会話がスタートして、ストーリーが進行していった。冒険者、ギルドシステムに関する説明を受ける。
ちなみに、私が操作をしているキャラクターがなぜ、このイニティアナという街に居たのか。それは、ゲームが始まる以前の出来事の設定が関係している。
フォルトゥナは、魔法を学ぶために田舎から一人で都会を目指して旅に出てこようとした。その道中でモンスターに襲われて、所持金や旅の荷物を失くしつつ、命からがら逃げてきて辿り着いた街がイニティアナだったという事らしい。フォルトゥナには、そんなバックストーリーがある。
そこからゲームはスタートして今、無一文の状態なので都会へ行くためには旅費を稼ぐ必要がある。そこで金稼ぎのために冒険者の登録をして仕事を探す、というのが簡単なストーリーの流れである。
こんな小さな出来事から物語が始まり、それからストーリーを進めていくと色々なイベントが巻き起こる。最終的には世界の滅亡という大事に繋がっていくのだろう。
ギルドで話を聞いて、冒険者の登録を済ませてクエストを受ける。処理を終えて、建物から出てくると待っていてくれたエリノルが駆け寄ってきた。
「冒険者の登録は出来た?」
「はい、無事に完了しました」
「最初のクエストは受けられた?」
「はい、受けましたよ」
「よし、おっけー」
「行きましょう!」
それじゃあ行こうと言って、クエストクリアを手伝ってくれるエリノル。クエストを達成するための内容は、街の外に出てモンスターを3体狩って戦利品を持ち帰ろう、というものだった。最初のクエストらしい、オンラインゲームによくありがちな展開だ。
エリノルの話によれば最初のイベントは、プレイヤーにランダムらしい。設定した生い立ちが関係していて、ゲームのスタート地点にも変化があったりするらしい。
私はスタート時に得意な武器を杖と剣にしたから、都会にある魔法学校への入学を目指すキャラクターという事で、今回のようなストーリーの流れになったようだ。
剣をメインに選んだエリノルの場合は、騎士を目指して王都へ行こうとしたのだが道中で、モンスターに襲われて私と同じ様な経緯でイニティアナに辿り着いて、この場所でギルドに所属して、冒険者になったという流れがある。
最初の街であるイニティアナからゲームがスタートする攻略ルートは、一番多くのプレイヤーが体験するであろう、オーソドックスなパターンらしい。
中には王都に到着してからゲームがスタートするパターン、全然別の辺境の地からスタートして、いきなりドラゴンとかゴーレムという強敵モンスターと戦う事になるハードモードの特殊イベントが確認されているという。
「スタートラインがランダムになっていて、人によって違うってのが斬新だよね」
「本当ですね」
そんな会話をしながら歩いていると、エリノルが突然道の真ん中で立ち止まった。
「あれ、街の外はあっちですよ?」
私がそう言ったのだが、エリノルは歩みを止まったまま。立ち止まった所から横を向いて、ある建物を指差した。
そこには武器・防具屋という看板が設置してあった。
「戦う前の準備は大事だからね。コレを怠ったらダメダメだよ」
なるほど、彼女の言うことは正しいと思う。だが、一つ問題がある。
「でも私、まだお金とか持ってないですよ。先にモンスターを狩って稼がないと」
「大丈夫、アタシがお金を出してあげるから心配しないで」
「それは、ちょっと違いませんか? 最初の装備分ぐらいは自分で稼がないと……」
「えーヤダヤダ。そんな可愛くない服は早く着替えて、可愛い格好をしてくれなきゃヤダ!」
命からがら逃げてきた、というストーリーに沿っていて、今の私の格好は見た目がとても質素だ。質素と言うよりも、ボロボロか。コレは初期装備だけれど改めて見てみると、確かにちょっと着替えたくなってきた。
「いいんですか?」
「もちろん、いいよ! でもお金を出す代わりに、アタシに選ばせて」
「え!? えっと、まぁ……お願いします」
なんだか嫌な予感しかしないけれど少し悩んでから、装備を買ってくれるのなら、それぐらいは良いかと私は提案を受け入れる。そして、私達は装備防具屋へと入っていった。
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