第8話 ゲーマー仲間との合流
「エリノルさん、ですか?」
「そうだよ。そういう君は、フォルトゥナちゃんだね」
目の前に現れた長身の女性に確認を取ると、チャットルームでよく会話していた、あのエリノルであるという事が分かった。今まで、テキストチャットだけでしかやり取りしてこなかったから初めて声を聞いた。女性にしては力強く、透き通るような凛々しい声だった。
「やっと始めたんだね」
「はい。やっと始められました」
チャットルーム内でよく話題になっていたゲーム、他の皆はプレイしていたけれど自分だけプレイできていなかったから。本当に、ようやくという感じでプレイできるようになって喜んでいた。
そして、エリノルにもプレイできるという事をチャットルームのメンバーの中では誰よりも早く最初に報告した時に、一緒に喜んでくれた。
「ところで、話し方はチャットルームとかの時と同じ様に、会話はタメ口で良いよ。アタシも、こんな風に普通に話すよ」
「ごめんなさい、会話をする時はコッチの口調の方が慣れてて話しやすいんですよ。えっと、コレじゃ駄目ですか?」
文字を入力してチャットで会話する時には、普通に友達と接するような感じで自然とタメ口を使えていたのだが、空想世界とはいえ声を発して本人の姿を目の前にして会話をしようとすると、無意識に慣れている丁寧な言葉づかいになってしまう。コレは、二度目の学生時代において友達と話す機会が無かった弊害だろうか。
「ううん、全然いいよ! フォルトゥナちゃんの喋りやすい話し方で、オッケーだ。ちょっと気になったから、確認したんだ」
気を使わせてしまって、申し訳ない気持ちになる。そんな私に、気さくに対応してくれるエリノル。
彼女と話していると、優しそうな表情がガラッと変わって真剣な顔つきになった。突然のことに何事かと思っていると、エリノルはポツリと呟いた。
「それにしても……」
「なんですか?」
「それがフォルトゥナちゃんの作ったキャラクターかぁ」
眉根を寄せて真剣な顔をするエリノルさんから、私の姿が上から下までじっくりと見られた。まさか、女性としての振る舞いで不自然な部分があったのか。前世で男をしていた私では気付けない、何か不備があったのかとドキッとした。と思っていたら彼女は一言こう呟いた。
「可愛いね」
「そ、そんな事ないですよ! この目とか、カッコよくないですか?」
なるほど、私が操作するキャラクターを見ていたのかと安堵する。そして慌てる。まさか、いきなり可愛いと言われるだなんて、予想していなかったから。私としては可愛いと言われるよりもカッコいいと言われたい。そう考えて長時間のキャラクターメイキングをしたのに。
キャラメイクの時にこだわって作った迫力を付けるためにキリッと釣り上げた目尻を指して、どうだろうと判断を求めてみるがエリノルは首を横に振って否定する。
「かっこよさも確かに有るけど、じっくり見ても可愛いのほうが勝ってる。それは、もう十割ぐらい可愛いよ」
「十割って全部じゃないですか。望んでいた評価と違いますね。私はカッコいいって言われたいんです」
私の本心を伝えるが、エリノルは難しい顔を浮かべて腕を前で組んでいる。今の私の姿から、そんなにカッコいいという評価を得るのは難しいのだろうか。
「その顔だったらカッコいいを目指すのは難しいんじゃないかな。声も合わさって、美少女って感じしかない」
「声も駄目ですか……」
「駄目じゃないよ! めちゃめちゃ可愛い。可愛い声が見た目にも合ってるし、私の好みに直球ドンピシャって感じ」
どうやら、エリノルから気に入られたようだった。でも、カッコいいって言われたかったなぁ。
逆に、エリノルの姿はカッコいいのに。顔だけ出した全身鎧という防具を揃えていて、大剣を背負っている姿が非常に様になっている。女性なのに身長も高く迫力があって、まさに歴戦の戦士という風格があった。
なるほど、私も防具を揃えて装備していけば見てくれも変わるだろう。カッコいい彼女の身につけているような装備を集めるのが、私のゲーム優先目標となった。
「あー、でも。フォルトゥナちゃんが、こんな可愛い声をしてるだなんて予想してなかったなぁ」
「それを言うなら、私もエリノルさんが女性だとは思っていませんでした。てっきり、オジサンなのかと……」
今まで文字でしかやり取りしてこなかったので、以前教えてもらった性別が本当かどうか疑っていた。文字を読んで内容からお互いに相手の事を予想するしかないし。
「ハッハッハッ! 遠回しによく言われるけどね。そんなにハッキリと面と向かって言うとは、なかなか大物だな君は。ほらプロフィールを確認してみ。女性って書いてあるでしょ」
「確かに」
豪快な笑い声と、大きな笑みの表情を浮かべるエリノル。冗談半分だけれども、実は半分は本気で男性なんじゃないかと疑っていた時期もあった。そして、私の冗談を気にせず笑い飛ばしてくれる器のデカさもある。
彼女は常日頃からチャットルームでゲームの話題以外には、よく女の子の良さを語ったりしているような人だったから。
女の子が大好きだと公言していて、日頃から女の子の可愛らしさや愛おしさという話題をチャットルームの仲間に振っているというような人だったから、中身は男性じゃないのかなぁと信じて疑わなかった。。
しかし今回、初めて耳にしたゲーム内で聞こえてくる声は低音ボイスではあるものの明らかに女性だし、ゲーム内のプロフィールを確認してみれば、ハッキリと女性であると表記されている。
エリノルは女性だということが、事実であったと証明された瞬間だった。
「じゃあ、そろそろ雑談も終わりにして冒険に行こっか?」
「ええ! 行きましょう!!」
ゲーム世界の風景がリアルすぎて、道中で井戸端会議をしているおばさんのように話し込んでしまった。ゲームの目的は冒険をすること。ダンジョンを攻略する事だ。気持ちを切り替えていこう。
「フォルトゥナちゃんは、このゲーム開始したばっかりなんだよね」
「はい」
「それじゃあ、一番最初のクエストを受けに行こうか。それとも早速、ダンジョンとかに行ってレベル上げする?」
選択肢を2つ提示してくれた。しかし、ゲームのネタバレとかを避けるために事前知識を入れてこなかったので、どっちを選ぶべきか僕には判断できない。だから素直に、本人に聞いてみることにした。
「えーっと、どっちが良いと思いますか?」
「あ、そういえば。VR系ゲームは初めてだったっけ?」
「そうなんです。初めてだから、基本とかも知らなくって」
「それなら最初のクエストを受けに行こう。一緒に行っていいかな? それとも最初は自分のペースで遊んでみたほうが良いか」
エリノルが再び気を使ってくれて、まず一人でゲームを進めるかどうか決めさせてくれるようだった。しかし私は、せっかくのオンラインゲームなのだから一緒に2人でワイワイと楽しみたいと思った。
「付いてきてくれて構わないです。というか一緒に行って色々と教えて欲しい」
「わ~かった! お姉さんが、全部教えてあげるね。グヘヘ」
「なんですか? その気持ちの悪い笑い方」
おどけた表情と、わざと特徴的な笑い方をするエリノル。彼女に対して私はフフッと笑いながらツッコむ。
「気にしない、気にしない。早速、行こう!」
「後ろ、付いていきます」
エリノルに街の案内をしてもらいながら一緒に歩いた。二人でまずは、クエストを受けに行くところから始める。
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